「いやあ、実に見事だったよ!あの悪の組織に勇敢に立ち向かい、そして解散させた!君の素晴らしい働きを称してこの感謝状を贈ろう!!」

意気揚々と讃辞の言葉を並べ立てて、彼に渡されたのは一枚の紙切れだった。ちらりともう少し何かないものかとも思ったが、彼もそこまで気にしていないようだし、そもそもその紙切れでさえ彼は表情でいらないといっていた。
「勇敢なトレーナーさん!私達はテレビの取材なのだけど、少しインタビューをさせてもらってもいいかしら!」
爛々と目を輝かせた女性が彼の元にせまっていた。今回の彼の働きを称して感謝状を贈る場を設けたのはカントー警察と、私も所属しているポケモンリーグだ。この取材陣は恐らくリーグの連中が呼んだのだろう。子供達にポケモントレーナーという生業の好印象を植え付けるには持って来いの広告塔だというわけだろうな。

「じゃあ、ひとつめ!この活躍を伝えたい人は誰ですか?」
少年がこくりと頷いたのを確認してレポーターがマイクを向けた。赤く純粋で綺麗な目を左右に少し泳がせてから口を小さくぱくぱくとする彼はやはり当然だが、随分幼い。
「もう少し大きな声で言えるかなあ?」
笑顔を絶やさないレポーターも完全に英雄よりも子供を相手にしていた。
「ぐ、グリーン、と、お母さん、に…」
やっと聞こえた声は酷く震えていた。どうしていいかわからないという戸惑いがひしひしと伝わってくる。
「グリーンくんは確か幼なじみの子よね!きっとその子も友達がこんなに凄いことをしたんだもの!喜んでいると思うなあ!お母さんにも旅を終えて帰ったら、きっと褒めてもらえるわね!」
ただ、レポーターはそんな彼の様子を汲み取れないらしい…というより、彼女の意識はあの無機質なレンズにしか向いていないのだろう。だから私はメディアはあまり好きではない。

「じゃあ次、あなたはどうしてロケット団を倒そうと決意したのかな?怖くはなかった?」
レポーターが再び彼にマイクを向ける。しかし少年はぎゅうと眉間に力を入れて唇を噛み締めてしまった。

泣いてしまう。

何故か私の中に酷い焦燥感が走った。彼の握り締めた小さな掌から、ぎり、という軋む音がここまで届くのではないかと思ったその瞬間、私は弾かれるように足を踏み出した。
そうだ。こんな小さな子供なんだ。悪の組織ひとつ潰せる程のバトルセンスを持っていたって、彼が強いわけではない。怖く、ないわけがない。思い出すのも本当は辛いのではないか?ならばリーグのためにそれを掘り返させるわけには…!

「怖くなかった、ってわけじゃ、ない、けど…僕が、やらなきゃ、って…」

しかし、私の思考がそこまで回転し、あと数歩でカメラと彼の間に割り込む、という時、彼はそう言った。
「凄いわあ!立派ねえ!まさに英雄!自分が、なんてなかなか思えることじゃないわ!」
レポーターの少し興奮した声がやけに耳につく。ふと彼が俯いていた顔を横に流した。つまり、私と視線が絡んだ。びくりと肩を揺らした後直ぐにまた足元へと戻ってしまったあの赤い瞳は、その英雄発言の裏の、もっと、なにか、どろりとしたものを湛えていた。
満足気にレポーターが帰っていった後も大人達に散々同じような讃辞を呈された少年が自分の服の裾を握りしめたまま、リーグの出口をくぐった後も、私の頭からその正体不明の感覚は離れなかった。


「私達がしっかりしなければ、また同じことになります!」
「まあまあ、そう気を立てんでくれ、ワタル」
「我々とて何もしないとは言っていないだろう?もう少し時期を待てと言っているんだよ」
「三年前にもあなた達はそう言いました!」
私が立ち上がった衝撃でパイプ椅子が大袈裟な音を上げて倒れた。カップの中の口をつけていないコーヒーもゆらゆらと揺れている。
「何もあなた達に動いてくれと言っているわけではないでしょう!?私が少し王座を空けることを許可してくれるだけでいい!」
私が荒立てた声に怪訝な表情を浮かべたカンナやシバが視界の端に映ったが、私はその語気を静める気はなかった。もう一度息を深く吸って、音として投げつけかけて、

「行っておいで、ワタル」
「……キクコさん?」
「挑戦者は、全員私が食い止めてみせるから、行っておやり、ジョウトへ…その子のところへ」
私の叫びを止めたのは、最年長のキクコさんの言葉だった。流石にリーグへの所属期間も一番長い彼女の言い分に役人も口を結んだ。私はありがとうございますと何度か頭を下げてから、私が最後に見たレッドと同じ扉をくぐって、カイリューに飛び乗った。


Don't repeat

(君が、ゴールド君だね)(はい、…?)












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