- ナノ -
銀色の涙


ニーハオ。雪乃です。近頃は冒頭の挨拶の仕方もマンネリ化してきてる気がする。ここらで心機一転、斬新なものでも考えたいところだ。うーん。って、私は何処を目指しているんだろう?自分が進むべき道が分かんなくなって来た。

それはさておき、最近里の様子が可笑しいです。正確には人、かな?

戦争が終わったってことは分かる。うん、いくら時勢に疎い私でもそれくらいは理解してるよ。里は未曽有の人手不足で、下忍まで戦場に駆り出すくらい大変だったってことは分かってる。分かってるんだけど…うん。里はお祝いムードどころか、戦後処理に追われて大変のようだ。まあ、当然だろう。日本だって終戦後は戦時中の制度を改革したり、色々あったから、戦争が終わったはいおめでとうで済まさないことも分かる。

それも、波風ミナトという人が四代目火影に就任したことを切っ掛けに少し変わって来た気がする。黄色い閃光と名高い若き英傑の存在を里の人は諸手を上げて歓迎した。これで木の葉は他里や他国に威信を示すことが出来る。戦争で犠牲を出してもなお、これだけの人材を頭に据えることが出来るのだ、と。でも、正直私はうーわーって感じです。シカクさんと結婚するって決めたからしょうがないんだけど、やっぱり原作メンバーとみると、尻込みしてしまう。特に主人公を取り巻く環境なんて危険ばっかりだし。うーん、私ミナトさん苦手なんだよね。………これは二次創作の見過ぎか。

あっ、そうそう。どうして里の人の様子がおかしいかというとね?

「雪乃さん、外に出て大丈夫なのかい?」
「良かった、少しは元気が出たんだねェ」

そう。これです。これなんです。こういう感じに里の人達が妙に優しいというか、気遣ってくれるというか。な、何だよぅ…、まるで私が重病人か、ひきニートだったみたいじゃないか?買い物に外に出ることもあるさ。いつもと変わらない生活してるつもりなんだけどな?なんかおかしいのかな。まだ辞めてないから普通に苦楽でも働いてるし。

昨日なんかクシナさんが来てさ、それは嬉しいんだけどね。煮物持ってきてくれたんだよー。そしたら急に私に抱き着いて、泣き出しちゃったんだ。どどどどどどうしたの?!と慌てます。慌てますよそりゃ。何か私が泣かしちゃったみたいじゃない?その時は意味が分からなかったんだけど、家に戻って貰った煮物を一口食べて、納得。

…………うん。個性的な味ですね。

…クシナさんて、お料理苦手だったんだなぁ。ミナトさんに少し同情した。そうか、それでひたすらごめんって謝ってくれてたんだな。私に気を遣って料理を作って来てくれたけど、上手く出来なかったからショックだったんだ。そんなの気にしなくてもいいのになぁ。私だって最初は下手糞だったけど、今はマシなもの作れるようになったから、頑張ってれば上手くなるのに。お腹を壊すほどではなかったから、死なないでっていうのは大袈裟だ。胃は丈夫な方だ。心配りが嬉しかったので、今度は私がなんかを作って持って行ってあげるつもり。それで、良かったら一緒にお料理とかしたいなぁ。

うーん、それにしたっておかしい。もしかしてシカクさんがまだ帰って来てないから、心配してくれてるのかな?でもチョウザさんとかは、シカクさんが長期任務に行ってるって知ってるはずだよね?実は戦争が終結する少し前、シカクさんは「少しばかり長い任務に行ってくる」と言って出て行ったのだ。それから暫くして戦争が終わったから、私はやっと戦後の処理が色々あるのだろうということに思い至ったのだ。そうか、そうだよね。シカクさんは木の葉の頭脳的役割だから、他里との間で交渉役をしたり、忙しいんだろう。

ちょっと長いってどれくらいかな。三カ月くらい?

長期任務って言ってた時は大抵そんくらいだったよね。まだ一か月かぁ。長いなぁ。式場の予約もしなきゃいけないから、早く帰って来てくれるといいんだけど。…い、いや、別に寂しいわけじゃないんだけどさ。……嘘です。ちょっと寂しい。…ちょっとね?

