最初に思い出したのは、随分と幼い頃の自分の姿。
とあるノートを片手に持ちながら、庭に転がっていたボールをひたすら蹴ってはそれが何だか楽しくて気付いたら、暇な時はいつもそのボールを蹴っては遊んでいた。きっと、その時の自分はサッカーという物すら知らなかっただろう。

そして、次に思い出されたのは中学に上がった自分。
10年前の雷門中にはサッカー部すらなくて、ボール片手に入部届けを出しに行っては落胆していた。
そして、当時の部室もまた汚らしくボロボロとしており、中は物置小屋みたく色んな者が散乱していた。
そんな状態でも、円堂は秋と掃除をして、そこをサッカー部の部室として使う事に決めた。

部室が部室らしくなった瞬間、二人の読み通り、入部希望者が現れてくれた。

「初めて入部してくれたのは染岡と半田。それから、次の年の新入生で、栗松、松林、壁山、宍戸が入ってきた。学区の違いで雷門中に入った由良は女の子選手として入部。
…でも、サッカー部としてはまだまだ。…本当の意味でサッカー部が動き出したのは帝国学園に練習試合を申し込まれた時からだった」

今でも鮮明に思い出せてしまう、中学生の時の自分。悠那も帝国がわざわざ雷門に勝負を挑んでいたと知ったのは小学生に上がった頃だった。

「これに負けたら廃部になるって言われて…風丸、マックス、影野、目金…何とか集まってくれた12人の部員達。…そしてもう一人…。印象に残っているのはやっぱり豪炎寺だ。
絶対絶命の俺達の前に豪炎寺が来てくれた。…あの試合が雷門中の第一歩だったんだ」
「うん、うん」

最初は帝国の無茶苦茶な強さとサッカーに、円堂達は立ち向かう事すら出来ず、地面に足すら付けさせてもらえなかった。だけど、そんな彼等の絶対絶命の状態に、豪炎寺がフィールドに立ったのだ。
豪炎寺は円堂が絶対にゴールを守ると信じ、円堂もまた自分の力を信じ、ゴッドハンドを生み出し、豪炎寺へパス。そして、あの伝説とも呼ばれたファイアトルネードで帝国から一点をもぎ取り、帝国に勝って見せたのだ。
円堂のその言葉に、角馬もまた首を縦に振っている。そして、悠那もまた話しだけ聞いた事がある故に目を輝かせる。

「それからも雷門中サッカー部には仲間が増えていったわ。帝国学園から転校してきた土門君。アメリカに帰る筈だった一之瀬君。…二人共雷門のサッカーを好きになってくれた。日に日に強く頼もしくなっていく皆…そしてフットボールフロンティア地区大会決勝で再び帝国学園と当たる事に」

最初は帝国のスパイとして雷門サッカー部に入部をしてきた土門。だけど、雷門のサッカーは帝国とは違う何かを知り、そのまま雷門のメンバーとして活躍。一之瀬もまた秋の気に入る雷門サッカー部を気に入り、活躍。
そして、帝国戦では…

「帝国のキャプテンは鬼道だった。帝国の総帥、影山零治のフェアじゃないやり方に納得いかなかった鬼道は影山の支配から離れ俺達と正々堂々と戦った」

試合当日、フィールドに細工がされており、雷門は鬼道の指示で何とか助かったが、それでも影山のやっている事は犯罪とも呼べる物であり、その中で雷門はもちろん帝国自身も戦っていた。
その後、帝国は雷門に久し振りに負けてしまう。だが、優勝校だったが故に推薦枠として全国大会に出場。
だが、もう一校の推薦枠として全国大会に上がった世宇子中に敗れ、敗退。

「あの試合で、分かり合う事が出来たから鬼道は帝国学園を離れ、俺達雷門中への転入を決めたんだ」
「そして、雷門中サッカー部は苦しい戦いの果てにフットボールフロンティア全国大会で優勝を果たしたんですね!」

「そうだよ。雷門中サッカー部を復活させたのは円堂監督なんだよな」
『守兄さんに引っ張られるかのように、皆が守兄さんと一緒に雷門サッカー部を復活させたんだ』

円堂の話しを聞き、天馬はまるで自分達の一つ前の雷門の革命を見ているかのような実感を感じ、言葉を漏らせば、傍に居た悠那が続けてそう言う。
二人はそこで顔を見合わせると、嬉しそうに微笑み合った。


場所は変わり、円堂達は今はもう部室と使われていない、だけどそこに確かにある旧サッカー部室の前に来ては、その前へ椅子を置くなり座り直す。
そこで、CMが明けたのか、直ぐにアナウンサーはカメラに向けて顔を向けた。

「引き続き、円堂監督と木野秋さんに雷門中サッカー部についてお伺いしていきます。
雷門中サッカー部が復活して二年目にフットボールフロンティア全国大会で優勝。それ以来、現在まで全国レベルで大活躍し続けていますが、ずばり雷門中サッカー部の強さの秘密はなんでしょう!」
「皆です」
「皆とは、歴代のサッカー部員達の事でしょうか?」
「いや、雷門中サッカー部を強くしたのは俺達サッカー部員だけの力じゃないんです」

