■ 開幕のベルは鳴る
気付いたら自分は“そういう存在”だった。
誰だって自分の存在を認めてほしいと思っている。
その為だったら何でもする。何でもしてやる。それで自分が認められるのなら、何だって。だってそうじゃなきゃ自分は生きていても死んでいると同じだから。だから、悠長に生きている人達が憎らしくて仕方がない。自分達はこんなにも必死になって生きているというのに、苦しい思いをしているというのに。
何故、自分達より存在を主張している。何故、あんなにもキラキラと輝ける。
そんな事は分かっている。全てフィクションだから。そんな理想郷、自分達にとってはフィクションにしか見えないのだ。“ここ”を出た事が無いから、全てフィクションに見えてしまうのだ。
普通に学校に行って、卒業して、また学生になって、はたまた普通に就職して、自分のやりたい事をやって
――そんな、どこまでも“普通”の物語を本当は望んでいた。
だけど、それは望んではいけない。
理由は簡単だ。それを望んでしまえば、自分達は究極に近づけない。
ただひたすらに強さを求めて、求め続けてやっと手に入れた究極の力。
そう、自分達が望まなければいけなかったのはこの究極の力だった。皆が望んでいた究極の存在。これで、これで自分は誰もが認める存在となった。
でも何か足りない。何だろう。少し前まであった何かを、全て忘れてしまっている気がする。だけど、その何かって何だっけ?それさえも分からなくなってしまっている。
ねえ、何だっけ?遠い昔の自分に問いかけても分からない。分カラナイ。ワカラナイ――……
僕ノ気持チハドコヘ消エテシマッタノ――
甘くて幸せな夢だった筈なのに、その正反対の望んでいなかった悪夢。
悪夢の中、ひとりきりで溺れるしかなかった。
「――助けて下さい!」
ふと、誰かが自分に手を差し伸べてきた。
それは、他の誰でもない。幼い頃の自分の小さな手だった。