あんまり嬉しそうに笑うから、俺はなんも言えずに帰ってきちまった……。

目の前のいつもウザいくらい元気な男が、泣きそうな顔でそう言ってきたのは、数分前のことだった。今は泣き疲れてあろうことか俺にもたれて寝ているそいつ、ゴールドは、所謂失恋をしたらしい。しかも相手はあのレッド先輩で、恋敵はグリーン先輩だと言うんだから聞いたときは驚きもしたが、相手の全てが欲しいとか、独占するために恋人という肩書きが欲しいとか、そういうことを恋だと呼ぶのなら、同性であることが非難の対象になるとは思わなかった。そしてゴールドは、お前ならそう言うと思ったと言って、くしゃりと笑った。

「レッド先輩、どうかしたんスか?」
「えっ……あー…えっと……あのさ、」
「何スかー?レッド先輩が躊躇うとか珍しー」
「えと、俺……さ、グリーンと付き合うことに、なったんだ」
「えっ……」
「へへ、なんか、笑っちまうけどな!」
「は、ははっびっくりしたー!いや、でも、俺」


いいと思いますよ!

そう言ったゴールドの笑顔なんて、簡単に想像がつく。俺も好きでした、と出かかった言葉を必死に抑えこんで、泣きそうな顔で笑ったんだろう。そしてきっと、変に人の感情に敏感なレッド先輩のことだ。ゴールドの想いを理解してしまっただろう。いや、元々知っていたのかもしれない。あの人は、よっぽどのことがない限り現状を維持しようとするから、知っていて、知らないふりをしていた筈のその現状の形を自分の想いで変えてしまったことにケジメを付けたかったのかもしれない。

「ん……レ…ッドせんぱ……」
少し下から聞こえてくる寝言と、まだ泣きたりないとばかりに零れた涙。そこでぷつりと切られた俺が無意識に自分の邪な感情から目を逸らすために繰り返していた思考回路。
俺は気づかれないようにその爆発した前髪を撫でつけて、自分自身へ嘲笑を贈った。

片側ベクトル


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←赤←金←銀
つまりこういうこと。その上金の「お前なら〜」は自覚矢印を向けられていることを自覚済み。


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