- ナノ -
My sweet home

うーん、今日は良い天気だなぁ。軽くアパートの前を掃除しながら、ぽかぽかの陽を浴びているとついつい欠伸が出てしまう。んー、こんなものでいいかな。ナルトの世界は意外に住宅施設が充実していて、アパートでも一人暮らし用とか、ファミリー用とか、たくさんあったりする。まー、三人で暮らすならアパートでも全然平気だよね。シカクさんの実家はどうにも大きすぎて、私としても落ち着かないし。

でも私、ご近所付き合い下手なんだよねェ。だからこういう当番?で回って来る掃除とかはしっかりこなさなくちゃと思うんだけど、やっぱりあれかな。「あそこの奥さん愛想ないわねー」とか言われちゃってるかな。うう…申し訳ないなぁ。シカクさんが社交性あるんだし、夫婦なんだからちょっとは似て来てもいいと思うんだけど。それはそれでバランス取れてるけど、やっぱ駄目だよね。

鏡の前で笑顔の練習とかしてみよっかな、なんて考えながら階段を昇っていく。そして部屋に入ろうとしたところで、向こうからドアが開いた。あれっ?

『シカマル、出かけるの?』
「ん、ああ。アスマがさ、」
『アスマ先生』
「…アスマ先生が、下忍になったから焼肉奢ってくれんだと」

出て来たのは、みんな大好き(え)奈良シカマル君でしたぁ。ぱちぱち〜。…じゃ、ないよ。うん、まあうちの自慢の息子でございます。今日は私が買った服着てなぁい。またあの忍服だ。ぶーぶー。心の中では不満を零すけど、それは口には出さない。ただ、アスマ先生のことを呼び捨てにするのは戴けないなぁ。二人の絆が強いのも分かってるし、マル君の性格もあるんだろうけど、親しき仲にも礼儀あり、だよ?仲間内だけならともかく、他の人が聞いたら生意気だって思うかもしれないしね。こういうのはつい出ちゃうから、せめて本人相手以外には気を付けよーね。

『そうなの。じゃあ、夕飯は?』
「いらねェ」
『分かったわ。あんまり遅くならないようにね。アスマ先生によろしく』
「おう」

注意したらちゃんと直すマル君天使過ぎると思うんだけど、何か異論ある??それにしても焼肉かー。チョウジがいるからだよね、やっぱり。アスマ先生って本当面倒見いいよね。財布大丈夫かな?

マル君はポケットに手を突っ込んで、片手を軽く振って階段を降りて行った。……うーん。この辺りの仕草や喋り方の癖に激しくシカクさんの遺伝子を感じる。最近私への言葉遣いが富にその傾向にあるんだよね。むむっ。遺伝子の力ってすげーー。親子は似るって本当だよね、と思いながら、今度こそ部屋のドアを開けた。


*********

『お疲れ様です。ありがとうございます。はい、それはこっちで大丈夫です』

引っ越しを手伝ってくれる方々にお礼を言いながら、荷物の場所を指示したり、誘導したりする。新しい住処であるアパートに運び込まれていく荷物の山々を見ていると、ここ数日の苦労が偲ばれれるようである。…おっと、忘れていた。こほん。では改めまして。

んちゃ!おはこんばんちは!背景に溶け込む不屈のモブ精神を宿した雪乃改め、奈良雪乃です。コードネームは生涯独身だったんだけど、先日その名誉を返上することになりました。名字が変わって、ただ今人妻一週間目です。…うーん、やっぱり慣れないな、この名字。でも人妻って言葉は何かエロイな。あれ、私の心が穢れてるせい?やっぱり?

「雪乃、お前の荷物はあれで全部か?」
『はい。シカクさんは?』
「俺の方はいらねェもん大分処分してきたからな…それでも結構あると思うぞ」

後ろからかけられた声に振り向くと、動きやすさを重視したのか、忍服を着たシカクさんが立っていた。私服よりも機能性いいもんね。でも個人の引っ越しなのに良かったのかな。

…まあ、今さら説明するまでもないと思うけど、これまた改めまして。こちらの渋めの魅力が出始めているイケメンが、奈良シカクさん。私の…わ、わたしの、だ、だだだだ、旦那様です。くわ〜恥ずかしい!なんか結婚しましたって言うのって、彼氏ですって紹介するのよりも恥ずかしい!多分私とシカクさんがほとんど付き合う期間がないまま結婚したからだろうけど、恥ずかしい!面映ゆい!むず痒い!今まで爆発しろと念じて来たリア充に自分がなるとは思わなかったわ!これだから人生って分かんない。

プロポーズから半年間のシカクさんの失踪(正確には任務だったらしいけど)を経て、先日、正式に結婚式を挙げた私達は、今日から引っ越しをして、一緒に住むことになった。まあ、夫婦なんだから別々に住んでたりしたら新婚早々別居になっちゃうもんね。本当は先に引っ越しするつもりだったんだけど、色々あって少し遅くなってしまった。といっても、二人とも結婚式の前後はシカクさんの実家にお邪魔してたんだけどねー。