そう言って、円堂は一度秋の方を見るなりお互いに微笑み合う。そして、二人はとある記憶を思い出していた。

「仲間として、あるいは敵として戦ってくれた皆がいたから、…エイリア学園が全国の学校を攻めてきた時、立ち向かう事になった俺達」

突如、雷門中が破壊され、そこに現れたのはエイリア学園と名乗る謎の少年少女達の姿。
黒いボールは決勝戦で優勝した雷門でも敵わず、重く、全く歯が立たなかった。

「響木監督も見送ってくれた。地上最強のサッカーチームを作る為に呼ばれた瞳子監督。…財前総理の娘、塔子。白恋中の吹雪。漫遊寺中の木暮。大阪で出会ったリカ。陽花戸中の立向居。大海原中の綱海。ピンチに駆けつけてくれたアフロディ。
…ジェミニストームのレーゼ。イプシロンのデザーム。そして、ザ・ジェネシスのグラン」

全員が全員、個性的なメンバーであり、アフロディに至っては雷門中にとってはまさか助っ人として来てくれるとは思ってもみなかっただろう。
そして、そのメンバー達と、エイリア学園たちのメンバーもまた、仲間になる日が来た。

「フットボールフロンティアインターナショナルで、日本代表として戦った時の久遠監督。小学生ながらにイナズマジャパン入りした虎丸。蹴りのトビー、飛鷹。新帝国の選手だった不動。沖縄から来てくれた土方。帝国から佐久間も来てくれた。エイリア学園から緑川とヒロト」

このメンバーが全員日本代表として戦えた訳ではない。それでも、日本代表から脱落してしまった彼等の為に円堂達はその気持ちを一緒に持って行き、そして世界へと挑戦して行ったのだ。
その中には悠那の師匠でもあるフィディオも居る訳で――…

「ナイツ・オブ・クィーンのエドガー。ジ・エンパイアのテレス。ユニコーンのマークとディラン。ザ・キングダムのロニージョ。オルフェウスのフィディオ。リトルギガントのロココ。
…そして、俺のじいちゃん、円堂大介。フットボールフロンティアインターナショナル決勝で戦うことになったのはじいちゃんてじいちゃんの教え子のロココだった」

円堂達の敵になり、時にはライバルになり、いい試合をしてきた選手達。
ロココなんかは円堂に良く似ており、どっちが勝ってもおかしくない互角の勝負をしていた。
全ての選手、全ての物語を見せてくれたのは、間違いなく目の前に沢山あった、お兄さんお姉さん達の大きな背中だった。
追い駆けていた。いつか、いつか自分もこんな選手になりたい。全員分の強さなんて求められないけど、皆が皆、とても素敵なサッカーをしていたのだ。
それは目標であり、自分の超えるべき大きな壁。自分は今、その壁を乗り越えようと手を伸ばしている――…

「サッカーは一人では出来ない。仲間や対戦相手が…色んな人が関わって初めてサッカーになるんだ。それは、雷門サッカー部も同じ」

ふと、円堂は旧部室に飾られているサッカー部と刻まれている表札に触れる。
それは、10年振りの感触であり、少し古くなってしまっているが、それでも形を残そうとしている、ここは雷門のサッカー部だと証明している、表札。
円堂もまた、昔を思い出したかのように愛おしそうに撫でた。

「そう。雷門中サッカー部に関わってくれた人達皆が作り上げたモノ…俺は――」

「天馬!悠那まで…!」
「おいおい、何やってんだよ…!」

もう少しで、自分はこの人達の後を追い付けるような気がする。
そんな時、自分の足は天馬と一緒に円堂達の方まで歩み寄っていた。気付いた時にはもう遅い。信助と狩屋の制止の声なんて耳に入らないくらい、もう、目の前には円堂達がいた。
そんな二人に、三人はきょとんと首を傾げる。

「円堂監督。俺も、俺も一緒にこの雷門中を、サッカー部をずっと守っていきたいです」
『私も、守兄さん達が一生懸命守ってきた物全部守って行きたい。そして、守兄さん達に追いつきたい!』
「天馬、ユナ…あぁ!」

やはり、この二人もまた似た物同士なのだろう。同じ目をした少年少女の目を見て、円堂は静かに頷いて見せる。
合わせ鏡、二つの風…今度はこの雷門を守るのは、この二人の引っ張る雷門のメンバーなのだ、と察する事が出来た。

「あの天馬君、悠那さん。ちょっと、後にしてもらっていいかな?」
「富永君!いいじゃないか!」
「え?」
「素晴らしい感動的場面だよ!なぁ!狩屋君、君もそう思うだろう!」
「えっ…あ、はいっ」

突然の乱入に、アナウンサーも困り気味に笑っていたが、それでも構わないと角馬が言う。彼の目には大量の涙が溢れ出しており、彼もまた昔自分が雷門の実況をしていたが故に懐かしく涙を零してしまったのだろう。そして、二人の姿に呆れながら溜め息を吐いていた狩屋に向けて、同意を求める。
狩屋もまた自分に来るとは思っていなかったらしく、急いで色紙を自分の背中に回し頷いて見せた。

「天馬!ユナ!これからも一緒に、サッカーやろうぜ!」
『「はい!」』

パァンッ

円堂に向けて二人がハイタッチ。それはきっと、雷門のグラウンドにもきっと強く響いただろう。そんな乾いた音と共に、撮影も不安な空気から始まったものの、無事に終わる事が出来た。

これからは、こんなワクワクするようなサッカーが始まる。
誰も悲しまない、誰も苦しまない、平等ではないけれど、それでも自由にサッカーが出来るのだ。

そう、サッカーで辛い思いをしなくて済む。

《インストラプトの確認は終了した。修正を開始せよ。》

きっと、全ては元通り――…


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