アイツは、姿を消す前日まで、口を開けばお前の名前を吐いたんだ。

シルバーがそう口にした。その表情はえらく悲痛で、あまりにも寂しそうだった。そして、そう投げつけられた俺の隣のレッドさんも、俺には計り知れない複雑な色を湛えた瞳でシルバーを見ていた。この2人が会うのは初めてな筈だ。少なくとも俺の知る範囲では。

「あー…すみません、レッドさん!えと…コイツは俺のライバルで」
レッドさんはただでさえ他人をあまり良く思うことがないんだ。俺としても、まあまあ悪友と言えるシルバーがレッドさんに拒絶されるのは見ていて嬉しいものじゃない。だからせめてと思ってフォローを入れようとしたんだ。なのに俺のその気遣いは思いがけなくレッドさんによって遮られた。

「君、瞳がよく似てるね」
なんのことなのか全くわからないといった俺を余所に、シルバーは
「お前に言われたくない」
と応えた。誰の話をしているんだ。俺は最近、シルバーのことも、レッドさんのことも、ずいぶんわかった気になっていたのに、勘違いだったと嘲笑われている気がした。
「アイツはどこへ行ったんだ」
「僕は知らないよ、ゴールドの方が知っているんじゃない…?」
何の話だ。何故俺の名前が出てくるんだ。どうして、なんで、
「自分が負かした奴なんてどうでもいいとでも言いたいのかよ、英雄」
俺の思考から次々と飽和していく2人の言葉が怖かった。得体の知れない闇が、俺の足元を飲み込んでいくみたいだった。何の話だよ、といつもの明るい声で笑いながら言ってやったらよかったのかもしれないが、なにぶんその時の俺は闇に足をとられて身動きひとつできなかったんだ。

その後数分、いや、もしかしたら実際はもっと短かったのかもしれないが、2人はとても穏やかではない視線を交わし、そしてふっとその緊迫は突然に、シルバーの
「もういい、気分が悪い」
という一言で終わりを告げた。去っていく赤い髪と赤い瞳とを交互に窺っていた俺の視線は、それに気付いたらしいレッドさんに
「ごめんね、」
と言わせてしまった。思うに無意識中に乞うような視線を送ってしまったのだと思う。ああ、どうして。俺はさっきから幾度繰り返したかわからない言葉をもう一度頭で巡らせた。俺は永遠にあの2人を理解することはできないのか、あの2人が俺に対して作る距離を埋めることはできないのか。ああ、どうして、


無知という罪

(俺はこんなにも)(無力なのだ…!)









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -