■ エピローグ


雷門イレブンや他の少年達は、数隻のフェリーで島を去っていった。
白竜やカイ達も、そのフェリーの一つに乗り込んでいった。
たった一人、シュウだけが島に残り、崖から離れていく船を見つめていた。
海からのそよ風が髪がをそよがせていく。
風を受けると、シュウは天馬を思い出していた。長い間、心の中に渦巻いていた過去からの思いは、天馬というそよ風によってゆっくりと消え去っていくのを感じながら、彼は森へと戻っていった。
あの、石像の元へ。
木漏れ日の中で、シュウは石像を見つめた。心なしか、自分が見ている石像が笑っているように見える。
それが石像の顔なのか、自分の気分が清々しいからそう見えるだけなのか。

「天馬。キミとサッカー出来て楽しかった。ありがとう、天馬…」

風が吹き抜けていく。
シュウが語った昔話、そして少女の語った昔話。それは、シュウ自身の苦い記憶だった。
サッカーとは、強くある事とは、その思いが彼を長い間、この島に留まらせていたのだ。
しかし今、シュウの姿は風と共に消え去った。
ようやく、妹の元へ旅立つ事が出来たのだ。


…………
………

『もー!!また天馬の所為で遅刻じゃんかあ!!』
「だってユナが起こしてくれないからあ!」
『それこの前も言ってたよねえ!?』

息切れをしながらすっかり慣れてしまった通学路を走り続ける二人組。行き交う人達を上手く交わしながら、学校まで全力疾走する二人のやり取りに、またかと行き交う人達に苦笑される。
日常茶飯事とは言え、数日居なかっただけでどこか懐かしさを感じられる。

『あーもー!ほら急がないと!!』
「ま、待ってよユナー!」

いきなりスピードを上げるユナに、天馬もまたスピードを上げて追いかけた。
雷門の校門が見えると、二人もさすがに疲れたのか息を切らしながら汗を垂らす。朝のH.Rならまだ間に合う時間帯だが、この二人には部活という物に所属しており、校門から見える校庭には既に自分達が所属しているサッカー部がもう既に練習が始まっていた。
これはヤバいと、疲れで出てきた汗ではない冷や汗が垂れてきて休める足を無理矢理急かした。

『「おはようございます!」』
「遅刻だぞ二人共」
『「すみません…」』

鬼道の方に行けば、直球に遅刻という文字が降ってきて二人して肩を落とそしながら謝る。
すると、フィールドで練習をしていた先輩やら信助達やらマネージャー達が二人がようやく来た事に苦笑した。
顔を上げた悠那は、鬼道から視線を外してグラウンドを見渡す。そこで一人足りない事に気付き、鬼道の方にもう一度振り向いた。

『あの、京介は…?』
「ああ…あいつも「――遅れてすみませんっ」…来たようだな」

鬼道の言葉を遮り、自分達の横に来たのは着崩した学ランを着た剣城が肩で息をしていた。これは珍しい事もあるものだ、と天馬と悠那が顔を見合わせるなり小さくぷっと吹き出す。
彼もまた自分達と同じく遅刻した身なのだと、どうも可笑しかったのだ。二人に笑われた事に剣城も気付いたのか静かに怒りを露わにする。

「いいからお前達、早く着替えてこい」
『「「はい!」」』

鬼道の言葉に、天馬と悠那は笑うのを止めて返事をし、剣城もまた返事をした。三人して急ぎ足でフィールドを離れるものの、何やらフィールドを離れた瞬間、三人の言い合っている声が聞こえてきた。
どうやら二人が剣城の遅刻を笑って剣城もまたお前達もだろと返しているのだろう。その姿にフィールドに居た神童達はまた苦笑した。

「ったく、前の日が色々あったってのは分かるけど、あいつらたるんでんじゃねえのか?」
「そんな事言ってえ、本当は羨ましいとか思ってんだろ?倉間っ」
「っな、誰が!!」
「あわわ、浜野君…」

倉間が腕を組んで捻くれた事を言おうとしたが、浜野が茶々を入れてくる。若干頬を赤らませながら浜野に突っかかろうとする倉間を速水が何とかおさめようとする。居残り組にとっては神童、剣城、天馬の化身合体と、悠那と逸仁の化身合体が見たかった所だったが、雷門の心配もあって動けなかった。
結果的にフィフスは雷門に何もしなかったので良かったのだがやはり、合宿に行ってきた神童達が多少羨ましかったのだ。

「平和だな」
「ああ、そうだな」

倉間達のいつものやり取りを見て、そう思ったのか神童が口に出す。それを傍で聞いていた霧野もまた苦笑しながらも応えた。
昨日の事が嘘みたいになかったようにいつもみたいな光景を見ているのがどこか擽ったく思える。だけど、少し前の自分とは違い、前よりも強くなれた気もする。いや、強くなったのだ。そして、天馬の鞄に付いていたあのミサンガと悠那の手首に付いていたリボンが何よりもその証拠だった。

『大体さあ、目覚まし時計あるじゃん天馬!』
「だ、だってあれたまに止まっちゃうんだよ…」
「新しいの買えよ…」
「でもさ、新しいの買うより部屋隣の悠那に起こして貰えばお金もかからないし…」
『私の朝の時間を何と心得る』
「秋姉だって朝忙しいし…?」

と、話していれば先程着替えに行ったと思われた三人組が駆け足で戻ってきていた。速いな、と感じる前に神童達が思ったことは、まだ言い合っていたのかというツッコミだった。
一緒に居る剣城も呆れているようにも見える。

「おい一年!全員グラウンド三週してこい!!」
『ええ…』
「って一年って事は僕等も入ってるのかな…」
「どうなんだろ…」
「いやあ、さすがにそれは」
「お前等も連帯責任で走って来い!」
「「「ええ!?」」」

倉間が腹いせに一年生達に指示を出し始めた。げっと、三人が顔を引きつらせていれば、輝と信助、狩屋達までもが被害を受けてしまい天馬達と一緒に走らされてしまった。
狩屋が三人の所為だぞ!と責める中、天馬と悠那はどうどう、と何故か慰め役を演じていた。更に煽られた狩屋はついにぶちギレたのか、天馬と悠那を追い駆け始め、信助と輝、そして剣城は彼等を追い駆けるように走った。

「監督…良いんですか?」
「…まあ、良いんじゃないか。これで倉間の機嫌が直るならな」
「…監督」

だから何も言わなかったんですね、と苦笑する神童。もう一度倉間の方を見れば、若干楽しそうに一年生達にもっと早く走れと指示を出していた。もはやキャプテンの神童でも今の倉間を止める事は難しいだろう。
もし、あのまま止めに入ったら自分まで被害に合うだろう。
一年生達には申し訳ないが、神童は走りながら口論している彼等を見ていた。
ふと、風が吹き、神童の髪を揺らす。
そして、その風はフィールドに居る少年達の髪を揺らすと、一年生達の間を吹き抜けていった。

――ありがとう

『?』

狩屋に追い駆けられていた悠那がふと、走るのを止めて振り返った。
聞き覚えのあった声が自分の髪を揺らしたのだ。何だったのだろう、と振り返ってみるも、そこには一年達の走る姿しか見えなく、悠那は首を傾げた。

「おい!悠那何足止めてんだ!」
『あ、はい!』

ふと、倉間の声が響いてきて足を止めていた悠那は返事を返すと、再び足を動かした。
息が切れて肺も苦しい筈なのに、吹く風はとても気持ちが良い。ふと、思い出した。ああ、あの声はきっとあの子だ。あの子というワードはあまり似合わないかもしれないけど、悠那は小さく笑みを浮かべた。

『どういたしまして、シュウ』

再び、風が彼女の髪と、彼女の手首にしているリボンを揺らした。



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