■ どこまでも青い空


耳に響くようなうるさいサイレンの音。何事だと、灯台の中に居たメンバーも外に飛び出し、周りを見渡した。
どうやら音は島中に仕掛けられていたスピーカーから聞こえているようだ。つまり、

「フィフスセクターだ」
《円堂守と雷門の愚かなる少年達に告ぐ。
三日後、お前達雷門と我々フィフスセクター公認チームによるスペシャルマッチを行う。場所は、島の中央にある我々の施設“ゴッドエデンスタジアム”だ》
「円堂監督の睨んだ通りだ…」

声の主はやはりあの牙山。だが、自分達を捕まえるのは諦めたのか、今度は雷門に勝負を挑んできた。それがどういう意味なのか。だが、牙山の発言と考えからして二度と自分達に牙を向けてこさせない為の試合なのだろう。
天馬は、夕べの円堂の言葉を思い出していた。

「しかし、公認チームとは何だ。アンリミテッドシャイニングとは違うのか…?」
「違うかもしれないド。ゴッドエデンにはたくさんの少年達が特訓を受けてるって監督も逸仁も言ってたド」
「俺もそう思います。チームが一つの訳ないっスよ。あいつらに匹敵するか、それ以上か…まだまだ、すげえチームがあるんじゃないスかね…」

三国の疑問に、天城が答え狩屋もその言葉を受けてぼそりと呟いた。その呟きが近くに居た悠那には聞こえており、密かに濡れた手を重ねて震えを隠す。だが、その間も牙山の言葉は続いていた。

《お前達はこの試合を拒む事は出来ない。こちらには人質が居るという事も分かっているだろう。三日後を楽しみにしているぞ》

獣のように吼える牙山の声は、そこで終わり皆の空気はさっきまでより重くなってしまっていた。

「卑怯な…!」
「やっぱり人質、使ってきやがった。まっこと卑怯な連中ぜよ」

やはり、葵達はフィフスの方に居る。そして、人質として生かされている。それがどれだけ腹立たしく思える。今にでも乗り込んでもいいが、今の状態の雷門では助けるどころか、捕まってしまうだろう。

「卑怯なのはいつもの事ですよ、錦先輩。全国大会のフィールドなんて、変な仕掛けばっかりで卑怯な塊ですからねえ」

狩屋が今までの事を皮肉たっぷりに言ってみせた。それは皆の脳裏でしっかりと覚えていた。ホーリーロードのスタジアムでは竜巻が起こったり、全面氷が張られていたり、フィールドの下が海でランダムにフィールドが沈んだり、ピンボールの要素を含んだフィールドだったり。まともにサッカーが出来るような環境ではなかった。雷門に挑んでくる殆どのチームはフィフスの管理下にある為、ピッチの仕掛けの情報を事前に与えられた上で試合に臨んでおり、雷門はまず、奇怪なフィールドに慣れる所から戦いを始めなければならない。
それでも、彼等は勝ち進んでいるのだ。早くも戦いの決意を表情に表している雷門に、円堂の激が飛んだ。

「みんな、聞いてくれ。奴等が試合を挑んでくると言うのなら、俺達は迎え撃つ!」
「「「え?」」」
「迎え撃つったって…」
「監督、勝算はあるんですか?」

迎え撃つという言葉に、雷門のみんなは驚きを隠せないでいる。何故なら、自分達は昨日までアンリミテッドシャイニングと戦ってボロクソに負けたからである。つまり、今の自分達では迎え撃つどころか彼等に勝てる訳がないのだ。
その事に、狩屋が円堂に向かってそう尋ねれば、円堂はフッと笑って見せた。

「忘れたのか?俺達は今までどんな困難も乗り越えてきた。これからも今までと同じ。勝利を目指して戦う。それだけだっ」
『(――あ、)』

その言葉に、誰もが不安げな表情を止めて、まるで希望を見ているかのような表情で円堂を見上げた。そう、今までだって自分達の勝利を信じて戦ってきた。きっとそれはこれからもそう信じて戦う事になる。悠那は円堂の言葉を聞いて、また自分はあの人に心を支えられたと安堵した。いつも円堂守という人物は皆を支えてくれる。元気をくれるのだ。そして、今の状況を楽しむかのように太陽みたいな笑顔をくれるのだ。
あの太陽は暮れる事がない。だからこそ皆は暗くならずに済むのだ。

「今日からこの島で大特訓、いっくぞォ――ッ!!」
「「「「おお!!」」」」

円堂が拳を挙げて、皆も勢いに乗って自分の拳を挙げる。それは子供大人関係なく、勝利を心から信じた証拠だった。
拳の先を見上げてみれば、そこには青すぎる大空が広がっていた。

そんな再び一丸となった雷門を離れた森からひっそりと見ている人物が居た。
褐色肌の彼はシュウ。彼は、選手達を鼓舞する円堂ではなく、笑い合っている天馬と悠那を見ていた。

その日、ゴッドエデンでも大きな動きがあった。
聖帝イシドシュウジが専用のヘリで飛来したのである。朝日に光る髪とイヤーカーフのイシドは、サングラスをかけた姿でヘリの外でヘリの外へと現れた。ヘリポートに迎え出た牙山は踵を打ち鳴らして最敬礼する。

「ようこそ、イシドシュウジ様」

イシドは牙山に右手を軽く挙げて答えると、ゴッドエデンの中へ足を踏み入れた。
巨大な空中楼閣であるゴッドエデン内部は、冷たい印象を残す。動く歩道に乗って空中楼閣へ向かう間、イシドの後ろに立った牙山は緊張を解かず、両手を尊大に後ろで組んでいた。

「いよいよ我々が進めております、“プロジェクト・ゼロ”の完成が近づいてまいりました」
「円堂が現れたというのは本当か」

牙山の満を持しての報告には直接応じず、イシドは円堂の話題を先崎に出した。その反応を意外に思いながらも牙山は即座に対応した。

「ハッ、しかしながらご安心下さい。計画まであと三日。ついに究極チーム“ゼロ”が誕生致します。雷門の奴等には、“ゼロ”の最初の餌食になってもらいます」
「楽しめそうだな…」

イシドは唇の端を歪めて、初めて笑ってみせた。
通路を抜けた彼の前には、ゴッドエデンスタジアムの威容が広がっていた。



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