利己主義者Nの献身
- ナノ -


エゴイスト達よ、大志を抱け!





今や世界が夢中になる娯楽といえば、みんなは何を思い浮かべるだろう?YOU●UBE?インス●?アマプ●?動画配信コンテンツは、情報社会の中で重要な媒介となった。だが違う。どれも違う。今、全世界の人間を熱狂の渦に引き込んでいるサブスクリプションは何かと問われれば、三人に一人はこう答えるだろう。

―――それは、BLTVだ、と。

日本のサッカー選手育成プログラムとして発進した青い監獄プロジェクト。二人のエゴイストによって始動した計画は、多くの未来ある若者を巻き込み、現在も邁進を続けている。すべては、世界一のストライカーを生み出し、日本のW杯優勝という悲願を果たすため。日本フットボール連合が主体となり始まった新英雄大戦は、世界最高峰の欧州五大リーグのエースストライカーすら招致し、その試合の光景は、全世界へと生配信されている。今後のフットボールの行く末を左右する、世紀のエンターテイメント。…それが、BLTVなのだ。

……長々説明しましたが、つまり、何が言いたいのかというと。……ブルーロック、最高〜〜〜〜〜っ!!!ってことなんだよ!!

私はホテルの一室で、きゃーきゃー言いながら生配信を観戦していた。え?お前も登録してんのかって?そんなの当ったり前じゃ〜〜〜ん!!もう配信開始された瞬間、クレジットカード情報を打ち込んで、即入会してました!!課金制度があったら絶対重課金者になってたこと間違いなし!今見ているのは、新英雄大戦第3試合、ドイツ『バスタード・ミュンヘン』VSイングランド『マンシャイン・C』!あ〜〜、良い〜〜っ、最高〜〜〜っ!こんな顔が良い男の子達が全力で闘っているところを月額五百円で観戦出来るなんて、実質無料〜〜〜。生き返る〜〜〜てか生きる糧〜〜〜〜。え〜〜〜推しが生きてる動いてる〜〜〜。

てかさぁ、ブルーロックに参加している子さぁ、みんな顔良すぎじゃない?え?顔で選んでるの?誰が選んでるの?センス良すぎね?握手してください!と五体投地して御礼を言いたい気分である。アニメも漫画も大好きなバリバリオタク気質の私だけど、三次元には三次元からしか得られない栄養があるのだ。てか、もうみんな顔が良すぎて実質アイドルだもん。サッカーしてるアイドルだよ。え〜〜最近のアイドルって歌う代わりにサッカーするんだぁ〜〜〜って知らない人が見たら勘違いしちゃうレベルに美形揃い。本当にありがとうございます。

あっ、ブルーロックの赤き韋駄天がゴールした!!え〜〜〜女の子みたいに綺麗なのにゴリゴリ殺意高くてめっちゃ好き〜〜〜〜。赤豹って何〜〜。カッコエグ可愛よ〜〜〜。からのカイザーインパクト炸裂〜〜〜。え〜超接戦の上神懸かり技巧いシュート撃って来るじゃ〜〜〜ん。綺麗カッコエグ〜〜〜もう一生推す〜〜〜〜。國神きんに君のシュートからのふわふわ凪くんのファンタスティックゴールって情報過多過ぎて過呼吸なる〜。

え、えーーー!!ここで出て来ちゃうのマスターぁ?!マスター!!あーーー!!やっぱりノエル・ノア世界一ーーー!!世界一恰好良いよ!!素敵だよ、輝いているよ!さあ、みなさんご一緒に?…ノエル・ノアしか勝た〜〜〜〜ん!!!

………ふぅ。満喫しました。試合としては三点先取なので、前後半45分の正規の試合からすれば全然短いんだけど、味方同士で食い合いしたりと、普通では有り得ない試合運びのせいか殊更に内容は濃密で、観ているだけで疲れてしまう。フルマラソン走り切ったくらい疲れるわー。そりゃあんだけ叫んでりゃね、という突っ込みはしないでネ。私はふう、と息を吐いてドリンクを飲んだ。あー咽喉潤う〜。さて、リプレイしてもう一回観ようかな。

最近の推しはね〜。ブルーロックの申し子、潔世一くんかな!一見草食系に見えるのに、試合になると熱い熱い!イキるわマウント取るわでそのギャップが堪らない。U−20日本代表戦からのファンです。第一印象から決めてました。きゃ〜ん、こっち向いて〜〜とイキって!と書いたうちわを振りたいくらいである。流石主人公!って感じィ?

