「まだだ!これが俺の化身!!

“豪雪のサイア”!!」
「雪村が、化身を…!?」

雪村の化身である“豪雪のサイア”
その姿は身も凍らせてしまうような正に氷の女王。既に体は冷え切っていると言うのに、未だに寒さが伝わってくる。すると、シュートを打たせまいと雪村の前に天城が立ちはだかった。

「“ビバ!万里の長城”!!」

ガンッと地面を叩き、巨大な建造物を出そうとするが、雪村はサイアの槍で一瞬にして砕いてしまった。そして雪村はそのままシュート体制へ。

「食らえ!

“アイシクルロード”!!」

雪村と同調するように、サイアは雪村のシュートと共に槍を一閃させた。
一見エタナールブリザードに似ており、あちこちに雪の結晶が散らばる。だが、放たれた物はやはり化身シュート。重く、素早く、迫力がある。元々凍っているフィールドを更に凍らせた。
そんなシュートに三国は反応出来ず、ボールはそのままゴールに入って行ってしまう。

ピ―――ッ!!

長いホイッスルが得点を許した合図となり、鳴り響いた。

「そうか…フィフスセクターは雪村のこの力を欲しくて、僕を追放したのか…っ」

やっと追放された本当の意味に気付いた瞬間。だが、それはもう遅い事。
点を取られた悔しさで雷門の方はもう一度必殺タクティクスをする事に。
白恋は右側、天馬達の方へ動いて“絶対障壁”で防いだ。大人数で動く割にはかなりの素早さ。またもや必殺タクティクスが破られてしまった。

「これがアイツの教えた作戦か。使えないな」
『!そんな…「そんな事ない!」…天馬』
「!」

吐き捨てるように言う雪村に悠那が反論しようとすれば、それを天馬が遮り同じく反論する。

「必ず突破するさ!」
『…うん!』
「!…」

天馬と悠那の強い意思が宿る目が雪村を捉えた。
吹雪が、白恋中を助けて欲しいと頭を下げてまでお願いし、絶対障壁の対抗策も教えてくれた。それを無駄とは言わせない。

ピッピ―――ッ!!

さっきとは違う長いホイッスルが鳴りだし、前半終了を告げた。

皆がベンチに戻っている時、吹雪がベンチから立ち上がった。

『……』
「雪村。教えてくれ、何故キミまでフィフスセクターに…?」

吹雪が向かった理由は、雪村に真実を聞く為。悠那はベンチに座り、その様子を静かに見守る。

「…アンタに勝つ為さ」
「フィフスセクターがどんなサッカーを推し進めているか」
「知ってるさ!」
「それなら何故…!」
「フィフスセクターは、絶対に裏切らないからだ…アンタは俺を裏切った。“一緒に強くなろう”と言った癖に…」

裏切る、裏切らない。
それを人間の人格さえをも奪って行くのだろうか。雪村の表情は試合前よりも酷く歪んでいる。誤解が誤解を生むというのはこの事を指すのか。
疑いを晴らす為、吹雪は必死に対抗した。

「そうじゃない!あれはフィフスセクターが仕組んだ事なんだ。キミの能力に目を付け、僕を遠ざける為に…!」
「今更言い訳か!?」
「雪村…」

雪村がどれだけ怒ってるかは話しを聞いていた悠那には確かに伝わって来た。別に彼の肩を持った訳じゃない。でも、だからこそ何故吹雪の話を聞いてくれないのか。本人の事は本人に聞くべきだ。
他人の言う事を信じて本人を信じないなんて不公平過ぎる。

「俺はアンタを見返してやろうと心から誓った。だから雷門を倒し、アンタに勝つ!!」
「!……雷門のサッカーはキミが考えているより手強いぞ」
「俺は!俺自身が編み出した必殺技で雷門を叩きのめしてやる!!」

そう吹雪に宣言し、白恋のベンチへ戻ってしまう。悠那はタオルを頭に被せ、背中を背もたれに預けて視線を下に落とす。落とせば、自分の負傷しているであろう左足が目に付いた。
試合の得点は二点差。フィールドをやっと攻略出来たと思ったらこれだ。“絶対障壁”も未だに破る事か出来ていない。“ダブルウィング”も未完成のまま。

早く、士郎兄さんとの約束を守らなきゃ。早く、雪村さんを救わなきゃ。
早く…勝たなきゃ
そんな事が悠那の頭に過ぎった、その時だった。

「おーい!ちっくと待っとうぜ!!」

「錦!」
「間に合ったか!」

不意にどこからかこの場に似合わないような声が聞こえる。そちらに目をやれば、カッターシャツを着た黒髪のポニーテールの青年が慌てながらこちらに走って来ていた。

『錦兄さん…?』

悠那も神童の後に続き、その人物の名を呟いてから近づいて行く。

「遅れてスマンきに!錦龍馬、只今参上ぜよ!!」

坂本龍馬みたいな喋り方で元気良く言う。そんな彼に先輩達は懐かしそうに近付いていった。

「いや〜、おまんらが何ちゃあ革命じゃあ言うて苦しい戦いしちょるて聞いてのぉ、居ても立ってもおられんようになったがじゃあ!」

錦は少しなまりを入れながら久々に会った先輩、友達に挨拶をし、何故ここに来たか理由を話した。

「この人が錦先輩…!」
「儂が帰って来たからにはもう大丈夫じゃきに!ドーンと大船に乗ったつもりおったら良いぜよ!!」
「何か頼もしい感じだね!」
「うん!」

一年生達は今までに無かった男前な先輩を見て、頼もしそうに笑みを浮かべる。
この人ならきっと何とかしてくれると。
すると、錦が誰かに気付いたのか背中を見せるのを止めて神童達の後ろを見て目を擦った。そして、

「ん?お!ユナじゃなか?!」
『久し振り、錦兄さん』
「「「Σ兄さん?!」」」

悠那が先輩達に使わない“兄さん”に違和感があったのか、神童達は驚きながら二人を見やる。もちろん二人は兄妹ではない。だが、彼女は確かに“兄さん”と言った。

「珍しい…ユナが監督達以外に兄さんって言うなんて…」
『まあ、錦兄さんはもう一人の師匠みたいな存在だしね』

尊敬してるんだよ、と言えば錦に頭を撫でられた。

…………
………



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