「君が、ミュウツー…?」

久しぶりに見た人間は、まだ我の胸の辺りまでしかない小さな子供だった。洞窟の中の僅かな光に、その両の目の美しい赤が揺らめいているのが印象的で、今でも目を閉じると瞼の裏でその赤が存在を主張しているような錯覚をおこす。
「君を、迎えに来たんだ」
その人間は我に向かってそう言い放って、しかし同時に、赤と白の球を構えた。その球からは、幾度か見たそれと同じように、中から人間がポケモンと呼ぶ生物が姿を現した。地を踏み鳴らすその足は、きっとその人間と長い距離を歩み、揃いの赤い瞳には同じものを映してきたのだろう。我がなぜか読み取れる感情の流れが、その者達の深い絆を示していた。


「今回ばかりは、君の意見は聞けない」
我は、赤い瞳に、その場に縫い付けられたように動けなくなった。もちろん久々に受けたダメージによるものも大きかっただろうが、それ以上に、赤の奥に潜む輝く光に目を奪われたのだった。
『お前は、我に何を望む』
そして少年は何か大きな決意や覚悟というものを内に秘めているようだった。一体どうしてこんな少年が我のことを知ったのかわからないが、きっと野望というものがあるのだろうという、殆ど確信的なものを含めて、我はそう問うた。しかし、我の予想に反し、その少年は可笑しな回答をよこした。

「僕は、君に世界を見てほしいんだ」
人間の言葉は一通り理解していたと思ったが、これほど理解し難い言葉があったとは。

「約束したんだ、君は僕が守ってあげる……だから、外に出てみよう?」
“外に出てこないか?”

それはとても聞き覚えのある言葉だった。あれは確か、我を作り出した…。
『アイツの回し者か……!』
「違う、あの人はとても優しい人だった…君を、とても心配していた…!」
我に向かって、必死にアイツの弁解をする少年。我と少年の間にいる者からどうしてか戸惑いの感情が流れてくる。それと同時に、その者は我に懇願した。それ以上、掻き乱さないでくれ、と。どういうことなのか、久々に人間と話をしたものだから我は何か、重要な何かを忘れているのではないだろうか。どうしていいか、わから、ない。
「あの人は、カラカラは……っ!」
そしてとうとう、少年の赤が零れた。いや、あれは、涙というものだったろうか。その少年は突然に、話の流れから全く外れた名前を叫んで、泣き出したのだ。その雫があまりにも美しく、あまりにも透明で、あまりにも悲壮だった。そして、
『お前は、どうして、それほどまでに、美しい』
流れ込んでくる感情は、どこまでも純粋だった。
先程まで我と対峙していた者に寄り添われて、少年は我の言葉に呆然としていた。どういう意味かと。それは我が問いたかった、と思ったが、もう、そんなことはどうでもよかった。




世界を君に


『我を、お前に預けよう』












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