と、私はホテルでゴロゴロしたり、街に繰り出したりと、久しぶりの日本を満喫していた。とある事情の為、日本には頗る詳しいんだけど、″詳しいことが不自然″な状態になってしまっている我が身の不遇を思えば、このくらいの贅沢、たまには許されていいんじゃないかな〜と勝手に解釈していた。…のだけど。

ピピピピピ…

と、耳朶に響く着信音が、私を現実に引き戻す。…んげっ。まさか。……ああ、やっぱり。ディスプレイに表示された名前に、私は恐る恐る、携帯を手に取った。

「…はい、もしもし?」
『俺だ』
「…はい」
『日本に来てるというのは、本当か』
「………」

バレてーら。ぼなせーら。相変わらず簡潔明瞭、実に端的な喋り方をする彼の人は、開口一番核心を突いて来た。え〜〜何でバレたの〜〜〜?

『マネージャーに聞いた。隠しても無駄だ』
「…はい」

ちょ、心読むな。ホント、考えてること丸分かりなんじゃないかなってたまに怖くなるわ。え〜〜ちゃんと口止めしたのに〜〜〜。ひどい〜〜。けど、バレてしまった以上仕方ない。素直に頷くと、電話の向こうで溜め息が聞こえた。怒ってる?

『お前がそこまで日本に来たがってるとは知らなかった』
「前、ちゃんと言ったもの。行ってみたいって」
『主張が細やか過ぎるんだ。もっと喧伝しろ』

そんなこと言われたって。

『まさか来ているとはな。…どうして言わない?』
「…驚かせたくて?」
『なら大成功だな。……話は通しておくから、ブルーロックまで来い』

と、それだけを告げて、ブチっと電話は切られてしまう。ぶー。こーゆーとこ変わらないんだよなぁ。自分の要件だけ言って電話切っちゃうとこ。すっごいエゴ丸出しでやだー。切り際の会話ってもんがさぁ。と、内心不満たらたらだった私は、最後の言葉を思い返してん?と我に返った。……え、ブルーロックに来いって言った?え?言っていいの?関係者以外立ち入り禁止の、あの巨大五角系ド派手な建築物に?部外者前人未踏の地に?ファン垂涎物の聖地に?……そんなの、そんなの!

…行かないでかーーー!!!!

え〜〜〜〜逆にいいんですか〜〜〜〜〜。行っていいんですか〜〜〜〜?!私もう一生分の運使っちゃったかも〜〜〜。こんなのブルーロックファンに知られたら夜道気を付けなきゃかも〜〜〜。後ろから刺されるかも〜〜。ありがとうございます〜〜〜。そんなん、来いって言われて行かないやついるわけないやん〜。みんな〜、ブルーロックに、来て、くれるかな〜〜〜?……いいともーーー!!!

私は出掛ける準備をすると、タクシーに乗り込み、意気揚々とブルーロックへと出発した。わくわく。わくわくっ。散歩前の犬みたいにそわそわしながら、流れる景色を窓から眺める。そして到着した施設を前に、じーんと感動した。あ〜、これこれ。聖地巡礼した時の感覚。ここで推しが息をしてるのかぁ…と思うだけでご飯三杯は食べれる。えへへっ。BLTVの冊子も持って来たから、サインしてもらえちゃったりして。

話はちゃんと通っていたらしく、スタッフの人はすんなり私を中に入れてくれた。五角形は現在、それぞれ五つの国とチームに振り分けられているようで、案内されたのはドイツ棟だった。へ〜〜、施設内こんなんになってるんだぁ〜。機械的で、確かにちょっと囚人感〜。あ、写真撮っていいですか?ダメ?…ダメかぁ。コミュ障の私はスタッフさんの人には直接聞けなかったので、自己完結して落ち込んだ。しゅん。

自動ドアが開く、無機質な音がする。こちらです、と案内された控室の中には、多くの青年達がいた。彼等の視線が、一斉にこちらを向く。う、うわ〜〜〜〜っ。テレビで観てた人達がいっぱい〜〜!あ、雪宮くんだ!眼鏡イケメン!あの子は黒名くん!ギザ歯可愛い〜〜〜。「あの?」と困惑したように、声を出したのは目の前の少年。い、潔くんだ〜〜〜〜!!!…と、思っていたのも束の間。

「…シュネー!」
「あ」
「ich habe dich vermissd.……マイネリーベ!」

潔くんを押し退けるようにしてやってきた、ダビデ像も平伏しそうなほどの美貌を持った青年が、キラキラしい笑みを凶器の如く振り翳しながら、ぎゅうっと私を腕の中に閉じ込めた。あ〜〜〜相変わらず美貌が痛ぁい!美のドメスティックバイオレンスや〜〜〜。顔が良い〜〜良い匂い〜〜〜ちゅき〜〜〜。いっぱいちゅき〜〜〜。

