長居下り坂を下りて、辿り着いた街並みは、自分達の見て来た都会のような物ではなく、全てが全て木造で出来た低い建物ばかりであり、すれ違う人々は着物を着て自分の仕事に励んでいた。

「わぁ〜!これが昔の日本かぁ!」
「見てみて!時代劇みたいで凄いよ!」
『すごいすごい!』
「こりゃあ、あの名作“11人の侍忍者”のセットにも負けてないぜ。本格的だな」
「本格的って表現、何か違う…」
「……水鳥さん、歴史に詳しいんですね」

天馬や信助、悠那は案の定のはしゃぎっぷりであり、その傍に居た水鳥は自分達の背後にある家の柱を触っていれば、目を輝かせながら呟く。本格的、というよりもこちらの方が本場だ。だが、これだけ興奮気味な水鳥の姿は初めて見るので、歴史に詳しいのだろう。そして、葵の言葉に水鳥は誇らしげに鼻を鳴らした。
「こいつはただのチャンバラオタクぜよ」という錦の言葉にはさすがに水鳥も聞き捨てならなかったのか裾を捲りながら殴ろうとしていたが。

「…本当に来たんだな。信長の町に」
「なんか、信じられないですよね!」
「で?どうすれば信長に会えるんだ?」
「え…さあ…?」

信長のいる町に来たは良いが、その当の本人がどこにいるのか、どうやったら会えるのかはまだ考えていなく、剣城の問いに天馬は苦笑の笑みを浮かばせながら首を捻った。

「じゃあ、ここからはそれぞれで情報を集めてみよう」
「さんせーい!」
「よぉーし!!皆!!手分けして聞き込みだ!!」

考えるより行動。フェイの意見に誰もが賛同した。そして、ワンダバが大声で気合いを込めるも、逆効果で皆はうるさそうに耳を押さえながら眉を潜めたのだった。

「あ…悠那、良かったら一緒に――」
『京介!一緒に探しに行こうぜよ!』

捜索となり、誰もが行動に出ようとした時、神童は思い切って、悠那に声をかけようと試みる。だが、その声は後少しで届かず、悠那はすでに剣城を誘っていた。

「何でお前と…」
『いいからいいから!』
「お、おい引っ張るな」
『れっつらごー!』

「……、」

嫌そうにはしているが、剣城の表情が和らいでいるのには気づく事が出来た。満更でもない、その剣城の顔を見ると、神童は悠那に向けて伸ばしていた手を引っ込め、代わりに拳を作り上げる。

やはり、自分はこの感情を抱いてはいけなかったのだろうか。
こんなにも辛くて、悲しくて、だけど、愛おしいその感情を――

神童はしばらく彼女と剣城の背中を見つめると、自分も動きだし二人とはまた違う方向へと歩き出したのだった。

「神サマ…」

そして、そんな彼の後ろ姿を、茜もまた切なそうな、そんな顔をしながら彼を追いかける訳にもいかず、ただただ見送るのだった。

―――――…………
―――………

「信長様ねぇ…うちにはいらした事はないなぁ」
「そうですか…」

場所は変わって鍛冶屋へと剣城と悠那はやってきた。きっと刀の手入れとかしているだろう、そう考えて来てみたは良いが、どうやらこの鍛冶屋には来た事は無いそうで、肩を落とす。
なら、別のお店を尋ねてみるしかない。
そう思い、剣城は自分の隣にいる悠那へと振り返った。…だが、その悠那はまた別の方へと釘付けになっていた。

『見てみて京介!本物!本物の日本刀だよ!かっこよくない!?』
「……お前はここに何しに来たんだ」
『日本文化を見に』
「…一人で探せば良かった」
『嘘うそ!ちゃんと探すって!』

だから置いてかないでぇ!と必死に懇願する彼女に、剣城は溜め息を吐くも、歩くのに苦労している彼女が追い付けるようなスピードで歩いたのだった。
そういえば、と剣城はふと思い出した。

「そういや、何で天馬達と行かなかった」
『え?天馬?んー…ただ単に京介と行きたかっただけで、別に深い意味は無いけど』
「そ、そうか…」

こいつはたまに、恥ずかしい事をストレートに伝えてくる。それが無自覚で出てくるから尚更心臓に悪いし、何より自分の中で隙が出来てしまいそうになる。
マフラーが、自分についていて良かったと思った瞬間だった。緩む口元を抑え切れず、巻いているマフラーで口元をひっそりと隠す。そして、僅かに口元を緩ませるのだった。

『ていうか、久々に昔話でもしながら探そうよ。私と京介二人だけだしっ』
「っ…、する必要あるか?」
『何を!?貴様が知らない円堂守伝説を知る一人だぞ!?知りたくないのか?!』
「……」
『修也兄さんの武勇伝もあるんだぞ!?』
「よし、するか」
『(ちょろいなぁ…)』

そこで剣城と悠那は信長へと繋がる手がかりを探しながら自分達の昔話を話し合う事になったのだった。

――――――…………
―――………

「(困ったなぁ…)」

時は同じくして、神童の方は一人でパンフレットに書かれている情報を頼りに信長の情報を探していた。
だが、途中お店の近くで水撒きをしていた自分とあまり変わらない歳の少女に水をかけられ、しばらく着ていた着物は乾くまで別の着物を着る事になっていた。
だが、これではあまり町をうろつけない。信長の情報も聞けない、探せない状態となってしまっていた。

そして、今自分はその水をかけた少女に何故かこの町がよく見える丘へと招待されたのだった。
確かに町はよく見えるし、とても気持ちのいい風も吹く。その場へと座り込めば、少女――お勝もまたその場に座り込んだ。

「お豆腐屋さん、なんだね」
「はいっ私だってお豆腐作れちゃうんですよっ」
「へぇ、そうなんだ」
「っ!」

お店の中に入った時の独特的な匂いに、並ぶ豆腐の数々。そこから察する事が出来た。そして、このお勝という少女もまた豆腐を作るのが得意らしい。
そういえば、悠那は料理が苦手だと言っていた。このお勝さんを紹介して、豆腐の作り方教えてもらったらどうだろうか。なんて、悠那に怒られそうだな。
ふふっとそんな事を考えながら笑って見れば、お勝は何故か頬を染めては神童から視線を外す。

「うちのお豆腐は美味しいんです。真っ白で、ほんのり甘くて、この町一番だと思います」
「自慢のお豆腐なんだね」
「はいっ……拓人様は、尾張の国の方じゃないんですよね…?」
「!」
「だって、髪とか変わってますし、町もあまりご存知じゃないみたいなので…」

呑気な事を考えていれば、お勝から割とどんぴしゃな言葉が返ってくる。ドキッと図星を突かれるも、まだ自分達が未来から来た、というのはバレていないのを悟った神童は直ぐに笑みを浮かばせ、視線を逸らした。

「ああ、うん。俺は、こことは全く違う所から来たんだ」
「へぇ…どんな所なんでしょう?」
「そうだなぁ、これ程美しい風景はあまり無いかも。でも、そこには大切な物があったんだ、俺にとって」
「大切な物…」

そう、大切で失ってはいけない物。
それは、この時代にはない、だけど皆が愛していた物――



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