はあ、と溜め息が自然に零れ落ちる。私はぶらぶらと当てもなく里内を歩き回った。いつもだったらシカクさんがどこからともなく現れて「よう雪乃、散歩か?」なんて言ってくれるのにな。つまんないなぁ、と思いながら歩いていると、足元にある花を踏んでしまいそうになった。慌てて避けて、花を見つめる。薄紫色をした、小さな可愛い花だった。わあ、可愛い。何て名前だろう。いのいちさんに聞けば分かるかな?と、一輪だけ花を失敬する。

これ、花瓶に生けて飾ろうかなぁ。部屋の中も最近味気ないし。そんなことを考えて適当に歩いていたせいか、私はいつの間にやら知らないところまで歩いて来てしまっていた。あ、あれ?ここ何処?ま、迷った…。まずい、私一応木の葉に五年近く住んでるんだけど。とっくに二十歳越えてるのにこの年で迷子だよ。まずい。何が不味いって、私の尊厳的な意味で。め、目印になるものとかないのかな?と辺りを見回すが、街中よりも多少木が多い、それくらいしか分からなかった。うう、ちょっとお腹空いて来た。困るなあ、買い物しようと思っただけなのに…昼ご飯食べそびれてるんだけど。

シ、シカクさあぁあ〜〜ん。へ、へるぷみ〜。

なんて言ったって来てくれるわけない。とぼとぼと歩くと、目の前に何か塔のようなものが立っているのが見えた。あれ?何だっけあれ?何か見たことある気がする?原作に出て来たのかな。もう漫画を読んだのが随分前なので、記憶が曖昧過ぎる。でもこれが何か分かれば帰り道も分かるかな?そこで、私ははっと気が付いた。塔の前に誰かが蹲り、呻き声を上げている。私は慌てて、その人影の傍に走り寄った。

『どうしたの?怪我をしているの?大丈夫?』
「くっ……何でも、ないっ!」

何でもないようには見えない。駆け寄って肩に手を置くが、跳ね付けられる。その人物はまだ少年のように見えた。光を反射して輝く、綺麗な銀髪をした少年だ。片眼に眼帯をしているようだが、その目が痛むようだった。

『医療忍者の人を連れて来てあげる。だから君はここに…』
「いい!すぐに、治まるっ…いつもの、ことだ、から!くっ…」

って言われてもなぁ。すごく苦しそうだし…というか、こんな時に何なんだけど、すごくデジャヴを感じるよ。いつだったかなぁ、シカクさんが怪我して帰って来た時もこんな感じだった。あの時と違うのは、私は成長しているし、反してこの子がまだ全然子どもだということだ。無理はしなくていい、と腕を取ると、ぎろっと激しい眼光が私を貫いた。め、目力あるなぁ。多分忍?だよね?この子も。

「いいって言ってるだろ!!!俺のことは放っておいてくれ!……痛みがある方がいい!俺は、ずっと苦しいままでいいんだ!!」

……な、なにこの子すごい中二臭いぞ…。患ってるかな?サスケ君現象かな?(失礼)そもそも片目に眼帯ってのがあれなんだけど。と思ったけれど、そこで再び感じるデジャヴ。うーん…そういえばシカクさんもあの時、無理して笑ってたけどすごい悲しそうだったんだよね。私の勝手な憶測かもしれないけど、この子も仲間を亡くしたりしたのかな。それで罪悪感で苦しんでる?……なんて、決めつけ過ぎか。

とにかく!痛いままでいいなんてそんなわけない。特殊な性癖持ってるって言うんなら止めないけど、辛そうなところを見るとそういうわけでもなさそうだし。ふふん、痩せ我慢するなかれ青少年。お姉さんを舐めなさんな?成人男性のシカクさんは無理だったけど、この子くらいならまだ担げるぞお。私は意気込んで、よいしょっと少年を無理くり背に負ぶった。

「なっ!」
『暴れないで。落ちる、危ないから』
「じゃあ降ろしてくれ!何なんだあんた!俺なんて、どうなったっていいんだ!放っといてくれって、言っただろ!!」

あーあーあーきーこーえーなーいー。何言ってるのか分かんなぁい。私はねー、痛みに苦しんでる子ども放っておくほど鬼畜じゃないぞ。それが原作キャラだったら回れ右するけどね。この少年は、なーんとなく某先生に似ていなくもないけど。うん、でもこんな顔じゃなかったはず。銀髪だけど、眼帯してなかったし。マスクしてるはずだけどしてないし。口調も間延びしてないし、垂れ目でもない。うん、違うや。良かったねェ、違うお蔭でお姉さんがおんぶして連れてってやるんだからな。