ひたすらにぎゅうぎゅうされた後、少しだけ身体を離して、美貌の主が再び笑う。あ〜〜栄養が、栄養がぁ〜〜〜!イケメンを見ることでしか得られない栄養が〜〜〜。なんて可愛いんだろう、この子は。と、私は釣られて笑顔になりながら、すべっすべの頬に手を添えた。

「ミヒャ」
「俺に逢いに来てくれたのか?クソ嬉しい。いつ日本に来たんだ?言ってくれれば良かったのに」

そう言って、少し拗ねた顔をする、キラキラの衝撃を纏った青年。…ミヒャエル・カイザー。ドイツのクラブチーム『バスタード・ミュンヘン』の下部組織に所属し、新世代11傑にも名を連ねる、サッカー界稀代のカリスマFW。美しい金髪と青みを帯びたグラデーションの髪を靡かせ、美貌と才能を恣にする天才児。

……そりゃ疑問に思うよねェ。どうしてこんな美青年に、私が名前を呼ばれ、また呼ぶことを許されてるかって。…何だかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け!エゴに魅入られし主人公、潔世一の物語を破壊するため、世界一になる為の劇場を作るため、天使か悪魔かその名を呼べば、誰もが震える魅惑の響き…ミヒャエル・カイザー!ラブリーチャーミーな敵役たる彼の青年……の、血を分けた実の姉!…が私なのです!シュネーと申します、以後お見知りおきを!

…えっへへー!びっくりした?どんな気持ち?ねェ今どんな気持ち?生粋のオタクトークを内心でぼろっぼろ出してたくせに、自分も実は渦中の人物の身内でしたー!ってすっごいどんでん返しだと思いません?一番驚いてるの?………私に決まってんだろ!!!

………そーなんだよねェ……。思い返せば二十数年前、私はドイツのとある街で生を受けた。所謂、転生ってやつ?前世は日本の平平凡凡の女子高生だったの。そう、オタクはそこで培ったアイデンティティ。だのに、金髪碧眼の外国美女が母になっていた。うそん。ばかん。それから、天使かな?と思うほど愛らしい弟が生まれて、まー長くなるから割愛するけど、紆余曲折山あり谷ありの人生を歩み……弟が、サッカー選手として大活躍してます。はい。今ココ。

「ミヒャ、驚いた?」
「クソ驚いた。…シュネー、逢いたかった」

え〜〜〜。きゃわいいんですけど〜〜〜〜。二十歳前になってまでお姉ちゃんに逢いたかったとか言ってくれるとか、うちの弟天使すぎない〜〜〜?良い子すぎて昇天しそう〜〜〜。これで私がミヒャエルの応援をしてた時、一生推すと言っていた理由と、美のドメスティックバイオレンスと言っていた理由が分かってもらえるだろう。そりゃ一生推すしかないじゃんこんな弟だったら!当たり前だろ!美貌で殴られている!常に!DVだ!!

そうそう、私の前世には、ブルーロックという、このプロジェクトと同じ名前を冠する漫画があった。つまり、私は有知識転生者って訳なんだけど。…うーん、如何せん二十数年前に読んでた漫画なもんで、あんまり内容を覚えていないのだ。主人公が潔くんってことは分かるんだけど。あと、なんか弱虫ペダルに出てくるキャラと似た人いるよね?絵心さん。彼とは別ルートで知り合いなんだから知ってるんだけどなぁ。でも、このキラキラしい弟も、確か漫画の表紙は飾ってたと思う。絶対映えるもん。

「シュネー!お久しぶりです!」
「アレク。元気だった?」
「はい、勿論!」

尻尾をブンブン全開に振っている姿が幻視出来そうな笑顔で近付いて来たのは、くるくるヘアーの愛らしいアレクシス・ネスくん。くりっくりのお目めが可愛い。ミヒャの親友なんだよね〜。私は勝手にそう思っている。ちょっとばかし尊大でマウント癖のあるミヒャに友達が出来た〜〜嬉C〜〜と当時の私は万歳三唱したもんだ。テレビで活躍見たよ〜。

「ここ、選手の控室なの?」
「はい、そうですよ」
「案内されたけど、私、ここに入っても良かったのかしら」
「遠慮なんざ、クソ必要ねェ。シュネーを拒む扉なんてあるわけねェ」
「そうですよ!カイザーの言う通りです!!」

