■ 束の間の休息

『あ、れ……』
「ユナ…!」
『天馬…?と、皆に…』

目をゆっくりと開けた悠那にいち早く声をかけた天馬。その声を聞いた悠那は天馬の方に目だけ動かして存在を確かめる。すると徐々に明瞭になっていく自分の視界に映ったのは先程までフィールドで駆けていた友達や先輩達。そして、彼等とはまた違った人物達の存在がある事に気付き、悠那は視線を皆から外してそちらを見やった。

「おう、気付いたか」
『あ、バナナ』
「「「「?!」」」」

ドカッ!!

悠那の視界にまず入ってきたのは先程まで彼女の頬をつついていた不動。寝起きの所為かあまり驚いてはいなかったが、彼女の口から出てきた言葉に不動は拳を作りそれを悠那に食らわせる。

『いったあああ!!』
「目覚めたと思ったら第一声が「あ、バナナ」だあ?もう一回眠らせてやろうか?あ?」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!もう言わないからキャラ守って明王兄さん!』
「知るか」

あまりの痛さに思わず飛び起きる。それを見た不動が(恐らく)わざとらしく拳を作って見せれば、悠那はあまりの恐怖に全力で不動に謝罪をする。先程までの緊張感はどこへやら。今自分達の目の前で行われている光景に天馬達は思わず唖然となっていた。

「何だ、結構元気そうだなユナ」
『え、守兄さん!?』

何でここに、と不動の鉄拳から何とか逃れた悠那は自分に声をかけてきた人物を見上げる。聞き間違えたりなんかしない。そちらを振り向けば、苦笑気味た円堂守の表情が見える。だが、それだけでは悠那の驚きは止まなかった。円堂の後ろに佇む人影。そちらの方をよく目を凝らして見てみれば、悠那にとってなじみのある青年たちが居たのだ。

「何だ、かなり元気そうじゃないか」
「そうだねっ」
「どこも居たくないッスか?」
『い、一兄さん、士郎兄さん、塀兄さん…何で…』

円堂と同じく苦笑しながら彼女を見下げる風丸一郎太、風丸に同意する吹雪士郎、痛む所がないかと微笑みながら心配してくる壁山塀五郎。そして先程の不動と円堂を合わせてみればこれはまた懐かしいメンバーに懐かしい再会。見た目は大人でもどこか懐かしさを感じて一瞬だけ中学の頃の円堂達がダブって見えた。
その懐かしさも、次の瞬間には思えなくなってしまった。

『さ、寒い…』
「そうだ!悠那、靄は…」
『も、や…?』
「それは俺が説明する」

寒いと声を震わせながら自分の体を包むかのように抱く。震えも寒さを主張してくるように大きくなっていく。足の先から頭までが冷たくて仕方がない。感覚も若干感じるだけでほぼ感覚はないし、何より暖かくなる気配が全く見えない。さすがの悠那も寒過ぎてうまく口が動かない。そんな彼女を見た風丸は彼女に自分の上着を脱ぎ、背中からそれを羽織る。そして、その彼女の背中を冷えないよう、天馬と信助が擦りだす。
神童はそれを見て、思い出したのか声を若干上げて彼女の靄を確認しようとする。だが、それは自分が説明すると円堂が一歩前に出てきた。

「霧野の話しを聞いて大体分かった。お前が約束を守っていて良かったよ」
『は、なし…?』
「ああ…“大炎聖フィアンマ”の事だ」

その化身の名前が出てきた所で、悠那はその話しの内容を大体理解した。そして、何も言えなくなってしまったのか、口を紡いで顔を俯かせる。それを見た後、円堂は視線を悠那から変えて質問をしてきた神童の方へと移した。

「で、何故靄が消えているか、って話しだな」
「はい」
「悠那のもう一つの化身、フィアンマはかなりの力があり、狙う奴が多い。その白竜みたいにな。だから無理矢理出される可能性がある」

どうやって出されそうになったかは円堂も分からないらしいが、やはり逸仁の話しの通り化身を取り出す事は可能らしい。見てみたいとか、言葉だけ聞けば純粋そうな理由だっただろう。だが、行動やら彼の目は純粋とか無邪気とかそんな子供じみた感じではない。残酷さだけを持った子供。
お互いに初対面だったが、白竜の印象は怖いとしか言いようがない。まさか初対面の人物にここまで恐怖を与えられるとは思いもよらなかった。
今震えているのは寒さの所為か、それともその白竜という人物が怖くて震えているのか。どちらにせよ、この震えをどうにかしたい。
そして、何とかその化身を取り出せないようにしてほしい。

「だが、取り出されない為の方法は残念ながらない」
『!』
「だから俺は調べた。靄の戻し方を…」

取り出されない方法は分からないが、靄の戻し方なら少なからずも調べられる事が出来て分かった。
恐らく取り出されない方法は本人の気持ちによるもの。悠那がしっかりしなければフィアンマは何度だって悠那や他の化身使い達を苦しめるだろう。

