聖堂山からのコーナーキックからの試合再開。ピィ―ッというホイッスルの音がフィールド全体に響いた瞬間に、止まっていた試合が動き始めた。
ボールが後藤へと回るのと同時に霧野が後藤の目の前へ止めようとマークに付いた。それを見た後藤は嫌そうな顔をして「邪魔だよ!」と声を上げ、それと同時に霧野と競り合いをする。だが、それは後藤が制し、そのまま上がって行こうとする。

「うおお!!」

だがそこで車田が後藤からボールを蹴り上げ、それを悠那が逃すまいと受け取り天馬の方を見て頷いた。
雷門が反撃する合図だった。

「今だ!皆上がりましょう!!」

『速水先輩!』

天馬の掛け声で上がっていくメンバーを見切り、悠那は直ぐに速水へとパスを出した。自分が上がっていいのはここまで。後はディフェンスより前に出ているポジションの選手達に任せるしかない。
――…もし、この作戦に失敗したら?ドラゴンリンクを見定めるのがまだ早かったら?…予想外の事が起きてしまったら…?
いや、それを考えるのはこの作戦が終わったらにしよう。そうでなければ集中して試合に挑めない。ディフェンスのメンバー達はただただこの作戦が上手く行く事を願うだけだった。

雷門の攻撃の開始。
速水の方にこれ以上行かせまいと、二人の選手が上がってきた。それを見て速水は、倉間へとパスを出す。だが、そのパスは御戸がスライディングで阻止。その時点でひやりとさせられたが、零れたボールを浜野がきっちりと押さえ、雷門は一気に攻め上がっていき、聖堂山陣内へと斬り込んだ。

ここで十分に上がってきた浜野は同じく上がっている剣城へとパスを回した。零さず受け取った剣城はそのまま勢いを止めずに上がっていく。相手のFWには一斎ボールを振れる事を許していない。天馬の作戦は順調に進んでいた。

「松風!」
「こいつ…!」

剣城の目の前から相手チームの選手が立ち塞がろうとしていた。そこで、ドリブルに自信のある天馬に剣城はパスを回し、天馬もまたそれを受け取ると、目の前から来ていた護巻を自身の必殺技を繰り出し、難なく交わす事が出来た。
ここまで来てディフェンスを突破。遂にキーパーである千宮路大和との1対1となった。
そのままの勢いで、天馬はまるでこれから飛ぼうとしようとするばかりの靄を自分の背後から噴出し、“魔神ペガサスアーク”を出現させた。

「いっけぇぇええええ!!!!」

「――図に乗るな、虫けら共が!!」

その言葉と同時に、千宮路の背後から天馬と同じように靄が噴出され、気付けばペガサスアークの目の前には、まさに王様のような面をした化身が姿を現した。

「“賢王キングバーン”!!!」

キーパーも、化身持ちだったことに驚きを隠せない。いや、持っていた事を当たり前だと、考えていなかったからこそ、動揺を隠せなかった。
呆然としている天馬に対し千宮路は、“キングファイア”という化身の必殺技を繰り出した。四本の手から溢れる炎。その炎をボールに向けて放った。その所為か、ボールは元の形を失う程に焦げてしまい、跡形もなくなってしまった。
それを見た審判が、顔を青ざめながらも急いで新しいボールを用意し、千宮路へと転がしていく。どうやら審判もボールが壊れてしまうとは予想をしなかっただろう。それだけ、あの必殺技は強力だという訳か、少なくともボールが破壊されるという所は今回で初めてだった。

「ハッ、お前は何も分かっていない。我らドラゴンリンクは…

11人全員が化身使いだ!!」

その言葉を合図に、他のドラゴンリンクの選手達が靄を思い切り噴出しだした。次々と姿を現していく化身達。精鋭兵ポーン、番人の塔ルーク、魔女クィーンレディア、魔宰相ビショップ、鉄騎兵ナイト、そして賢王キングバーン。まるで、自分達はチェスの盤の上に立ったような感覚がした。一瞬にしてフィールド上の空気が重くなった気がした。

「う、…嘘でしょ!?」
「おったまげたぜよ」

聖堂山全員が化身を持ち、それを全員出現させた。いや、全員ではない。正しくは、“ただ一人を抜いた”全員だった。それは、悠那がずっと見ていた上村裕弥という人物。裕弥は何故か自分以外の選手達に合わせず自分だけ化身を出さなかった。千宮路は11人全員が化身使いだと言っていたが、裕弥は実は使えないのではないだろうか?
だが、そんな疑問は次の千宮路の行動で、途切れてしまった。

