俺の目の前にあの頃となんら変わりないレッドが現れたのは、俺が12回目の誕生日を迎えた頃だった。
「なんでこんなとこにいるんだよ…」
余りにも突然の予期せぬ事態に久しぶりにみた懐かしい姿への喜びやあの敗北のシーンのフラッシュバックなんかが俺の頭に一気に襲いかかってきて、俺の口から出たのはそんな言葉だった。決して俺を負かしたコイツを憎んでいるわけではない。俺はこの数ヶ月程の間に俺に足りなかったものも、コイツに勝てなかった理由もわかっていたのだから。なのにどうしてか俺の口をついて出た言葉は酷い怒気を含んでいた。いや、正しく言えば緊張の故に少し語気が荒くなっただけだったのだが、目の前の存在がびくりと肩を揺らしてしまったことにより、それは第三者視点で怒気に変化してしまったのだろう。
「…僕も、もう一度、旅に」
控えめに発せられた言葉はどこか俺との距離を測りかねているようでもどかしかった。
「へえ、チャンピオンでもそんなこと出来んだ?」
しかしそれは俺も同じようだったみたいで、俺は初めて、レッドに対して、言葉を発してから負の後悔へ追いやられた。…これは、まるでイヤミだ。
そうじゃない、ただ単にそう“思った”から“言った”んだ。少し、ほんの少し前まで当たり前だったその俺達のやり方が、酷く乱暴なものに思えて、俺は軽く暗闇を見た。
「……っう、ん……我が儘、だよね」
目の前の見慣れたレッドは俺を見ないまま、俯いてそう、どこか自分を責めるように言った。昔から自立したがっていたレッドが人に迷惑をかけたと思う何かが色々と、あったのだろうと、そんなことまでちゃんと手に取るようにわかるのに、俺はそれに対処する術をすっかりどこかに置き忘れていた。
「そんなこと、ないと、思うぜ?ほら、お前は昔から何かと気にし過ぎなんだよ」
「……だって、」
「そういえばお前の母さんにレッドの欲しいモン聞かれたこととかもあったしな!お前はもうちょっと人に甘えてもいいんじゃないか?」
「……でも、」
「お前が気にしてる程えらいことにはなってねーと思うぜ?な?」
「……でもっ!」
「それにお前は、」
相変わらずくるくると回る俺の舌は、それが普通だと思っていたことを酷い間違いだと否定するかのような、レッドの悲痛な叫びで止められた。「グリーンは、」と俺の名前を泣き出しそうな目で呼んで、そこで言葉を詰まらせてしまったレッドは今更だが、どこか小さく見えた。ほんの少し前まで、体格まで誂えたようにお揃いだったのに、と頭の隅で昔の俺が呟いた。そしてその俺は、本当に今更、レッドの心の内を暴き出していくのだ。先ほどの、句読点の後の言葉と共に。

『今までお前は、レッドが頼るのは俺だけでいいと、他に本音を吐き出せないのなら俺にだけ甘えていればいいと、そう囁いていたじゃないか』

と。そうだ。レッドをここまで周りを頼れない孤立した人間に仕上げたのは、他でもない俺なのだ。子供のくだらない独占欲を満たすために、レッドが俺の後ろをついて歩く優越感に浸るために、俺が。



眼前の暗闇


(独り遠ざかる赤い背中に)(俺は後悔という暗闇に沈む)












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