沢山の歓声。鳴り止まない拍手。広がる青空。散らばっていく花吹雪。
誰もがこの試合に、このチームの勝利に、感動し、歓喜の声を上げていた。
涙で歪む視界。歓声や拍手に応えようと大きく手を振る仲間達。
日本中で集められた強豪中学生サッカーチームの世界大会、ホーリーロードで参加し、革命を起こし、優勝して、革命を成し遂げたのは雷門中。
雷門イレブンが、このホーリーロードで優勝したのだ。

皆で協力し、助け合って、手に入れた勝利と、本当のサッカー。

誰もが、その事に目に涙を浮かべたり、笑い合ったりしていた。
その仲間達がすごく輝かしくて、すごく、羨ましかった――…

「……」

本当に、よくやってくれた。
神童はそんな事を思いながら、目に涙を浮かばせつつまだ手を振っている仲間達を見つめる。
だけど、それと同時に自分の中に宿る負の感情。その感情はまだこの時までは、自分でも気づかない内に抱え込んでいた。
もう、自分がキャプテンに戻らなくても、このチームはやって行ける。
何故か、そうも思えてしまった。
そして、仲間達の中で唯一華とも言える存在へと目線を移す。

谷宮悠那。
彼女は先程の事があったせいか、少しだけ気分は落ちていたが、それでも剣城や天馬のお蔭で何とか小さく笑みだけでも浮かべる事が出来ていた。
そんな彼女を見て、神童はまた困ったような、何とも言えない笑みを浮かばせる。

一体、どんな顔をして、彼女と向き合えばいいのだろう――
そう思うのも、彼女と約束した「この革命が終わったら、一緒に楽しいサッカーをしよう」というのも守れなくなってしまったからだ。いや、正確には“まだ守れない約束”になってしまっているのだが。

「おめでとう、皆」

何はともあれ、革命終了だ―――


―――――…………
―――………

『こんにちは!』
「………あ、ああ。こんにちは…悠那」

屈託のない笑みを浮かばせて、自分に挨拶をする彼女は谷宮悠那。
何故、彼女が自分の家に居るのだろうか。確かに今日は学生にとっては幸福の日である休日。彼女が制服ではなく私服を着ているのも、全く違和感ないが(見慣れていないから違和感)、それにしたって何故彼女が自分の家に来ているのか、という疑問が渦巻いていた。
谷宮悠那という人物は雷門サッカー部の中で唯一女選手として活躍した人物で、天馬に並ぶくらいサッカーバカと言われている。だからこそ、休日も天馬と一緒にサッカーの練習をしていると聞いていた。

にも関わらず、彼女は「いつ見ても先輩の家広いですねぇ!」と呑気に家に上がりつつ周りを見渡している。
いやいやいや、待て待て待て!
突然過ぎる。今日、悠那が来るなんて聞いていない。そして、何故に上がっているんだ!?

「お、おい。何故悠那がここに…」
『え?あーえっと…先輩を驚かせようと思って、クッキー作ってきたんです!』

見てくださいよ!この綺麗に出来上がったクッキーを!と、手に持っていた籠の中を開けてみれば、そこには綺麗な袋に包まれたクッキーが顔を見せていた。
美味しそうだし、香りもとても良い匂いをしている。驚いた。彼女は確か料理はそれなりに出来ると言っていたが、お菓子作りは得意ではないと聞いていた。
それが、こんなに上手に作れるとは驚いた。
……じゃなくて!

「た、確かに驚いたが、何故悠那が俺の家に…そっちの方が驚いたぞ」
『…えっと、それは…お見舞いに…。本当はこのクッキーを渡したら直ぐに帰ろうと思ったんですけど、お手伝いさんが「坊ちゃまはお部屋におります。良かったら上がっていって下さいまし。きっと坊ちゃまとても喜びますわ」って言ってくれたんで…』

お 手 伝 い さ ん ?
今、ここでとてつもない爆弾を投げられたような気がした。“とても喜びますわ”?とんでもない、驚き過ぎて歓喜すら忘れていた所だ。
お手伝いさん、きっと彼女に対する俺の気持ちを知っているからこそ入れたな、と恨めしそうな、でもどこかありがたいと思う自分の忙しい感情に振り回されながら、ハッと我に返ったように神童はいつまでも廊下に立っている悠那を自分の部屋へと招き入れた。

