「うーん…」「これは…」
「未来から借りてきたはえぇけど…全然読めんぜよ…」

外でサッカー禁止令によりボールとユニフォームを破棄するようにと演説するのが聞こえている中、天馬達はあの覇者の聖典を早速解読しようと入れ物からノートのような物を出すなりページを開いて見つめる。
だが、そこに書かれていた文字…というよりも遥かに落書きにも近いその字に天馬達は早くも頭を悩ませていた。

「っま、長い間誰にも解読出来なかった暗号だもんな」
「暗号かぁ…」
「でも、これ本当に字なのかなぁ…?」
「…そう言われるとなあ」
「確かに字には見えませんよね…」
「ある意味アート」

もはや字とも呼べないそれに水鳥も剣城も信助も早くも降参状態。解読方法すら出ない状態に、字ではないのではないかという疑いまで出て来た。
そして、そのノートをジッと見つめていた悠那がむむ、と顎に手を当てるとぽろっと口に出した。

『いや…おっそろく汚い字だと私は予想しよう…』
「汚い…のか…」
「汚いなら、読めなくはない…よな?」
「で、でも…ここまで汚い字を書けるのか…?」

だが、それしか考えられないと悠那は何故か断言して見せた。何故そこまで断言できるのか悠那自身も分かっていないが、そのノートからはどこか懐かしいような、そんなオーラを感じた。
まあ、きっと気のせいだろうと、顎に当てていた手を離すとじっくりとページを捲っていく。すると、その時隣に居た天馬が捲っていたノートを取ろうと手を伸ばす。そんな彼の動作を見て、大人しく手を離す。

「でも、これには最強のサッカーチームの秘密が書かれている筈なんだ」
「そうだ!何と言ってもこれを読み解いた者にサッカーの神髄を伝えるマスターDの「覇者の聖典」!!気合いで読むんだぁああ!」
「そうは言われても読めんもんは読めんぜよ」

気合いで読むんだと言われても、もしその気合いで未来の人間も読もうとしていた筈。だが、未だに解読出来ていないのならそういう事なのだろう。
暗号だろうが、汚い字だろうが、これを記したマスターDは最強のサッカーチームの事を作り上げた。

『…でもさ、マスターDは何で、サッカー最強チームの事はこのノートに記す事が出来ても、それを実現しようと思わなかったんだろうね?』
「…確かに、もしマスターDだけにしか作り上げる事が出来ないチームなら、そのチームを実現させなかったんだろう…」
「未来の人間に、利用されてしまうから…とか?」
『でも、もしマスターDは未来人の事なんて知らなくて、未来の事も知らなかったら、少なくともチームを完成させる事だって…』
「……マスターD自身に時間が無かったから、とか。もしくは揃えるのに困難なチームだから、とか」

フェイが、静かに悠那の疑問に一つの可能性を挙げていく。その可能性に、あぁ、と納得してしまう自分がいた。もしそうなら、このノートに書かれているチームが完成しないのも頷ける。それだけマスターDは理想の高いチームを作り上げようとしていたのだろう。
ふむ、とはたまた一同が頭を悩ませる。

「マスターDかあ、どんな人なんだろう?」
「いつの時代の人なの?」
「そのノートって今の時代の物」
「確かにそうぜよ」

一体どんな人なのか、いつの時代の人なのか、そこに辿り着く事が出来れば少しでも解決が出来るような物の、やはり自分達にサッカー以外に接点が無いとなると難しい難題だろう。
ノートが今の時代の物だと分かっていても、世界中を巡ってそのマスターDとやらに聞くのにも時間がかかるだろう。
水鳥も錦のマスターDを探して本人に聞くのが早道という意見も、誰か分からないのにどう探すのかとツッコミを入れる。
色々な仮説を立てられる物の、答えが中々導き出せない事に、話しは振出に戻ってしまった。

――ガチャっ

「解読出来た?」
「差し入れよ」

不意に天馬の部屋の扉が開く。そちらを見れば、クッキーが沢山乗っている大皿を持った春奈と、紅茶のポットと人数分のカップの乗っているトレイを持った秋が休憩と言わんばかりに入室。それを見て、錦と信助、悠那は笑顔を浮かばせた。
頭を使い過ぎたらとりあえず甘い物、という事だろう。全員の難しそうな表情は一気に晴れていった。
だが、春奈は天馬の持っているノートを見つけると笑みを浮かばせるのを止めて真剣な眼差しでそのノートの表紙を見つめる。

「ありがと、秋姉」
「それは…、」
「…――あっ」
「?……どうしたんですか?」

春奈の思わず零れた言葉に、秋もどうしたのかと彼女を見た後に視線を彼女の見つめている方へと移して見れば秋もまたハッとしたようなそんな表情を浮かばせた。一体どうしたのだろうか、と天馬が二人に声をかけるも二人はお互いに顔を見合わせるなり頷き合うだけだった。

―――――…………
―――………

「この字、円堂監督が昔持っていたノートの字と同じよ」
『え!?…道理でどこかで見た事があると思った…そっか、これがそうだったんだ…』
「悠那知ってたの?」
『小さい頃の記憶だから、すごい曖昧だけど…守兄さんは、それと似たようなノートを大切そうに持っていたのは覚えてる…』

私は字は読めなかったけどね、と苦笑の笑みを零す悠那。だが、彼女の言う暗号ではなく、おっそろしく汚い字と断言したのには納得出来た。
そして、それを聞いて天馬は、このノートの字は円堂監督の字なのかと聞くも、春奈は首を左右に振って見せる。

「円堂君、お祖父さんが書いたノートを大切に持っていたの」
「ノートの教えを元に毎日練習に励んでいたわ」
「円堂監督のお祖父さんが…」

秋も春奈もそのノートと似たようなノートを10年前にも見ていた。円堂の書いた文字ではないそのノート。読める人間は円堂と他数人。彼の幼馴染である冬花と彼に憧れる立向居だけだった。

「では、これも…」
「そう、お祖父さんの大介さんが書いた物だと思うわ」
「それじゃあ、フェイ達が言うマスターDのDって…」
「円堂大介のD…」
「そういう事になりますね」
『頭文字だったんだ…』

それが、サッカーの神様と呼ばれているマスターDの正体。
円堂はそもそも自分の必殺技は特訓で生み出す性格なので、ノートに記す必要はない。だが、自分のお爺さんのノートを見て必殺技を生み出したのもまた事実。
何はともあれ、このノートを書いた人物を早くも当てる事が出来た一同だった。

「そうか!円堂のお祖父さんがマスターDだったのか!まさに灯台もの暗し!」
「…大介さんのノートかぁ、懐かしいわ」
「お祖父さんの字が読めるのは円堂監督だけですよねっ」

興奮気味のワンダバの事を軽く流すなり、秋と春奈はそのノートの字を読めないにも、どこか懐かしい気持ちで溢れてはお互いに微笑み合う。

「だったら円堂監督に読んでもらえばいいんだね!」
「円堂監督には会えないよ」
「え?」

今この時代に円堂が居ないけれども、過去の円堂に会いに行ってこのノートの内容を読んで貰えれば直ぐに最強チームを集める事が出来る。だが、その希望もフェイに直ぐに打ち破られてしまう。どうしてか、と首を傾げてみれば、ワンダバが代わりに答えた。
ワンダバ曰く、子どもの頃から亡くなるその時まで、全ての時点で彼は厳重に監視されている。
悔しいが迂闊には近寄れない、と悔しそうに言う。

「手はあるよ」「ぬっ!?」

書いた本人に直接聞けばいいんだ。

それが、フェイの言う読めるという可能性だった。



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