「ドラゴンリンクの恐怖……その身で、知れ!!」

後ろで起きた事態に、天馬も思わず振り返り呆然と立ちすくんだ。化身使いはフォワードだけではなかったという事実に、絶望した。そんな天馬に追い討ちをかけようと、千宮路がボールを蹴り上げ、そしてそれはそのまま天馬の方へ一直線…しかも化身シュートに近い威力で放った。

「松風!」
「――!」

剣城の声で、天馬は漸く気付いた。後ろを向いていた事により反応が遅れてしまった天馬。だが、気付いた時にはもう、殆どボールと天馬との距離は縮まっていた。
このままでは、天馬はあの化身シュートをもろに食らってしまい、下手をしたら先程の三国みたく負傷してしまうかもしれない。また、傷つく人が増えてしまう――…

「――危ない!!」

ふと、天馬の目の前に自分より小柄な人物が現れ、ボールをもろに食らい小さく吹き飛ばされた。
「倉間先輩!」という天馬の声により、あの小柄な人物は倉間であり、天馬を庇ったのも倉間だという事を理解する事が出来た。天馬が当たらなくて良かったものの、代わりに倉間が当たってしまい、どちらにせよ全く安堵出来る状態ではなかった。それどころか、そんな安堵さえも与えまいと、ドラゴンリンクは化身を出現させたまま、雷門に向けてボールを放ってきた。
剣城、錦、浜野を始め、速水、狩屋、霧野、悠那もまた、ボールの餌食になってしまう。

「あれは、まさか…っ」
「化身のシュートをパスに使っているのか!?」
「ふん、お前達に我々を止める事など出来ん!」

今にもシュートをしようとする勢いで、聖城が前へと出てくる。それを見て、信助もまた顔を引き締めて自分の小さな体に力を込めて大量の靄を噴出した。護星神タイタニアスが現れた。
にも関わらず、ドラゴンリンクの選手達は口元を緩ませながらその光景を見ていた。
――そして、気付いた

「超攻撃的サッカー軍団、」

――誰よりも早く走り、

「フィフスセクターの最終兵器、」

――誰にも気付かれず雷門のゴールに現れた、

「それが俺達、ドラゴンリンクだ!!」

――上村裕弥

『あっちはフェイクだ信助!!!』
「おっせーよ!!」

その声と同時に、直ぐに転がっていた自分の体を起こし足に力を込めて走り抜けて行く。だが、数秒気付くのが遅かった。聖城は、ニヤリと口角を上げてシュート体勢を直ぐに止めて自分の反対側に居た裕弥に向けてパスを出した。

「“虚無神ニエンテ”」

ぐわん、と目眩がした。体もまたいきなり何か重い物が伸し掛かったような感覚を感じ、思わず走るのを止めてしまい、重力に従って地面へと転んでしまう。
痛い、痛いけど、そんな痛みなんて感じる暇もないくらい、自分の目は現実を映していた。ボールをいとも簡単に受け取った裕弥の背後には、藍色の靄が溢れ出て、彼の頭上には何とも不気味なんだろう、もはやあれは化身というべきなのだろうか、化け物に近い“それ”は禍々しい黒いオーラを纏い、自分の歪な姿を隠そうとしている。
こんな、こんなの滅茶苦茶じゃないか…!ふと視線を上げれば、裕弥と一瞬だけ目が合った。その一瞬だけでも、彼は自分を見てくれた。それに歓喜すればいいのか否か、裕弥は視線を信助に向けると、ここで初めて笑みを浮かばせた。

―――…、

笑みを浮かばせたところまでは、覚えていた。だけど、その次の瞬間が思い出せない。
気付いたら、信助がゴールの前で倒れていて、ボールも雷門側のゴールの中に入っていて、電光掲示板には聖堂山の方に一点が加点されていた。
何、今の。何が、起きたの。

「がっかりだよ。これが決勝戦まで勝ち続けてきた雷門の力だなんて。キミ達は今まで“サッカーごっこ”でもしてたのかい?」

グサグサ、とまるでナイフで何度も刺されたかのように心臓に痛みが走り、血液が自分の中で荒く流れていく。その所為で呼吸するのも忙しくなり、苦しくなってくる。
声の主の方へと視線をやれば、これまた冷めきった裕弥の目とぶつかった。試合前に見た、あの不気味でも優しい目ではない。今度は、本当に潰そうとしているような目――…

「キミ、それでも」

――僕の妹なの?

目の前が真っ暗になる感覚を覚えた――……



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