「(それにしても、)」

彼女を入れるのはこれで二回目だな、と神童は密かに思った。
一回目は、悠那の相談に乗った時だった。自分の中に化身が眠っているかもしれない、どうやって呼び起こそうか、という相談に乗った時。
あまり役に立つ助言が出来たとも言えないが、自分はその時に彼女が好きなのだとお手伝いさんに言われて気付いた。いや、そもそも自分でも薄々気づいていたのかもしれない。傍にいた天馬、幼馴染で彼女に心配されている剣城、同じDFである霧野。彼等に自分は嫉妬していた。
自分に向けられる笑顔、尊敬の眼差し、表情がコロコロと変わる彼女の姿に、段々と惹かれて行ったのだ。

今更ながら昨日ここの掃除をしておいて良かった、と胸を撫で下ろした。
そして、改めて彼女の容姿を見つめる。
やはり、私服姿は慣れない。悠那も、女の子なのだ、とその私服が物語っており、自分の胸は高鳴り、脈も早くなっていき、頬も紅潮する。
自分は悠那が好き――
それを理解したら、この前とはまた違う緊張が襲ってきた。

もはや、ここまで来るとボーっとしてる時間が長かった気もする。振り返ってきた悠那の頬笑みに、自分はようやく彼女に見惚れていたと自覚したのだ。

『拓人先輩、足はもう大丈夫なんですか…?』
「え?あ、あぁ…もう松葉杖が無くても歩けるようにはなっている。走るのはまだ当分無理そうだがな、」
『…そう、ですか。でも、良かったです。足が順調に治って来ているみたいで』

そうだ、彼女はたしか怪我をしてしまった自分のお見舞いに来てくれていたのだった。自分を心配するような眼差し。順調に治ってきていると告げればホッと胸を撫で下ろし安心の笑みを向ける彼女。
そんな彼女の笑みに、吊られて自分も笑みを浮かばせる。

「ごめんな、一緒に革命起こして本当のサッカーやろうって約束したのに、こんな調子で」
『!?そ、そんな!大事にならなくて良かったですよ!それに…二度とサッカーが出来ない訳じゃないですから、怪我が完全に治って、そこから一緒にサッカーをしてくれれば、約束だって守れます!
あ、それとも守る気なかったんですか?!』
「なっ!そ、そんな訳ないだろう。俺は、悠那とサッカーをやっている時が一番好きなんだからな」
『へっ…』

ぱちぱち、と悠那が大きく目を見開かせた目で瞬きを繰り返す。徐々に熱が帯びてきたのか、彼女の頬は紅潮していく。一体どうしたのだろうか、と首を傾げつつ自分の発言をよくよく思い出す。
一字一句、繰り返して、ようやく言葉の意味を理解した時、自分もまた頬が紅潮するのが分かった。

「え、いや、あの、今のは何て言うか、その…!」
『は、はい!あの、私も拓人先輩とサッカーしている時好きですよ…!』

な、何だこれは…まるで付き合いたてのカップルのような…て俺は何思ってんだ!
もはやお互いに顔を赤らめ自ら地雷に足を踏みに行こうとしているような、そんな感じがする。
さて、この空気をどう打破していこうか、とあまり回らない頭を動かそうとしていた時だった。

「にゃー」
『「!」』

ふと、そんな声が聞こえてきた。そちらの方を見てみれば、そこには僅かに開いていた扉を開けてきた二匹の猫。
黒猫と白猫の存在に、悠那は思わず頬を紅潮させてその猫の方へ視線を向ける。

『わあ…!可愛い、先輩猫飼ってたんでしたよね!この子達だったんですかぁ!』
「ああ。アリアとリュートって言うんだ。白猫のアリア、黒猫のリュートだ」
『さすが拓人先輩…猫の名前まで音楽関係とは…』
「変、だろうか…」
『そんなまさか!とても素敵な名前ですよ!』

そんな素敵な名前を貰えて良かったねぇ、とその場にしゃがみ込むなりアリアとリュートに手を伸ばすなり頭を撫で始める悠那。驚いた、アリアとリュートはあまり人には触らせないのに、大人しく自分の頭を触らせている。
余程気持ち良かったのだろうか、二匹の猫は頭を摺り寄せたりしている。また、その姿に悶えているのか、悠那は頬を紅潮させ更に頭を撫でたりリュートなんかは自分の尻尾を悠那の腕に巻きつけたり…あ、足にも滑らせ…!?

