サッカー棟は学校の階段を少し上がった所からでも行けたらしく、悠那達はそこの道を通ってサッカー棟へと来た。
部室のドアが開き、天馬を始めに中へと入っていく一年達。だが、

『居ないじゃん』

そこには誰一人と居なかった。悠那のその言葉に天馬はそうだね、と一言だけ言い何かを考え始める。どうせ天馬の事だから何で先輩達居ないんだろーとか、サッカー関連の事だろうな。天馬はそういう所でしか本当に真剣に考えるので、きっと授業中もサッカーだらけなんだろうな、と悠那は若干呆れたように決め付けていたが、実際の所それは合っており、葵と信助はその一部始終を見ていた。
すると、

「おう、早いな」

数分もしない内に自分達の後ろの自動ドアが開き、そこから数人の先輩達がどんどん入って来た。入って来るなり車田が自分達に気付いてそう言って来た。

「せ、先輩!お疲れ様です!」

先輩達に四人は通る人の邪魔だと思ったのか、先輩達を通す為退いた。そして、天馬の声と共に頭を下げた。いきなりの事で焦っていたのか、天馬の口調はどこか覚束なかった。そんな彼を見て少しだけ笑いが込み上げて来たが、まだ先輩達が入って来ているので、下手に笑えなかった悠那だった。
最後の一人が自分達の間を通り抜けた時に、天馬は思い出したように声を上げた。

「あの!練習前に何かやっとく事があったら言って下さい!俺、やりますから!」

テストが終わった頃、何か今日の天馬はえらくやる気がある。いや、別にそれが悪いと言う訳ではない。寧ろ尊敬はしている。自分も何か一言言っておこうか、と思ったがそれは再び開いた自動ドアの所為で言えなかった。
誰が入って来たのだろうと、振り向けば今度は神童が入って来た。

「あ、キャプテン!」
『「「「宜しくお願いします!!」」」』
「…ああ」

今度は四人同時に頭を下げて、声を合わせて今日からサッカー部の仲間、後輩という事で挨拶をした。それを聞いた神童はその返事以外特に言う事が無かったのか、そのまま部屋の奥へと入って行った。キャプテンという存在はやはり偉大だ。この四人を以心伝心にしたのだから。深刻そうな顔をしていた神童とは違い、悠那はそんな事を思っていた。

その後から春奈と久遠も部室に入って来たので、ひとまず自己紹介から、となった。元々サッカー部に居た二年と三年の前にテストを合格し、入部出来た一年とマネージャー希望の生徒が横に並んだ。

「じゃあ、新入部員…自己紹介をして貰おうか」

まず最初は当たり前と言って当たり前なのだが、新入部員からの自己紹介となった。自分の周りには見た事のある顔ばかりだ。ただ、その中にこの場の空気を重くする人物が居た。殆どの先輩達の目線がそちらへ行っている。自分も無意識にそちらを向いてしまった。

『(…京介)』

部室の壁に、一人だけ入部員の輪から離れてもたれかかる少年、剣城京介。何故ここのサッカー部を潰そうとしていた彼がここに堂々と居るのだろうか。彼がここの新入生というのは知っていた。だからこの学校に彼が居るっていうのも分かっていた。考えれば考える程分からなくなる彼の事。悠那は、静かに目線を外し、床に移した。

「よし、まずはお前からだ天馬!いけ!ビシッと決めろ!!」

まるでポケ○ンを出すような感覚で天馬の背中を思い切り叩いたのは瀬戸水鳥。あまりにも痛かったのか、思わず天馬は声を上げた。
しかし、そこで疑問が。

「あなたは?」
「あたし?」
「マネージャー志望かしら?」

マネージャーをやるという柄では無さそうな彼女。地面に付きそうな位まで伸ばした緑のスカート。ワイシャツのボタンは第二以上を開けており、リボンも付けていない。明らかに自分は不良ですと言わんばかりの格好に春奈は触れなくとも思った。が、念の為聞いた。彼女がここに居るという事はきっと新入部員に決まっている。マネージャー志望かと聞けば水鳥は「はあ?」と有り得ないと言わんばかりに声を出した。

「あたしはめんどーな事はやんねーよ。まあ何つーの?コイツと…」
『うわっ!?』

水鳥は天馬の頭に手を乗せ、もう片方の腕で悠那の肩を掴み、自分の方へと寄せた。あまりの事に悠那は驚きの声を上げながら水鳥の前へと来た。

「コイツの私設応援団って感じ?」
「私設応援団?」

水鳥の言葉に浜野は繰り返すように呟いた。私設とは言え、マネージャーに代わりないのでは?天馬と悠那のだけども、とツッコミたかったが、つっこんだらつっこんだであの女番長に何て言われるか分からなかった為、その一言で済ませた。

「でもあたしの事は気にしなくていーから」
『何か嫌な予感しかしない…』
「気にすんなって」
『〜〜〜っ!!』

悠那は水鳥の居る逆サイドを遠目で見ながらそう呟けば、それが残念ながら水鳥の耳に届いていたらしく、水鳥に天馬みたく背中を叩かれた。叩かれた悠那自身は痛さで声が出なかったのか、目の前の先輩達が見ているにも関わらず、叩かれた背中をさすった。それを見た二年の先輩達は少しだけ悠那に同情をするかのように見ていた。
何で私ばっかり先輩に叩かれなきゃいけないんだ…と、目に涙を浮かばせながら思っていた。


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