真夜中だ。辺りは真っ暗でこの目の前に詰まれた書類さえなければ俺だって寝ている時間。ラストスパート、とばかりにシャーペンを走らせる俺の手を止めたのはその静けさに似合わないポケギアの着信音だった。
「吃驚すんなあ……―もしもし?」
「あっもしもし?グリーンさんですか?」
「俺以外誰が取るんだよ」
「そうですよねー」
けらけらと笑う声はヒビキのものだ。こんな非常識な時間にかけてきやがってとその笑い声を止めてやると一言全く誠意のない謝罪の言葉を述べてからちょっと吹雪が強くて、とよくわからない言葉を続けた。(この時普通に技の“ふぶき”しか思い浮かばなかった俺も相当ポケモン馬鹿なのかもしれない)
「ほら…早く、…―が話したいって…―しょ?」
それから少し離れたヒビキの声。なにかの音に遮られている言葉の断片から側にもう1人誰かいるらしい。
「ヒビキ?おーい、」
ガチャガチャとおそらくその誰かにポケギアが移動した音だろう。少し大きめの雑音が入ったので確認してみる。向こうからは絶えず沈黙がやってくるが。
「もしもしー?」
「…………」
ふっと相手が息を詰める音がして、それから
「……グリーン」

「レッド!」
聞き慣れた幼なじみの声。
「どうしたんだよ吃驚させんな!何かあったのか?」
「……何かなきゃ、電話、しちゃいけないの?」
「…――っ馬鹿!んなわけあるか!」
さっきまでの眠気も疲労もヒビキに対する多少の不満も全部吹っ飛ぶ、レッドの声。(しかも随分機嫌がいいらしい)
「…最近、会わないな、って」
「ああちょっと書類溜め込んでたんだ…寂しかったか?」
「…馬鹿。……――ちょっとだけ」
「レッドー!好きだよ、愛してる!」
「何恥ずかしいことしてるの…ヒビキに聞こえるよ?」
「いいんだよ!事実事実!」
寂しかったからヒビキにポケギア借りて電話してきた、なんて嬉しいことを珍しく言うから変にテンションが上がってきて顔も随分にやけているだろう。でも今部屋には俺だけだし、電話の特権ってことでいいだろう。
「レッド、今俺の目の前に積み上げられてる忌々しいコイツ片付けたら、会いにいっていいか?」
「……しかたないから待っててあげるよ」
「よっしゃ!今日中には絶対終わらせっから待ってろ!」
「…うん。じゃあ、切るよ?ヒビキのだし」
「ああ、お礼言っといて」
「…ん、」
「じゃあな、おやすみ」
「…グリーンも、ちゃんと寝てね、おやすみ」
約束もとい俺の自身に対する餌を取り付けた後、レッドのおやすみと共にぷつりと電波の途切れる音。暫く耳にまだ残っているレッドの声の余韻。しかし俺は今はそれを楽しんでいる場合ではない。っしゃ!と1つ気合いを入れ直してもう一度力強くシャーペンを握った。


午前0時のいたずら電話

(レッド!終わらせたぜ!)(…グリーン…お疲れ様)


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ツンデレじゃなくクーデレ、だと思うんだ!


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