「なんか今日はスゴかったわね。皆、高嶺くんと話したがるんだもん!」
「現金なんだよ…」

…これは、どういう光景なのだろうか。
茜の目の前には、水野が嬉しそうに清麿と話しをする光景。ガッシュとは言うともう既にあのスポーツバックを着ておらず、二人の一歩後ろを歩いている。つまり、茜の前を歩いているのだ。先程、校門を出ようとした茜に「一緒に帰らないか?」と誘われ、断れないまま茜は二人に付いて行く形となっている。空気扱いされているみたいで、二人の会話に入れない。

「違うわ!皆、やっと高嶺くんの良さに気がついたのよ!」
「…そうかね…」

ある意味、ネガティブ思考の清麿。そんな清麿に必死に水野が励まそうとしているが、本人はやはりそうは思っていないらしい。すると、二人の一歩後ろを歩いていたガッシュが清麿の隣に行ってしまい、会話に入って行った。これで茜は完璧に空気扱いとなってしまい、心中で泣いていた。

「そうであるぞ、清麿。これからは、もっと人気者になるぞ!
一日一回のペースで正義の味方作戦を実行すれば…」
「まだやる気か」

ぐっと拳を作り、ガッシュはそう輝かしく言う。そんなガッシュに清麿は呆れたようにツッコミを入れた。そんな彼等の様子を見て、思わずプッと吹いてしまった。すると、三人の視線が茜の方へ来てしまい、吹いた事を後悔した。「ごめんなさい」と謝れば、こちらへと近付いてくる足音が聞こえた。

「私スズメ。水野鈴芽って言うの。アナタは?」
『え、あの…神崎茜…』

顔を上げればそこには優しそうに微笑む水野の顔が見えた。そういえば、自己紹介はまだだった気がする、と水野の名前を聞いた後に茜も自己紹介をした。すると、水野は名前を聞いた瞬間、「茜ちゃんね!」と手を握ってきた。うわあ…と小さく驚いていれば、次にはいつの間にか足元に来ていたガッシュがこちらを見上げていた。

「私の名前はガッシュ・ベル!お主も清麿の友達か?」
『…あ、えっと…』

これは難しい質問が来たものだ。確かに彼の事は知っているが、この微妙な距離は友達と言えるのだろうか、と必死に考える茜。

『小学3、4年生の時に同じクラスだったの』

だから友達というより知り合いに近いかもしれない。だが、まだ幼いガッシュはその言葉の意味が通じなかったのか、おお!と目を輝かせて声を上げてきた。何故声を上げたのだろう、と次に水野へと目をやれば、若干ショックを受けているような表情をしており、呆然としていた。この二人はどうしたのだろうか、と茜はついに清麿の方を向けば、清麿もやはり分からないのか、首を傾げていた。どうしたものか、と茜も首を傾げてみれば、目を輝かせるガッシュと目があった。

「そんなに昔から清麿の友達だっとは!良かったのう清麿!」

清麿の友達の第一号は茜殿だったか!とガッシュは茜の手を掴むと、上下にぶんぶん振り回す。やはり少しだけ誤解されているようだ。ガッシュが茜の手を掴みながら、清麿の方へ歩み寄れば、清麿は若干怯みながら「あ、ああ…」と相槌を打った。すると、さっきまで茜が居た場所に止まっていた水野が、勢いよくこちらを振り返り、近寄ってきた。

「ま、負けない…!」
『はい…?』

一体、何に対して負けないと言ったのだろうか、とは思ったが、勇ましい顔でこちらを見られている為聞けない。あ、あははっ…と苦笑しながら、不意に自分の手を掴むガッシュの手へと目がいった。
暖かい手、見た目が幼い割にはかなり力強かった。これが、魔物の力。自分の家に居るモモ太郎とクオンは獣型の為、中々そういう力には気付けなかったが、ガッシュみたいな人の形をした魔物はこんな風に、人間みたいに暖かいものなんだ。力が強いのはやはり魔物だから。今はこうして普通に接しているが、いずれは戦わなければなからない日が来るんだ。
そう思った瞬間、茜はガッシュの手を強く握り締めた。

「ウヌ?」
『あ、ごめんね。痛かった…?』
「ウヌ、大丈夫だぞ!」
『そっか、』

だけど、どこか違和感。この子は魔物なのに、普通の人間みたいに振る舞っている。本当の小さな子供みたいに。
すると、先程まで「負けない…」と言っていた水野が思い出したように「あっ」と声を上げて「ガッシュくん」と呼んだ。すると、ガッシュは茜から手を話して水野の方へと歩み寄って行った。

「(コソッ)ガッシュくんが来てから、高嶺くんかっこよくなったよ!」
「もちろんだ!私が付いておるのだぞ!」
「これからも、高嶺くんを宜しくね」
「ウヌ、任せておけ!」

水野がガッシュの目線と同じになるようにしゃがみ込んで、手を口元に持ってきて口元を見せないようにする。そして、小さな声でガッシュに何かを言っている。これは所謂コソコソ話し。だが、それはガッシュには分からなかったのか、何かを答える度に普通に話すみたいに声のトーンは変わっていなかった。