その色々って何かっていうと、シカクさんの実家は木の葉隠れの創始を支えた一族の一つなので、里内では有名な名家だから、だ。そんなところにお嫁に行くんだから、私も覚えることがたくさんあって大変だったのだ。挨拶周りとか、衣装合わせとか、色々。親しい人達を呼んだ洋装の結婚式の他に、和装来て盃を交わしたりもして。うーん、良い経験だったけど、やっぱり少し疲れた。でも、これからは私もお薬作りを手伝ったりするから、それは楽しみだったりするんだよね。

「おう、こんなもんか」
『そうですね。お疲れ様です』
「お前もな。…うん、中々良いところじゃねェか。広いし、新しい」
『はい』

そうこうしているうちに、引っ越しの荷物運びは完了。シカクさんと二人で家の前に立って、アパートを見上げた。お義父さんが紹介してくれた物件はファミリータイプのアパートで、二人で住むには十分すぎる広さである。その分家賃は張るのだが、シカクさんは胸を張って「任せろ」と言い切った。上忍って高給取りなんだなー。エリート商社マンみたいな?

「まあ、狭いよりはマシだろ。いいよな?」
『はい。いずれ子どもが生まれたら、寧ろ手狭になるかもしれません』
「そうだな、こど…………子どもか」
『はい?』

え?何でシカクさん吃驚してるの?だってシカクさんって言ったら、シカマルのお父さんなんだからさ。子ども生まれるでしょ、そりゃ。

「…結婚したばかりだってのに、気が早ェよ。意外と大胆なんだな、雪乃」
『……え?』
「まあ、そう期待されちゃあ、応えないわけにもいかねェけどな」

ええ?何、何なの、どういう意味…………あっ。そ、そっか。シカクさんの子どもが生まれるってことはつまり、あれだよね。私が生むってことだよね、うん。だってシカクさんの奥さんは私なんだから、つまりあれだ、私がシカマルのお母さんになるってわけで、それはつまり、私のさっきの発言は取り様によっては、ものすっごい意味に解釈できるってわけで、それはあの、いや違う!!!

頬にかーっと熱が集まっていく。違う!違うのだ。決してそういう意味で言ったわけじゃなくて!!否定しようと思うのだが、シカクさんがにやにやとこっちを見つめるものだから、口をパクパク動かすだけで精いっぱいで、弁明も出来ない。嫌だ、シカクさんのスケベ!!えっちいのは嫌いですよ!

「っふ、冗談だっての。そんなにむくれんな」
『…本当に冗談ですか?』
「………んー」
『シカクさん!』
「わぁーったわぁーった。もう言わねェって」

こ、この人私のことからかって遊んでんじゃないの?なんて底意地の悪い!いや、私もよくシカクさんのことからかってたから人のこと言えないけど!でもこういうネタで遊ぶのはやめてほしいのだ。私はシカクさんと違って経験豊富ではないのです。……そ、そりゃあね、夫婦になったから当然その、あれだよ、色々あったけどさ。って、私は何を思い出してるんだか!シカクさんが色っぽくて恰好良かったなんて考えてないんだからね!

ふんっと横を向くけど、シカクさんは楽しそうに笑っているばかりだった。うーん、どうだろうこの余裕。結婚した途端、立場が逆転した気がしてならない。別に追いかけられるのが好きなわけじゃないけど、掌の上で転がされるのは少しだけ不満だ。あのワンコみたいで可愛かったシカクさんはどこに行っちゃったんだか。

……いや、別に、嫌いじゃないけど。うん。

「ともかく、漸く二人で暮らし始められるってわけだ。長かったと思うぜ、正直」
『…五年、ですか』
「おう。我ながらよく頑張ったぜ。ってことでだ、さっさと俺達の愛の巣に入るとしようぜ」
『あ、愛の……っわ!』

愛の巣って、シカクさん気障ぁ!それ既に死語じゃないの?ていうか、恥ずかしくて誰も使わないってば。と突っ込もうと思ったところで、シカクさんはひょいっと私のことを抱き上げた。世の乙女の憧れ、プリンセスホールドである。

わーーー!いや、やめて!私最近ダイエット失敗してリバウンドしたから!2キロ太ったから!3歩進んで2歩下がったから!マジでやめて下さいお願いします!自分で歩けるから!軽々と抱き上げてくれる腕の力強さは流石だと思うけど、高くて微妙に怖いし、ほら!人が見てるじゃないかぁ!「ママ、見て〜」「まぁ、よく見ておきなさい」とか言ってるお母さんと子どもがいるよ!そこは「しっ、見ちゃいけません」じゃないんですかお母さん?!

『シカクさん…何のつもりですか!』
「何のつもりって、新居に夫婦が入る時は嫁を旦那が抱き上げてくもんだろ?」
『そんな決まりはありません。下ろして下さい』
「……却下だ」
『はい?』
「俺がお前を抱いたまま家に入りてェから却下だ」


「これからよろしく頼むぜ、奥さん?」


……
…………
……………よ、よろしくお願いします……旦那様。

私は顔から湯気を出しながら、観念して羞恥プレイさながらの恰好で新居に踏み入ることになった。


もう、いっそころして……。



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