「ここが清麿の家だ!」
『ここが…っ』

昔の住所を頼りに来ていたら、少し迷っていただろう。
雨の中ガッシュにひたすら走らされていた茜は、ようやく止まって指差す家を見上げては息を洩らしながら呟いた。
本当に来てしまった、と理解すると、走ったせいかそれとも緊張し始めたせいか、心臓がバクバクと鳴りだしていた。
だが、ここからが本番だ。もし本当にここが高嶺家なら、清麿はこの家の中にいる。それだけで、頬が熱を帯びだした。

「そして今日からお前は私の友達だ!三人で清麿の部屋を乗っ取ろうぞ!」
『は、ははは…(私もすっかり仲間なのね)』

ガッシュのペースに流され、苦笑の笑みを洩らす。そして、ガッシュは本当に乗っ取ろうとしているのか分からないが、気合いを入れて玄関の扉を開けて行った。その後に、犬が付いて行き、最後にその後を追い中に入ろうとしていた。

《茜》
『あ、何…?』
《気を付けろよ…あの犬、魔物だぞ》
『え?!』
《シッ!……他にも魔物の気配を隠す気がない魔物が一体、近くに居る》
『そ、そんな…、』

まさか、高嶺くんの家の中でその魔物がいて、もう襲われているのでは…。そう不安が襲い掛かってきて、別の意味でバクバクと心臓が波打った。
そして、今一緒に来た犬も魔物となると、その魔物のパートナーが近くに居るかもしれない。もしかしたら、戦闘になってしまうかもしれない――
それだけは避けたい。せめて、広い場所での戦闘を――

「ん?誰か来てるのか?」
『ッ!』

ガッシュのその声に、茜はハッと我に返り、ガッシュの方まで駆け寄る。玄関の方には、濡れた靴が三足。一つは清麿のだと分かったが、後の二足は、白い女性物のブーツと、黒い革靴。
どちらかが魔物の靴で、どちらかがパートナーの靴だとすると、清麿は自らその二人をこの家に招き入れたように感じられるが、まさか、もう既に襲われているのでは…。ガッシュが無事に居るという事はまだ、本は燃やされていないという事だが、それでもやはり不安だった。

《いいか、危なくなったらオイラは前に出るからな。》
『う、うん』
《今は、この強い方の魔物を刺激しないようにする事だ》
『分かった…』

ああ、彼が付いて来てくれていて良かった。きっと、彼が居なかったら自分はどうしたら良いのか分からずに一人で混乱している所だった。
やはり、小さくても、自分のパートナーだ。茜は僅かに静まった鼓動を感じ取りながら、静かに高嶺家の中へと足を踏み入れた。

―――――…………
―――………

「そう…“赤い本”の子は記憶を無くしているのね…これで納得がいったわ」

いきなり家に押しかけてきた、謎の女性。金髪に白い洋服、見た所良い所のお嬢様だろう。そして、そんな彼女が見せてきたのは、清麿の持っている赤い本に良く似た黒い本だった。そして、その本のパートナーとして相応しいのは、子どもという威厳をどこかへ置いてきたであろう黒い子ども。
その二人が、清麿の有無を聞かず、この家の中に入ってきた。

まず聞かれたのが、この本の事をどこまで知っているのか、という事。魔物からはどう説明を受けているのか、だった。
生憎清麿のパートナーであるガッシュは記憶喪失である為に、この本がどういう物なのか、彼がどこからやってきたのか、全く知らない状態だった。
それをそのまま伝えたら今のような言葉が返ってきた。
どうやら口振りからして、この女性は全てを知っているような、そんな口振りだが、清麿は警戒を解かず彼女らに尋ねた。

「あんた…どれだけ知っている?ガッシュは何者なんだ?」
「そうね…教えてあげるわ。その方があなたも本を渡してくれやすくなりそうだし…」

トントン、と自分の黒い本を指先で弾くと、そう告げる。どういう意味だと、清麿も自分の赤い本へと一度目をやりながら、再び女性の方へと視線をやる。
そして、次に彼女の口から出て来た突飛な単語に、驚愕の表情を浮かばせた。

「簡単に説明するならば――「魔物」」

ドカァーンッと外で、雷が鳴り響き、清麿の衝撃を露わにしていた。気品溢れるこの女性から何とも突飛で現実味のない単語が口から出て来た事に、清麿はどうしても驚きが隠せなかった。
そして、そんな彼等の会話を、扉越しに聞いていたガッシュと茜の耳にちゃんと届いていた。

「あの子は…人間界に放たれた、魔物の子ども達の一人なの」
「魔物だと…?」
「あくまで私達の言葉で説明するならよ。あなたは信じられないでしょうけど、人間界とは別に、もう一つの世界があるの」

それが魔界。
普通の一般人が聞いていたら、きっといきなり別世界の話しをされて、信じられないし、どうかしてると思うだろう。
だけど、その世界を信じているのはその女性――シェリーの他に居た。
それは、先程から扉超しでガッシュと共に話を聞いていた茜だった。何故ならば、茜もまた魔本と呼ばれる本を持ち、モモ太郎という魔物のパートナーもおり、今まで少ない経験ではありながら戦ってきた。

「まあ…すぐには納得出来ないと思うけど…それ以外にあの子の存在をあなたに説明出来て?」

その魔界にも社会があり、そして――それを治める王がいる。

「王…」
「その王を決める戦いが、千年に一度…この人間界で行われてるの」

魔界で選ばれた100人の子どもが本と共に人間界に送り込まれ、王の座をかけて戦い合う。

「ルールは簡単。私もあなたも持っているこの本…。この本は人の心を力の源とし、この子達の能力を開発する、いわば使用説明書。
しかし、同時に…この本が燃えてなくなれば…王になる資格が失われ、魔界へ強制送還されてしまう」
「!」

清麿は密かに昨日あった出来事を思い出した。昨日のあの戦いで、青い本を燃やした時、あの本が消えると同時にレイコムの姿も光の粒となり消えていった。
あれは、ただ消えたわけではなく、自分達の世界である魔界へと強制送還されたのだ。

「…と、言う事は…」
「そう…。この魔物の子ども達は、この人間界で最後の一人になるまで戦い…互いの本を燃やし合う…」
「じゃあ…」
「その生き残った奴が…」

「次の王だ」

それはまるで、王様ゲームのように――…


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