あの清麿とガッシュの後を、クオンの鼻を頼りに付いて行けば、とある場所に辿り着いた。
入り口は守るように青い人達が立ちふさがっているが、碧の身長でも見えるような店の看板が目に入った。
甲虫銀行。碧はまだ二年生。漢字なんて習いたてなのだ。少なくとも最初の二文字が読めなくとも銀行という文字は読めた。きっとあの青い服の人達は警察なのだろう。

「…っあ、さっきのお兄さん達だ」

自転車に乗って、清麿は背中にしがみついていたガッシュの襟元を掴んだ。何をするのだろうと様子を見ていた時だった。彼はガッシュを掴み、思い切り投げようとしていた。
だが、ガッシュは投げられる前に清麿の腕を掴み、背負い投げをして自分と一緒に銀行の窓ガラスへと突っ込んで行ってしまった。今までに見た事の無い、いや寧ろこれから先にも見る事も無いだろう展開に、清麿も碧もクオンも目を疑った。

「うそ…」

パリーンッという音を最後に、清麿とガッシュは警察の頭上を通り過ぎていき、銀行の中へと突っ込んで行った。唖然とする碧とクオン、そして警察達。警察が居るという事は、銀行に何かあった事。銀行は、お金を沢山預かっている場所。つまり、銀行強盗が居ると考えていい。
そんな所にあんな無防備な突入の仕方は危険過ぎる。

「うわあ…どうしようどうしよう!!どうすればいいんだ?!」
「ワンッワンッ!!」

一人で頭を抱えながら、必死に少ない知識で状況を考えてみる碧。ついに膝を折って考えてみるが、やはり八年しか生きていない子供には賢い考えが出てくる筈がなかった。
謝罪も出来ないであの人達が死ぬなんて絶対嫌だ。魔物と魔本があるから大丈夫なものの、もしもの事があるなんてまだ小さい子の考えは不安ばかりだった。
自分の持つ魔本の手に力が入った。
そんな時、しゃがみ込んだ碧のズボンの裾を口で引っ張りながらどこかを示していた。

「クオン…?」

クオンの名前を呼べば、今度は自分が持つ魔本へと顔を近付けてきた。クオンは魔本があるのを見て、匂いを嗅ぎ始める。そして、そこで碧はクオンが何を伝えたいかが分かった。
つまり、クオンはこの本を使って清麿とガッシュを助けろという事だろう。それが分かった碧は、うん、と頷いて直ぐに立ち上がった。

「役に立つか分かんないけど…っ」

僕達だって、戦える。
頷き合ったクオンと碧は、警察の目が届いていない場所へと急いで向かった。

…………
………

一方その頃、銀行へと窓ガラスから飛び込んで行った清麿とガッシュは、かなり緊迫とした空気に包まれていた。

「(よし…よし…結果オーライだ…どうなるかと思ったが…犯人に姿を見られていない)」

プラス思考プラス思考…と、目に涙を浮かばせながら痛いと泣くガッシュの口元を抑えて、頭にガラスの破片を刺しながら必死にプラス思考へと持っていった。
いきなり入ったとはいえ、二人はまだ自分達の姿は見られていなかった。

「(これなら俺一人が姿を現して、犯人を引き付けてる間に、ガッシュを密かに移動させ…)」

あとはこの本を持ち、“ザケル”と唱えれば…ガッシュの口から電撃が走り、犯人を退治出来る!!
清麿は本を縛っているベルトを外しながらなるべく冷静になり、思考を働かせる。確かに犯人にはガッシュの術を使って、人質は解放される。
だが、ここで問題があった。

「(問題は、電撃が強すぎて、直接当てると犯人が死ぬかもしれない事か…)」

屋上でのあの電撃。あの時の電撃はかなり溜めて放っていた。そのおかげで屋上のもう一つの入り口が壊れてしまった。挙げ句の果てには屋上のコンクリートの三分の一が壊れてしまったのだ。これくらいの威力を持った電撃を今ここで出してしまったら、犯人どころか人質にされている人達も危ない。

「(なんとか間接的に当てるとかしないと…)

ん…?」

その時だった。視線をズラせば、どこからか僅かだが、小さな音が聞こえた。犯人の数は見た限り二人だ。まさか、他にも犯人が…?それともまだ捕まっていない人が…?
どちらにせよ、こちらに気付かれるのは時間の無駄だ。犯人だったらこちらも人質に、捕まっていない人だったら、こちらに気付いて騒がれるに決まっている。

「(どっちだ…犯人か…まだ捕まってない人か…!?)」

清麿が、そう身構えて本を体の内側に隠した時だった。前方から見えたのは、先程ぶつかりそうになったあの公園に居た少年と、子犬だった。四つん這いになって周りをキョロキョロと見渡していた。

「(あ、あの子…!)」

何故こんな危ない所に居るんだ?彼等は確か公園に居た筈だ。銀行なんて来るような年でもない。
一気に自分の心拍数が上昇していくのが分かった。もし、自分が変な行動を起こしてお互い見つかったら助けるどころか捕まってしまう。もしかしたら殺されてしまうかもしれない。
そんなマイナス思考が自分の脳裏に鮮やかに映った時だった。視線を僅かに少年の手元を見れば、青い色をした自分の持つ本と似ている本を持っていた。

