■ 一難去ってまた一難

フィールドに更に現れた四体の化身。その壮観なさまを満足そうに見上げた白竜も、シャイニングドラゴンを発現させた。

「おおっとゼロチーム、ホイッスル前から化身を出現させたァ!」

五体の化身を発動させたままポジションについたゼロだが、一点を返して勢いづく雷門イレブンは受けて立つ!という気構えが出来上がっていた。
試合再開のホイッスルを受けて、雷門イレブンは一斉に動き出す。白竜は蹴り出したボールと共に先陣を切った。

「化身の発動時間は限られている!ここは何としても抑え込むんだ!」

神童の言葉に、天馬と剣城が呼応し、前を見据えて化身を出そうと構えに入った。

「それが分かっていた所で、どうにもならないんだよ!」
「ならば連携して迎え撃つ!」

白竜は神童の言葉を聞くなりそう挑発する。一点入った事により勢いを増した雷門。まだ何とか出来ると確信した神童の横には天馬と剣城が並んだ。三人は同時に化身を出現させる。またもフィールドに合計八体の化身が聳え立った。
誰もが化身同士の対決がフィールドを揺るがすものと身を乗り出したが、その注目の中で雷門DF陣に動きがあった。霧野が猛然と前進してきたのだ。

「ディフェンス!神童達をサポートするぞ!」
「ええっ、サポートって、どうするンすか!」

狩屋も走り出し、信助と悠那も続く。だけど、どうサポートをすればいいのか分からなかった狩屋が霧野にそう尋ねた。

「俺達にしか出来ない事がある!二手に分かれるぞ。狩屋!俺と来い!」
「分かったよ!」
『信助私達も!』
「うん!」

霧野は狩屋を引きつれて、林音が発現させている鉄騎兵ナイトへと突っ込んで行く。悠那と信助もまた霧野と狩屋達とは別の方へと分かれる。

「“ハンターズネット”!」
「“ディープミスト”!」

狩屋が指先から赤いネットをだし、霧野がザ・ミストの時より濃い霧を出現させ鉄騎兵ナイトに絡みつかせた。身動きの取れないナイトはただもがくだけ。林音も対応しきれず、焦るばかり。
なるほど、必殺技を利用して相手の化身の動きを封じ込めるのか。今相手の化身で動けるのは四体。

「こ、これは!林音の化身ナイトが霧野と狩屋の必殺ディフェンス技で分断された!」
『これは負けてられないねえ信助、私達もやろう!“真空カマイタチ”!!』
「“ぶっとびジャーンプ”!!」

悠那が竜巻を起こして一体の化身の動きを止める。そこで足をランダムに振るい、風の刃を出現させる。そこへ信助がシュート技でもあるジャンプ力で刃を足場にしながら高く上がっていく。
青銅の化身ポーンが、竜巻に包囲され、ジャンプした信助によって後方からの挟み撃ちにあった。
これにより青銅は悠那と信助に阻まれて身動きが取れず、その動揺がポーンに伝わって動けなくなってしまった。

「こんな奴等に…!俺が止められるというのか!」

青銅は風の勢いに片目を閉じるも、悔しげに吼える。
これが雷門のDFの力。化身がなくても、化身を使わなくてもこうして必殺技を工夫して使えば相手の動きを止める事だって出来る。

『やったね信助!』
「うまくいったみたいだね!」

化身軍団の両翼ををこうして断ち切られたゼロは、シャイニングドラゴンとビショップ、ルークの三体になって、雷門の三体と鍔迫り合いへともつれ込んだ。

「みんな、すまない!」
「これで対等です!」
「突破するぞ!」

DF陣のバックアップに、神童はまた勇気付けられ更にマエストロに力を込めていく。
天馬と剣城もまた同時に叫びだし、ペガサスアークは翼を大きく羽ばたかせ、彼等の力が高まっている事を表していた。
ペガサスアークが起こす風が、ランスロットの追い風となり、剣を振るってシャイニングドラゴンに斬りかかると、シャイニングドラゴンは交わす動作をとる。隙が生じた。それはランスロットが押し勝つ結果になり、バランスを崩した白竜からボールが零れ落ち、転がっていた。
剣城はボールをすぐさま天馬にパスし、天馬もまた更に神童にパスをした。
雷門攻撃陣はゼロ陣営へと駆け上がる事に成功したのである。