さいですか。でもぅ、不安なんだよな〜。根っから小心者だからさ。てか、話を通してくれるなら、こんな人多いところじゃなくて自分のところに案内頼んでくれたらよかったのに。サービス?私にブルーロックの面子を見せてくれるためのサービス?…なわけないよねェ。あの人がそんなことするとは思えないし。そもそも、結果的にミヒャにも秘密にする形になってしまっただけで、日本に来たことを内緒にしたかった相手は、ミヒャではないのだ。…隠したかったのは、

「…来たか」

あ。

再び無機質な音を立てて開く自動ドア。聞き慣れた声に振り向く。そこには、同じく見慣れた顔があった。む、と頬を膨らませたミヒャを横目に、私はぐい、と腕を引かれ、気付けば逞しい腕の中の住人になっていた。あ〜〜〜〜〜トキメキのパラダイムシフトや〜〜〜〜。何言ってるのか、自分でも分からん。でもミヒャにハグされた時とは別種のドキドキ。私の中の乙女が悲鳴を上げている。

相手は、私を抱き締める力加減を知っている。苦しくない、けれど逃げられない、絶妙な具合。んひゃあ、と変な声が出そうになる前に、くい、と手が添えられ、顔を上向けさせられる。やめて。ナチュラルに顎クイすな。ときめいちゃうから。

「……ノエル」
「シュネー」

私の名前を呼ぶ、低く渋い声。うっ…相変わらず顔が、私のドストライク過ぎる。もー少し年を重ねれば、もうワンターンキルされてしまうほど渋めのナイスミドルになるだろう。…いや今でもめっちゃ好きだけど!!

あ、流石にもう分かったよね?今鋭い金目の中に私を映し、熱い眼差しを注いで来る超絶ナイスガイの名前は、ノエル・ノア。ドイツのトップチーム『バスタード・ミュンヘン』の絶対的エースであり、サッカーフランス代表、ヨーロッパ年間最優秀選手受賞者。紛うことなき、世界一のストライカー。―――ノエル・ノア、その人である。

「ノエルも、驚いた?」
「当たり前だ」
「だって、折角二人が活躍しているんだから、私も現地で応援したくて」

迷惑だった?という言葉は、音に出来なかった。……ノエルが、私の口を、その唇で塞いだから。

ドイツ棟の控室は、ざわめきに包まれた。チッ!という大きな舌打ちは、ミヒャのかな。と、思考を回す余裕は、一瞬のうちになくなってしまった。にゃ、にゃ〜〜〜〜〜〜っ!!にゃにするの、ノエル〜〜〜〜っ!いきなりのダイレクトラブアタックに脳内パニックになってしまった私は、一応抵抗を試みてみたのだけれど、ノエルの逞しい腕にがっちり腰をホールドされ、後頭部を押さえられ、ミリ単位ですら動けそうになかった。

…て、うっわ!!愛情を示すバードキスならまだしも!!ノエルがかましてきたのは、くらくらとしてしまうほど、濃密で濃厚なディープキスだった。だぁあああ、もう!!意外かと思うかもしれないけど、この鉄面皮さんも立派なフランス男なわけで、愛情表現は精神が純日本製の私には刺激が強すぎるくらい情熱的なのだ。でもでも!ここにはうら若い男の子達がいっぱいいるんですけど!!

「…っは」
「……相変わらず、俺を翻弄するのが好きだな。……俺の運命の女ファムファタルは」

暫くの後、リップ音とともに、唇が離れる。鼻先が触れるほどの至近距離で、ノエルは囁いた。…翻弄って。………どの口が言っとんじゃ!!

―――こちとら、ノエルと結婚するそのず〜〜〜っと前から、翻弄されっぱなしだっつーの!!

彼との出会いは、遡ること約十七年前。フランスのスラム街で、マッチ売りの少女の如く行き倒れる私を拾ってくれたのが、彼、ノエル・ノアだった。……いや、お前が拾われた方かい!って突っ込みはせんといて…私もそう思うから…。

そうだよね、普通はそうだ!定番だよね。ストライカー、ノエル・ノアはフランスのスラム街で育ち、貧困と犯罪と隣合わせな生活を送り、そのハングリー精神がゆえに貪欲なまでの執念で、遂には世界一の名を冠するストライカーとなった。別にノエルはその過去を隠してないので、有名な話だ。でも、そういう過去がある相手との出会いって、私が助けてあげて、お世話してあげて、恋が芽生えてきゅん!みたいなパターンが定番だと思うんだよね!なんだけど!…いやー、逆だったよね!完全に私がお世話されてたよね!弟ともどもくっそお世話になってしまいましたいや本当に!一生頭が上がんないくらい!