「何コソコソ喋ってんだ?」
「フフフ…秘密、秘密っ」

清麿が話しかけた頃にはもう、話し終えたのか、水野は勢いよく立ち上がり、そう言った。嬉しそうにそう言った彼女を見て、清麿と茜は顔を見合わせて顔を傾ける。どうやら話しの内容はガッシュにしか教えなかったらしい。
水野は周りに花が出るんじゃないかというくらいにキラキラしており、鞄を振り回す。その姿は天然な彼女にしか出来ない程。今度、天然水ちゃんと呼んでみようか。

「じゃ、私こっちだから!明日も必ず学校でね!またね茜ちゃん、高嶺くん、ガッシュくん!」
「おう」
『また明日…』
「ウヌ!また明日なのだ!」

そうして、水野は曲がり角へと走って行き、清麿達に手を振って一人だけで帰ってしまった。残された三人。一気に気まずさが清麿と茜に襲いかかってきて、そこの空気だけ重たく感じられた。

「…悪いな、付き合わせちまって」
『あ、ううん。面白い子だね、水野さん』
「んー…まあ、それがアイツって言うか…」
『はははっ…』

それは軽く水野さんに失礼だと思う、と茜は思ったが、自分も軽くそう思ってしまった為、何も言えない。むしろ、乾いた笑いしか出なかった。
その場で止まっていてもアレなので、清麿は苦笑をした後、歩き始める。茜は付いて行こうか行くまいか迷ったが、帰る方向が同じだったので、控えめに清麿の少し後ろを歩いた。

…………
………

清麿の家は大体どこらへんなのだろうか、なんて思えてきた。気付けば場所は河川敷に付いており、日も暮れ始めてきた。段々清麿の傍を歩くのが居たたまれなくなってしまった茜は、早く自分の家に着け、と心中で願っていた。
すると、そんな彼女に清麿が振り返ってきた。

「そういえば、茜の家ってどこなんだ?」
『え?!えっと、ここを真っ直ぐに行けば、着くけど…』
「じゃあ、俺ん家の方向か」

今まで黙って歩いてきた清麿と茜。ガッシュの場合はちょくちょく清麿に話しかけていたので、茜は直接会話に入れなかったのでもちろんそんなに喋ってはいない。そんな中、清麿がいきなり過ぎる声かけに茜は何も考える事が出来ずに、どもりながら答えるしかなかった。そんな茜に疑問を感じた清麿だったが、直ぐに前を向いて、そう答えた。やはり、迷惑がかかっているのではないだろうか。

『…あの、高嶺くん。迷惑じゃない…?』
「?何でだよ、俺が誘ったのに別に迷惑じゃないよ」
『だって、その…

高嶺くんが、いじめにあってた頃、私何も出来なくて…』

つまり、茜はいじめている人でもいじめを止める人でもない傍観者に近い。そんな人と、今は清麿の近くに居る。それが、茜にとってはかなり心苦しい事か。水野みたいに清麿を励ます事が出来なかった自分が、腹が立って仕方ない。強く握り締められた茜の拳。顔を俯かせて歩みを止めれば、清麿とガッシュも歩みを止めた。

「そんな事ないではないか!」
『あ…ガッシュくん…』

顔を少しだけ上げれば、ガッシュの顔が。茜にこれ以上言わせないと言わんばかりにガッシュは茜の目を反らさずにそう訴える。その目の力に、茜は反らす事が出来なかった。似ている。モモ太郎の目と。
すると、茜の前を歩いていた清麿が、ガッシュと並んで頷いてきた。

「…あの時の俺は、ひねくれてたから、助けは要らねえとか思ってた」
『……』

誰も助けなかったから、昔の彼を救えなかった。自分の力無さに、自分の勇気の無さに、悔しくって仕方ない。清麿のその言葉に、再び茜は落ち込むように肩を落として顔を俯かせる。傍でガッシュが「おい清麿!」と声を上げるが、清麿は気にせずに言葉を繋げた。

「だけど、お前に背中を押された時や、ガッシュの言葉に、俺は今までの自分がバカらしく感じたんだ」
『え…』
「ウヌ?」

それは、あの時の私の行動は清麿の為になったんだろうか。そんな事を思いながら顔を上げれば、清麿は目を泳がせながら必死に何かを二人に伝えようとしているのが分かった。
これは、ハンカチを返すチャンスなのだろうか。今まで緊張とか妙な不安を抱え過ぎて忘れてしまっていた茜。そして、スカートのポケットに入っているハンカチを取り出そうと手を伸ばした時だった。

「あ…あ…ありが…」
「?」

自分の今まで人生で“ありがとう”と伝えたのはいつ頃だろうか。言葉が急に詰まってしまった清麿は、改めてガッシュと茜を交互に見るが、何故か余計に言い出せなくなってしまい、ぐっと口を紡いでしまった。今更になって照れくささが増してしまい、清麿は二人から再び視線を外した。

「この借りはいずれ――…」
「“ギコル”ッ!!」
『「え…?」』

ドンッ!!

不意打ちだった。


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