そこへ、錦と輝が神童側の左右に並ぶ。ゼロのディフェンス陣を俊敏なフットワークで交わす輝も、特訓の成果が表れている。瞬く間にゴール前にボールを運ぶと、輝は必殺シュートの体勢に入った。

「“エクステンドゾーン”!!」

輝はボールを蹴り上げ、ボールに闘気を込める。風をはらんで力を集約させたボールに、エネルギーの縮退がかかる。輝はパワーの乗ったボールを、蹴り放った。
構えた蛇野の目の前で、ボールはフェイントをかけて旋回する。虚を突かれた蛇野の目前で、突っ込んできたのは錦だった。

「どおりゃああ!!“戦国武神ムサシ”!」
「こいつも化身使いか!」

錦が化身を発現させれば、試合を見守る牙山も目を見張った。フィフスセクターの管理下に居ない化身使いがこれ程居る雷門。牙山はただただ興奮するばかりだった。

「“武神連斬”!!」

赤い紅葉が舞い、錦から化身シュートが炸裂した。輝のエクステンドゾーンからのシュートチェインでパワーが十分にのったボールに、化身の強大なエネルギーが加わって蛇野を襲い、見事にゴールへと命中した。

「ゴール!!なんと雷門、化身パワーで同点に追いついた!2対2!影山と錦によるフェイントとコンビネーションが蛇野を翻弄だァ!これは試合展開が全く読めない!」

「すごいです錦さん!」
「お前もぜよ、影山!」

居郷の信じられないと言わんばかりの声を聞きながら、輝と錦は拳を突き合わせるなり笑みを浮かばせる。そんな彼等を、白竜とシュウは面白くなさそうに冷たい視線で見る。

「俺達と渡り合うとはな」
「でも、これぐらいはやってくれないと僕達の力は試せない」

その時、シュウの視線が動いた。白竜はその視線の先を振り返る。そこには、ベンチで立ち上がる牙山の姿があった。牙山だけではない。教官の火北、林野、大風谷、五条、六塔がゼロのユニフォームをまとって立っていたのだ。

「白竜!選手交代だ!」
「まさか…教官達が!?」
「ここは教官である我々が手本を見せてやるとしよう」

牙山が着ていたジャケットをバッと脱ぎ捨てる。下にはやはりゼロチームユニフォームを着込んでいた。サイズも大人用のもあったのか、ぴったりとあっている。つまり、この教官達はこうなる事を予想して着ていたのだろう。
あまりの事に、雷門側どころかゼロの選手も驚愕の表情を浮かべていた。

「何だって!?教官が入るのか!」

雷門ベンチからも不動を抜いた大人組は立ち上がって抗議に出ようとする。逸仁もまた立ち上がるなり、牙山達教官を睨み付ける。

「大人が加わるなんて…聞いた事がないぞ」

フィールドに立っていた雷門の選手達も動揺を隠せずに唖然としながら牙山達を見る。無茶苦茶過ぎる。潰すなら自分の手で、と言った所か。白竜とシュウ以外の選手達が渋々ベンチの方へ下がっていくさまを見て、天馬が思わずシュウに抗議した。

「シュウ!本当にこれでいいの!?これがキミの求めるサッカーなの!?」

それでもシュウは応えなかった。白竜とシュウはこのピッチに残ったが、ゼロのメンバーからは残りの選手はベンチへ。それが何を意味するのか。この試合で失点を二点を許した罰なのか、それとも教官達が自分の手で格の差を思い知らせるのか。どちらにせよ、自分達はあの教官達に口出しする事は出来ない。キャプテンである白竜でさえもだ。
すると、ベンチから立ちあがった風丸が声を張った。

