数分後、後半戦が始まった。天馬は先程神童に言われた事を気にしているのか全く動かない。悠那もまた先程の神童とのやり取りの所為で動こうとしない。顔を俯かせているもの目は周囲を見渡す事は出来た。
観客から見たらこの光景は激しい攻防戦だろうが、事実を知ってしまった人達にとってはただの演劇にしか見えなくなっていた。

自分は、ここに居ても良いのだろうか…
もう、こんな試合は見たくないと言わんばかりに目を固く瞑った。それと同時に自分の背後から三点目であろうシュートの音が聞こえ、追い討ちのようにホイッスルが長く自分の耳に響いてきた。

『間違ってる…』

『「やっぱり間違ってるよ!!」』

どう考えても自分の答えは最初と同じ方向に行く。その声は天馬の声と被ってグラウンドに共鳴するかのように響きだした。天馬も悠那と同じように感じていたらしく、声が自分と被った悠那を驚くように見ていた。そして、お互い目が合った途端何かが通じたのか、うん、と頷いた。

「ユナ!!」
『うん!』

それと同時に天馬と悠那が走り出し、悠那が相手からボールを奪い、神童にパスをするが、大きく逸れてしまった。そんな二人の行動に誰もが驚きを隠せなかった。神童にパスが逸れてしまった所為で、栄都学園へとボールが渡ってしまった。だがそれを今度は天馬自らが奪いに向かっていた。

「何が起こってんの…?」
「コイツ等、まさか…!?」
「お前等なんかに取られるかよ!!」

相手に渡ってしまったボールを再び取りにいく天馬だったが、上手く交わされてしまう。フィフスセクターのおかげさまでサッカーの名門校と呼ばれているにはサッカーは出来る方らしい。だが、二人は諦めずに体を張って取りに向かった。

『私達だって、負けないんだから!!』

腰を低くして、前までは苦手としていたスライディングを相手に向かって仕掛けた。その様はテストの時より上手くなっており、かなり練習をしたと見えた。素早さやテクニックが上がっていたので、それを利用し相手からボールを奪う事が出来た。

『キャプテン!!』

相手から奪ったボールをすぐさま神童に回すが、受け取ってはくれなかった。だがそれは二人にとっては想定内の事。だからそれぐらいでは諦めない天馬と悠那だった。ボールは栄都学園に奪われたり、奪い返したり。そして、奪い返すなり神童へとパスをしていくの繰り返し。神童に止めろと言われたが、二人は止めなかった。

『「キャプテン!!」』

悠那からのパス、それを天馬は勢いが止まらないようパスの勢いに自分の蹴りの力をプラスして神童にパスを回した。
これで受け取って貰えないと試合が終わってしまう。神童へと向かっていくボールを見て、取ってくれと言わんばかりに目を固く閉じた。

…瞬間だった。

―ビュオ―――ッ!!

『…!』

自分の直ぐ横を風が切るように何かが通った気がした。明らかにこの風は自然のものじゃない。じゃあ、一体何が…瞑っていた目をそっと開けて、目の前を見た。固く強く瞑っていた所為か視界は少しだけボヤけていた。だが、近くに居た天馬と少し離れた所に居た神童が見えた。天馬の表情はすごく驚きながら自分の後ろを見ていた。周りの人も明らかに自分の後ろを見ている。そういえば神童へと回したボールを誰も持っていない。勿論神童を見ても持っていない。
まさか…
悠那はそこで漸く気付いたのか、自分の後ろをそっと振り向いた。自分の後ろには確か栄都学園のゴールがあった筈。皆がそこへ目をやっているんだとしたら…

『…あ、』

ボールがキーパーと共にゴールに入っていた。自分の後ろに居た人達も唖然。キーパーなんてまさかゴールしてくるなんて思っていなかったらしく、ボールを抱えながら呆然と神童を見ていた。あのボールは自分と天馬が繋げようとしたパスしたボール。てっきりまた受け流されるんじゃないかと思っていたボール。神童はあのパスを、シュートとして放ったのだ…

『やった…』

天馬と信助が喜ぶ中、悠那もワンテンポ遅れてその場で喜んだ。勿論自分達以外の人達は驚くばかり。
1ー3、そこで試合終了のホイッスルがこのグラウンド中に響き渡った。結果としては指示通りに負けてしまったが、あの一点は自分達にとって貴重な一点だった。

「やった!やったんだ!!」
『うん!』

天馬の元へ行って、喜びを分かち合う二人。観客から見たら何故あの二人は負けたというのに喜んでいるのだろう、てなるだろうがどうしてもこれだけはこの場で喜ばなければならなかった。パスを何度も受け流していた神童が、あの力強い二人の想いが詰まったパスを神童が受け取るどころか、シュートを放ったのだ。この喜びは隠してもきっと隠しきれない程なのかもしれない。
二人がその事で喜んでいれば、ベンチで見ていたマネージャー達がこちらに寄ってきた。やはりこのマネージャー達もまた、神童が一点を入れた事で喜んでいたらしく、顔は自分達と同じく明るかった。

「やったな!お前達はサイコーだぜ!!」

ビシッ!という効果音が付きそうな位の勢いで親指を立てながら言い出した。そして水鳥は自分の胸を叩き、腰に手を当て「やっぱあたしが見込んだ事はあるよ!」と胸を張りながら言われた。それを見た一年達は笑いが込み上げてきたらしく、我慢出来ずに笑ってしまった。清々しい気分でのこの笑いはとても気持ちの良いものだった。

「Σ!?お前達笑い過ぎだぞ!?先輩だぞウチは!?」
『「「「あははははっ!!」」」』
「だって…!!」
「“だって”じゃない!」

水鳥に止めろて言われた傍から笑いを上げる一年達。茜も小さくだが笑っていた。腹を抱えて笑っていれば水鳥に頬を伸ばされてしまい、今度の笑って者は悠那となってしまった。
そんな平凡そうな笑いを上げている集団を神童達や久遠や春奈、そして剣城は何かを言う訳でもなく、ただ黙って見ていた。



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