私は気付いてなかったのだ。男の子にはやけにキラキラしい天使かな?という美貌を振り撒いていた弟が、チームメイトにも「クソ跪け」なんていうマウント野郎ことミヒャエル・カイザーで、私を拾ってくれた少年が、ノエル・ノアだなんて。…いや知らないし!ノエル、としか名乗られてなかったし!ミヒャエルなんてドイツじゃ太郎くらいありふれた名前だし!すぐさまブルーロックを連想出来ないのは、私だけじゃないはず!

…ともかく、かつてのスラム街で、ポンポンと軽やかにボールを蹴りながら、ノエルは言った。

「……シュネー、お前は、どんな男が好きだ?」
「そうね…お金持ち?」
「お金持ち?」
「うん。ミヒャを立派に育ててあげなきゃいけないから、お金持ちと結婚すればいいと思うの」

何とも安直な思考回路の、舐めたクソ餓鬼だったなぁ、私。でも、私にとってはちゅきちゅきらぶりーちゃんミヒャが何より大事だったし。私の人生なんてそのためのオマケだと思ってた。くっそブラコンだったんだよ。今もだけど。

そんな私の言葉を聞いて、ノエルは言った。

「五年くれ」
「え?」
「五年経ったら、俺は、お前の言うお金持ちになる」

「―――それまで、待っててくれるか」

え〜〜〜。何それ〜〜〜。白馬の王子様や〜〜〜ん。きゅんきゅんするぅ〜。子ども同士の戯れとはいえ、うっかりときめていしまった私は、こくりと頷いた。

「…じゃあ、五年後、お金持ちになって、私を迎えに来てくれる?」
「あぁ、必ず」

五年後、シャボンディ諸島で!!並の熱き誓いを交わしたつもりではあったが、子どもながらの願望を含んだ口約束、夢物語であると思っていた。その日から、ノエルは私達の前から姿を消した。私とミヒャは連日連夜探したけれど、ノエルは、何処にもいなかった。

―――…じゃあ、五年後、お金持ちになって、私を迎えに来てくれる?
―――あぁ、必ず。

って、言ったよ。言ったけどさぁ。……まさかホントに、お金持ちになって迎えに来るなんて思わないじゃ〜〜〜〜ん!!

私は、ぽかんとした。数年後、生意気盛りの可愛い弟と二人で暮らしていたアパルトマンの前には、ある日突然黒塗りのセダンが停まっていた。おっとどこのセレブだぁ?十円傷付けたろか、と貧乏人よろしく僻み根性丸出しだった私は、後部座席から颯爽と降りて来た男性に目を奪われた。…いやん、良い男。

短く刈った銀髪に、鋭い三白眼、隆々とした筋肉を備えた肉体に、男らしい端正な顔立ち。ほえ〜〜〜イッケメ〜〜〜ン!目の保養、目の保養…と見つめていると、男性は私の方を見た。

「シュネー」
「…?」
「約束通り、迎えに来た」

「―――結婚してくれ」

そう言って、後に世界一のストライカーと呼ばれる男、ノエル・ノアは、私の前に膝を付いた。


……
………そ、それからどうしたって?……この左手の指輪が、目に入らぬかぁ〜〜〜〜!!

………したよ、結婚。………色々あったんだよ!!!

「ノア!」
「わ」
「クソ不愉快。俺の前でシュネーとイチャつくんじゃねェ」
「…返せ」
「誰が」
「……シュネー、こっちに来い」
「…ええと、」

あっちょっま…。バッとノエルの腕から引き剥がされ、ミヒャの腕に囲われるような形になった。あ、圧が…圧が凄い。ノエルのジト目が怖い。やだ〜〜〜。ノエルもミヒャもどっちもエゴイストだからぶつかると怖い〜〜〜。どっちを選んでも超角が立つやつ〜〜。確かに私は超のつくブラコンだけど、ノエルのことだって愛してるんだよ〜〜。…やめてっ!私の為に争わないで!…やべっ、イケメンが私を取り合う構図、ちょっと楽しい。

世界的プレイヤーの夫と弟を持つ身は忙しなく、根っからド庶民の私には似つかわしくないセレブレティとデンジャラスに溢れているけれど、それでも誰にも譲りたくないポジションだと思ってしまう辺り、私もエゴイスト達の影響を受けているのかな、と思ったりして。




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