『あはは、擽ったいよ〜』
「みゃー」

バクバク、と自分の想像したモノに、勝手に緊張している。やはり自分も普通の男の子とは変わりないのだと、健全な男児なのだと理解した。
勝手に紅潮していく顔。自分の視線は悠那の足元へ向かおうとしている。見てはダメだと、首を振り視線を逸らす。
くそ…リュートのやつ、わざとやってるのか…?!
ふるふると、邪な思考を振り払う為に首をもう一度左右に振る。くらくらとしてきた時、視界の端っこで猫と戯れていた悠那が立ち上がった。
どうしたのだろうか、とそちらへと未だに顔が赤いにも関わらず向けてしまった。

『えへへ、抱っこ出来ましたよ!』
「――ッ、」

無邪気な笑みを浮かばせる悠那。何度も何度も見て来たその笑顔。
その笑顔は眩しくて、自分は思わず逸らしそうになっていたが、目を離せない。
ドキン、ドキン、と聞こえてしまうんじゃないかってくらい胸が脈を打って、息をするのも苦しい。
思わず彼女に手を伸ばす。

「悠那、俺…」

ドクン、ドクン…
脈を打つのが、やたらとゆっくりに聞こえ、小さい息が自分の口から零れ出る。
ダメだ、彼女は自分の事はどうも思っていない。いや、尊敬はしてくれていると思う。だけれど、この感情は抱いてはいない。
だけど、無意識で伸ばしていた腕を今更戻せない。

「俺…お前の事が――」

ダメだ…!

むにゅっ

『…先輩?』
「……、」
「みゃー」

自分の手は、彼女の肩を掴もうと伸ばされていた。多分、きっと、自分は彼女を抱き締めようとしていたのだろう。多分、きっと、自分は彼女に先輩後輩の壁を壊そうとしていたのだろう。ダメだと分かっていて、伸ばされた手。ダメだと分かっていて、紡がれた言葉。
だが、その手を、彼女の腕に抱かれているリュートが制止した。そこで、リュートに感謝すべきなのか、恨むべきなのか、意外と力のあるリュートの腕に、呆気らかんとした。
そんな俺の心境を知らず、悠那はリュートと俺を交互に見つめる。

「…いや、何でもない」
『…?』

これ以上言ってはいけないんだ。そう思えた。
俺は、自分の行く手を失った腕を降ろし、はぁ、と小さく溜め息を吐く。
何故自分はあんな事を言いかけたのだろう。何故、自分は――

『拓人先輩』
「あ――…何だ?」

不意に呼ばれた自分の名前。初めて呼ばれた時はすごく気恥ずかしくて、なんとも言えない感情に襲われてはもどかしさを覚えていた。今では名前を呼ばれるのが当たり前になってきて、もどかしさも感じなくなっていた。多分、慣れてきていたからだと、思う。
どうしたのだろうか、と彼女の方を見てみれば、悠那は小さく微笑んでいた。

『また、遊びに来てもいいですか?』
「!……ああ、いつでも遊びに来い」
『!――はいっ』

天馬や、剣城みたいに、今まで彼女の傍にいた訳でもないし、彼女と近しい存在って訳でもない。
だけれど、少なくとも自分の中にあるこの感情は嘘ではないし、嘘だと思いたくない。
彼女が…谷宮悠那が好きだ。
目の前で笑う彼女を見て、自分は改めてそう感じたのだった。




****

れっどさんのリクエストで、日崩番外編で、ホーリロード後のお話。夢主が神童家に遊びに行くお話でした。
最初は暗い話しになりそうで私の中のイナイレって…。となっていたので、無理矢理にでも甘い雰囲気を…!そして明るい話しを…!と書いていたら、後半グダグダに…。
れっどさんのご希望に応えられたか不安ですが、リクエストありがとうございました!またのリクエストお待ちしております。


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