「(あの子も、俺と同じ本を…!?)」

じゃあ、ガッシュと同じ力を持った子は…あの犬?
いや、そんなまさか…と清麿は自分の思考を遮るかのように頭を左右に振った。
すると、それに気付いたのか少年はこちらを向いては嬉しそうな表情を浮かばせてこちらへと近寄ってきた。足音や周りに気を付けながら近寄ってきている所を見ると状況は読み込んでいるらしい。

「お兄さん…!」
「キミ、どうしてこんな所に…危ないだろ?」

小声でこちらに話しかけてきた少年。その姿に唖然するも、自分も小声で問いかけた。すると少年は少しだけ瞬きをした後、考えるように腕を組んだ。

「あそこから入ってきたの」

指を差してどこかを示していた。そちらを見てみれば、そこには裏口であろう扉が。恐らくこの少年はそこを通ってここに来たのだろう。すると少年はニコッと笑みを浮かばせて清麿の方へと振り返ってきた。それと同時に見えたものは、碧色をした本。

「キミの持っている本は…」
「これ?これはね、クオンの本なんだ。だから」

この力で犯人を倒そう!と清麿の片手を握ってそう言ってきた。
力と言っている所で彼はクオン、つまりこの子犬がガッシュと同じ力を持つもの。少年が本を持っている事はかなり驚いたが、子犬の力を知っている事にはもっと驚いた。もしかしてこの子はガッシュや子犬、そしてこの前出会ったあの風を操る少年の正体を知っているのでは…?そう考えた時だった。

「我が名はガッシュ・ベル!!お主ら悪党を退治しに参った!!!」
「「?!」」

先程から静かだと思って振り返ってみれば、金髪の少年は自分達の近くには居なかった。どこに行ったかとキョロキョロしてみれば、ガッシュはカウンターの方へと行き、受付の人がいつも座っている所へと堂々と立っていた。そして、堂々と自分の名前を言うどころか、自分達が何しに来たかを言ってしまった。

「なんだ!ガキか!?」
「(おいおい…考えた傍から作戦失敗かよ…)」

いや待て…まだ俺が居る事はバレてない…そうだ…ガッシュに気を取られてる間かな俺が何か…
焦らずに、なるべく冷静になりながら自分の状況を確認する。視線を外して、傍に居る少年の方を見てみれば、彼もまたガッシュの行動に驚いていたのか、口をあんぐりと開けていた。

「(それに、この子達の事もバレていない…)」

力がある以上、この子達にも協力して貰おう…
そう清麿が考えだした時だった。どこからか、足音を立たせてガッシュへと近付く者が居た。

「あ―――っ!!!昨日、高嶺くんと居たちっちゃい子!!」
「おお、すずめ殿!無事だったか!」
「高嶺くんは?高嶺くんは来てるの!?」

目に涙を浮かべながらガッシュを指差して喜んでいるのは水野すずめ。その姿を見たガッシュは、嬉しそうに言った。
水野は自分が人質という事を忘れているのだろうか、他の人質達が座っているのにも関わらず、自分だけ立ち上がりガッシュへと近寄っていた。
ここでガッシュが水野に自分の居場所をバラしてしまったら、水野どころか犯人にまで知らせてしまう事だ。バラスなと言いたい所だが今の自分はまだ喋れない。

「もちろんだ!この机のカゲに居る!」
「高嶺くん高嶺くん!うわ――っ!!」
「動くな!」
「(も…もうダメだ…もう終わりだ!!)」

うっうっ…ぐふうっ…と、簡単に水野に自分の事を知らされた今、清麿は両手を顔に当てて溢れてくる涙を抑えた。水野にも犯人にも自分の存在がバレた今、清麿は彼等に自分の姿を見せなければならなかった。
反撃をする術もなく、清麿はこのまま捕まってしまう。

「(クソ…やっぱり、こんな事無謀だったんだ…)」

清麿は思い出していた。数分前の自分とガッシュのやり取りを。
水野がテレビの中に居ると言った瞬間に、これは始まっていた。水野が銀行で人質に捕らわれている、犯人は銃を持っていていつ撃たれても良かったのだ。清麿自身が助けに行けとガッシュに言われ、ここまで来た。水野はドがつく程の天然でドジだが、自分にとっては大切な友達だ。助けたい想いはあった。
だが、これでは助けに来るどころか人質になってしまう。

「(このままでは…ん?イヤ…待て…よ…)」

清麿は、ここからでも見える銀行の中にある柱と、自分の近くで身構えている少年とクオンと呼ばれる子犬。そして、彼の持つ自分と似ている本。
この子が言う力が本当なら…

「キミ、これから俺が言う事を聞き逃さないでくれ」
「? お兄さん?」
「これは、キミにしか出来ない事だ」

そこで、少年が目を見開かせながら頷いた。それを見た清麿は、ありがとうと言わんばかりに頷いた。
そして、清麿は少年の耳元でこれから行う作戦を言っていった。彼等の力を信じて、自分の持つ本の力を信じて…
ガッシュを、信じて――…

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