「それを調べるのは簡単だった。同じ化身使いである神童、剣城、天馬、錦の誰か一人がその悠那の靄を吸収しなければならない」

かなりきつそうだが、と円堂は呟くように言った後に悠那の傍に居る逸仁の方を見た。怪我を負っているせいかそれとも疲れているのか、逸仁は一点を見つめている。手当てはしたがやはり疲労と精神的な怪我やらは取れないのだろう。
そこで皆の脳裏に思い出されたのは白恋中との試合後。
あの時、混乱していた中逸仁が現れ、悠那に何かしていた。もしかしたら逸仁は今円堂が言った事をしたのではないか、と。

「逸仁さん…」
「ああ、その通りだ…体が冷えてんのは感覚を麻痺させたからと冷やした方がまだ苦しさを紛らわせられる」

だから体が冷えているのだろう、寒そうだがこっちの方が良かった。悠那も納得いったのか逸仁から目線を外して必死に自分の体を温めようとしている。当分は寒そうにしていそうだ。
こうならない為にも、次からはあの白竜という人物には気を付けないといけなくなるだろう。

…………
………

『でも、まさか本当に守兄さん達がここに居るとは思ってもみなかった』

場所は移動して、恐らく円堂達がさっきまで居た所であろう場所に移動した。そこには焚き火やら円堂達の荷物が置いてある。焚き火の暖かい光に誘われ皆はそちらに行く。そして、悠那を一番焚き火の近くに行かせ、改めて風丸達を見る。
手にホットミルクを持ちながらそう一言言った悠那。震えも先程よりも収まってきており、今は普通に話せるようにもなっていた。だがやはりまだ寒いという事で風丸の上着を羽織っている。話題も暗くなったままであり、疲労があった所為か逸仁も眠っている。
疑っても信じてもいなかった事だったが、円堂だけではなく風丸や壁山、不動、吹雪も居るとは思わなかった為、改めて驚愕の表情を浮かべていた。

「サインとかありかなっ?」
「やめとけ…」
「はーいはい!僕西園信助って言います!一年でDFです!」

子供のようにはしゃぎだした信助。おかげで静かだった洞窟の中も信助の声が響いて若干騒がしくなった。どうやらサインは諦めたのか、自分の自己紹介を始める。
それを見てか、天馬も風丸達の方を向いて口を開いた。

「俺も一年生で、松風天馬といいます!」
「はい!僕もいいですか?」

少し照れたように、信助と同じく自己紹介をする。信助に天馬ときて、隣に居た輝も自己紹介をしたくなったのか、右手を思い切り上げて自分も自己紹介してもいいかを風丸達に聞いた。
だが、そこで察したのが悠那と円堂、そして吹雪。まだ名前を知らない風丸達は嬉しそうにしながら、頷いてみせる。これは反応が楽しみなものだと悠那はホットミルクを飲みながらふふっと密かに笑ってみせた。

「一年FW、影山輝です!」
「「「影山あ!?」」」
『っぶ』

やはり期待を裏切らない大人達だ。顔を一々見なくとも彼等が十分に驚いているのは分かる。だからと言って見ない訳にもいかないので彼等の基調な驚愕ぶりを見る。(特に不動)
すると、壁山が顎に手を当てて上を向きだした。

「壁山といえば…………どうしても、あのイメージが出てきてしまうッス…」

まるで壁山の想像したイメージが見えるかのように風丸と不動もまた頷く。そんな大人達が不覚にも可愛いと思ってしまったのは秘密だ。だが、こんな所で暴露をした輝の心情は意外にも冷静でいた。

「はい、皆さんご存知の影山零治は僕の叔父です。叔父が皆さんに…いえ、サッカー界に多大なるご迷惑をかけた事は知っていました。
でも、叔父はサッカーを愛していた人だとも聞きました。だからこそ、僕もサッカーをやりたいと思ったんです」
「…運命の悪戯ッスね…」
「こうして、皆さんとプレーできる事にもとても縁をかんじますっきっと叔父も喜んでいると思います!」
「そうだな、頑張れよ影山」
「はい!よろしくお願いします!」

こうしてサッカーが出来るのも、影山零治のおかげだと。あまり知らない自分の叔父の事をここまで言える子は本当にすごいと思う。普通ならそんな叔父を持った自分は最悪だとか、サッカーをやりたくないと感じる子だっているかもしれない。だけど、この輝という少年は純粋に叔父の事を尊敬している。鬼道や不動みたいに。

『(運命の悪戯かあ…)』

本当にそうかもしれないな
ふっと小さく微笑んで残っているホットミルクを飲みほした。

…………
………



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