「こんな事、許されていい訳がない!断固抗議する!」
「正規のメンバーではない。卑怯だぞ!」

風丸に便乗した鬼道もまた抗議の言葉を上げる。子供対大人がいけないという訳でもない。実際天馬達は大人相手に一度戦ってきた。だが、これは別だ。元々この試合はフィフスが決めたチームで戦うという事で、教官達と直接戦う訳じゃない。
こんな無茶苦茶なルールで素直に従う筈がない。だがしかし、それでもその抗議を飲み込む訳もなく、牙山は自分達が断れないようなセリフを吐いた。

「あなた方は立場を理解するべきではないのかな?」

牙山の視線は檻の中の葵に向けられた。人質がいる以上、雷門にこの横暴への拒否権はないのだ。悔しく言葉を飲み込む風丸と鬼道の元に、円堂もやってきた。

「今は認めるしかない」

耐えている円堂の目に、鬼道も風丸も何も言えなくなってしまう。円堂が耐えているんだ。自分達も大人らしく、雷門の監督やコーチ、そして先輩らしくしなくてはならない。
それに、一番悔しいのは自分達じゃない。ピッチを降ろされたあの少年達の方なんだと。
作られた拳に力が入る。大人しく、ベンチに座り直そうとすれば、不動の前を、円堂達の横を通り過ぎる人物が居た。

「自分達が入らなきゃゼロは負けちまう。そう考えてんのか?おっさん」
「何だと?」
「それってよ、早くもゼロは負けを認めたって事だよな?どうなんだよ、おっさん」
「貴様!それが教官に対する口の効き方か!?」

逸仁だった。逸仁が、円堂達を通り過ぎるなり、そうピッチに入ろうとしている牙山達に言う。あまりにも舐めたような口調で言う逸仁に頭に血が上ったのか、牙山がそう声を張り上げる。だがそれは牙山だけじゃなく、その傍に居た教官達も、ピッチに残っている白竜とシュウもそうだった。
負けを認めた、その部分に白竜もまた頭に血を上らせた。

「俺達がいつ負けたと言った!!」
「だってそうだろ?今ここで負けたと認めたからこの教官達が入ったんだろ」

ピッチから声を張り上げる白竜。逸仁は視線を白竜に向ける。彼は完全に怒りを露わにしている。だけど逸仁は言葉を止めなかった。

「言っとくけどな、おっさん達。俺ァフィフスの仲間じゃねえがよ、これだけは分かってんだ。

あんた達より、そこに居る外された選手達の方が強い」
「「「「!!」」」」

つまり、この牙山達よりも外されたカイ達の方が強いという事。もちろん体力的、体格的には完璧に負けてるし、牙山達の方がまだカイ達よりかは強いだろう。それでも、逸仁はカイ達の方が強いと言ってみせた。それにはさすがに驚いたのか、白竜もシュウも目を見開かせている。カイ達もまた驚愕の表情を浮かべていた。
あの、逸仁がフィフスの選手を庇ったのだから。

「ほう、こいつらを育てたのがこの私でもか?」
「ああ。強いよ、あいつらは。それを一番分かってんのは今ピッチに残ってるあの二人だと思うがな」
「……」
「っま、勝つのは雷門だけど」

んじゃ、せめて大人げない戦い方でもしてこいや、おっさん。
とその言葉を投げつけて、不動の隣へと腰を降ろして目の前試合を見やる。その堂々とした姿に、不動は肝を抜かれたように、目を見開かせたものの、フッと笑った。

「何で勝つのが雷門だって言ったんだよ」
「信じてるっていうより…信じさせられているって言った方がいいっスかね」
「?何だよ、それ」
「知りませんよ。俺が人を信じる事なんて相当ない事なんでね」

だけど、あいつらは俺をそうさせている。
逸仁が苦笑の笑みを浮かばせながら、そう告げた。それを聞いて不動もフッと小さく笑い、その会話を聞いていた円堂達もまた、どこかスッキリとした様子で、目の前の雷門イレブンを見やる。
この状況で戦いぬこうという強い意思を瞳に滲ませていた。
絶対に不利な状況。過酷な特訓を強いてきた教官を加えて、試合は再開された。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -