一難去ってまた一難。剣城京介にサッカーが戻ってきて、ようやく雷門中サッカー部のメンバーが揃ったと言うのにも関わらず、落ち着いてサッカーが出来る日はまだまだ先になるのかもしれない。
それが分かったのも、目の前で大量の冷や汗をかきながら、サッカー禁止法が出された事を伝えてきた火来校長の口から語られた。

「法律でサッカーが禁止されたって…!」
「どういう事なんですか?」

もちろん、そう簡単に信じ切れず受け入れられずの雷門イレブン。何でそうなってしまったのかと、部員全員が火来校長に尋ねてみれば、彼は十分に汗を拭い取ると、校長らしくこの場に居る全員にもう一度告げた。

「残念ながら本日をもって雷門中サッカー部は廃部です」

どういう事になってそうなってしまったのかすら語られず、代わりに校長の口から出て来たのは雷門中サッカー部へと下す廃部の二文字。その廃部という二文字に、全員は表情を曇らせてしまう。
先程まで全員がようやく戻ってきた所で喜びの声を上げていたのに、次からはサッカー禁止令と来てしまった。

「廃部…」「そんな…」
「やっとサッカー部が元に戻ったのに…」
『こんな事って…』

納得が出来ない。だけど、それでも納得してくれと言わんばかりに火来校長は自分が告げる事だけ告げると部室を出て行ってしまう。
校長を何とも言えない表情で見送るなり、後から入ってきた音無と円堂を見てから、皆で顔を俯かせては湧き上がる怒りと不安をその場で漏らしていく。

「サッカー禁止令…」
「どうして法律でサッカーが禁止されなくちゃならないの?」
「…外国のチーム相手にあんな試合をやってしまったんだもの」
「こんな事になっても仕方がないのかもしれねぇな」

理由も分からず法律でサッカーが禁止されてしまい、終いにはサッカー部も廃部と来た。訳が分からないと神童も信助も口を零してしまえば、葵と水鳥が何やら事情を知っているような口調で言葉を繋げる。
その気になるあんな試合に天馬達は疑問符を浮かばせた。

「あんな試合?」
「どういう事ですか?」
『何かあったんですか?』

二人の言葉に、疑問符を天馬と神童、悠那の三人がぶつけてみれば、その疑問に応えたのは春奈であり、三人に説明する。

「一か月前の日米親善試合よ」
「それなら知ってます!いい試合だったなぁ!」
『私も見た!お兄ちゃんと一緒に見たよっ』
「俺も沖縄に居る時、テレビで見たよ!すっごい興奮した!」
「うん!あれを見てますますサッカーが好きになっちゃったよ!」
『私も!ずっとテレビの前で釘付けだったよ!』

春奈の口から出たその日米親善試合に、信助、悠那、天馬はそれぞれに目を輝かせながらいい試合だったと口々にする。
信助は家族と、悠那はまだ入院をしている裕弥と一緒に、天馬はまだ沖縄でサッカーを教えている時に。一年生三人組みは顔を見合わせるなり興奮気味に笑みを浮かばせる。
だが、神童以外の雷門メンバーの目は、そんな三人の姿を見るなり疑いの眼差しを向けては信じられないと顔を見合わせる。

「俺も!なんと言っても開始早々のあの――」
「あなた達、アレがいい試合だったなんて…別の試合と勘違いしてるんじゃない?」
「…え?」
『「「?」」』

ここで、三人と神童の思い浮かべている日米親善試合と、他の皆が知る日米親善試合の違和感に気付いた。周りを見渡せば、先輩や同期の目は自分達を信じられない、と言わんばかりの目をしている。何故、勘違いしていると思われたのだろうか、と四人は訳が分からず首を傾げた。

「そうだド。親善試合は二本代表の暴力行為で中止になったド」
「中止!?」
「アメリカ代表の殆どの選手が大怪我したんだ」
「親善試合だったのにな」
「日本サッカーの面汚しだド」
「ちゅーか、あの試合で皆サッカーは野蛮で危険なスポーツだって思っちゃった」
「あぁ。あの試合が原因でサッカー禁止令が出されたと思って間違いないだろう」

天城を初めに、霧野や車田、浜野、そして円堂までもが酷い試合だったと言う。
天馬達の思い浮かべていた日米親善試合は、そんな酷い内容の試合ではなかった。サッカーファンの誰もが興奮して、もっと好きになれたサッカーの試合だった。あの試合のお蔭でまたサッカーをやる人が増えたと言ってもおかしくない。
にも関わらず、他の人達から聞かれる情報は、全く間反対の物だった。
違和感。
ふと、天馬と悠那は顔を見合わせた。

『もしかして…』
「これって…」
「…それで、サッカー禁止令か…」

「明らかにエルドラドの仕業だ!」

その場の四人の意見と思考が一致された時、不意に開かれる部室の扉。そして、そこからはワンダバが現れては、原因の一つを告げる。登場の仕方には驚いたが、それに構わず更に説明を続ける。

「間違いない。奴らが日本対アメリカの試合に介入したのだ。全く、油断も隙もない奴等だ」

よいしょっと、歩きながら説明をするなり、ワンダバは円堂と春奈の間に置かれた回転椅子の上に乗っては次に春奈の方へと振り返り呑気に自己紹介まで始めた。

「これはこれは、初めましてお嬢さん。私はクラーク・ワンダバット。ワンダバと呼んでくれたまえ」
「!……」

そういえば、春奈はまだワンダバの存在を知らなかったな、と悠那は一人でそんな事を密かに思いながら、次に口から出る長い長い説明を春奈だけに聞かせる説明を横目に見ながら聞いていた。
興奮はしなかったが、やはり時間軸という複雑な経緯があった為、春奈は話しを聞いていてもどこか呆然としていた。

「――…という訳で!私、クラーク・ワンダバットは決して怪しい者ではない!」
「……(コクッ)」
「そして、彼がフェイだ」
「こんにちは」
「こんにちは…その、フェイ君も…?」
「はい。未来から来ました。変えられてしまった過去を戻す為に」
「変えられてしまった過去…」

長い説明を聞き、ワンダバもフェイも怪しい人物ではないという事を無理やりにでも理解して頷く春奈。そして、フェイが未来から来たという事と、変えられてしまった過去について首を傾げる。
突然こんな事を言われて春奈もまだ状況が把握出来ていないのだろう。今の時代でもワンダバのようなおもちゃは作ろうと思えば作れるし、何よりフェイも他の人達と比べても普通の少年にしか見えないのだ。
パっとしない話しの中、同じように説明を聞いていた円堂が、不意に顔を上げた。

「思い出した!…俺の過去も変えられそうになったんだ」
「え?」
「あの時、サッカーを守っていなければ、雷門中サッカー部は今頃存在していない」

円堂もまた、自分が中学生時代の時のあの時の記憶を思い出したのだろう。確か、その時は天馬と悠那、フェイとそのデュプリ、そして剣城優一と共にアルファ達と試合をして見事勝つ事が出来たのだ。その後はきっと、一生懸命に部活を作って、部活動して、新しい仲間と共に雷門サッカー部として活躍した。
それが、今の雷門に受け継がれているのだ。

「あぁ〜!もう!過去がどうのとか頭がこんがらがってきたぜ!」
「あははは…」
「サッカー禁止令も過去を変えられてしまった結果…」
「その通り!」

どの時間軸が正しいのかすら分からなくなってきた頃、水鳥は自分の頭を抱え込む。そんな彼女の姿に葵は苦笑しか浮かべる事が出来なかったが、その隣にいた茜はやはりSF三級を持っているだけあって、理解の方は誰よりも早かった。

「やるじゃん茜!」
「さすがは、SF三級!」
「ふふっ」

もはやここまで来ると、茜は意外と頼もしい存在となってきていた。



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