『痛いんでしょ、目。ちゃんと見て貰った方がいいわ』
「っ、あんたには関係ない!」
『そうよ。関係ない。私が勝手にやっていること。だから、君のせいじゃないわ。私が痛そうにしている君を見ていられないだけで、君は悪くない』
「………」
『どうなったっていいなんて、言うもんじゃないわ。その目、大事にしなきゃ駄目でしょう』

目がどれだけ大切か分かってないんだなぁ、この少年Aは。名前分からないから、仮にAにしました。かくいう私も元の世界では視力が落ちるのも構わないでゲームとかしてさぁ…こっちは緑が多いから大分回復してきて、すごい有難味が分かったんだから。大事だよ、目は。うんうん。内臓器官として常に露出してるってのが怖いし、危険だから尚更ね。

目のことを話題に出すと、少年はなぜか静かになった。おお、分かってくれたのか。聞き分けいいね。そのままてくてくと道を歩いて行く。この子幾つなんだろーな。13?14かな?案外、じゃない、結構、でもない、か、かなり重い。店で米俵とか引き摺って力つけといて良かった…いや、それにしたって重いよ。忍者だから?鍛えてるからかな?見栄張り過ぎたな。………降りてくれないかなぁ。…駄目?

「………どうなったっていいってのは、目のことじゃない…」
『え?』
「俺のことだ。………夢に見るんだ。俺が、俺が殺したようなもんだから……二人とも……。だから………、俺が、死ねば、良かったって……」

ぽん、と肩に額が押し付けられる感覚。少年が僅かに震えているのが分かる。お、重いんだけど……。この子の抱えてるもの、体重以上に重すぎぃ。だから忍の世界ってやだよ。こんな子どもも戦場に行って、傷付かなきゃいけないんだから。うーん。慰め方なんて分からないよ。私口下手だからなぁ。

『泣きたい時は、泣いたって構わないわ。貯め込んでても、楽になんてならないから』
「………」
『私も、今日まで色々あったけど、支えてくれる人のお陰でここまで来れた。だから、』
「……てない……」
『え?』
「―――…泣いてなんかいない!!」

元の世界のこと考えて、悲しかったり苦しかったりした。死に触れて、どうしようもなく怖いと思ったこともある。誰にも理解出来ないだろう孤独だ。でも、今ははっきり言える。私にはシカクさんがいる。支えてくれる人がいる。だから少年にも、寄り添ってくれる存在があるのではないかと、考えてのことだった。けれど彼は激したように声を張り上げた。

「俺は、泣いてなんかいない!あんたと一緒にしないでくれ!俺は、忍だ…あんたとは違う!何が、泣きたい時には泣けばいいだ…!!」
『…あ、』
「俺は……泣いてなんかいない」
『………』
「…泣いたりしたら、いけないんだ……」

一度は落ち着いたはずなのに、また堰を切ったように怒りの感情を吐き出す少年の姿に、遅ればせに気が付いた。自分は今、とても無神経なことを口走ってしまったらしいということに。目の前の少年を、傷付けてしまったということに。私は、シカクさんと彼を重ねてしまっていた。シカクさんは大人だった。自分の感情との折り合いの付け方を、きっと時が経つ事に学び、覚えて来た。でも、この子は違うのだろう。まだ、子どもだ。大人の振りをした、小さな子ども。私の無神経な一言にこうも心を揺らす、子ども。

『……そう。君はまだ、泣くことには理由が必要なのね』
「!」
『じゃあ、そうね。……ただ、目にゴミが入っただけよ。それで涙が、勝手に出ただけ』

そういうことにしておこう。それならほら、忍の掟にも反しないでしょ?言いながら、そっと花を差し出す。摘んだばかりの小さな花だ。この花の花粉のせいでとか、理由は何でもいい。少年が泣ける理由になるなら、それで。


『ごめんね。…もう何も言わないわ』


背中で微かに震える存在を、掠れた声に気付かないふりをする。

ああ、世知辛いなぁ。



ああ。


シカクさん、あなたに会いたい。


会えるよね?もうすぐ、会えるよね?

私のことを泣かせないで。

こんな風に、理由をつけて泣かさないで。


シカクさん、





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