- ナノ -
見えたもの



「…まあ、そういうわけだ」
「へー知らなかったぁ。アスマ先生、全然そんな素振り見せなかったから」
「初対面だとばかり思ってたよ」

話に聞き入っていたいのとチョウジは、うんうん頷いて感想を述べている。アスマは客観的にシカマルと初めて会ったときのことを話している。そこに自分の感情や気持ちを混ぜてはいない。だから二人は何も思わなかったらしいが、シカマルはアスマの話から別のものを感じ取っていた。単なる昔話とは思えなかった。

「(…いや…何つーか…)」

というか、何故気付かない。アスマもシカマルが気付くかもしれないとは思わないのか。知ったからといって何が変わるわけでもないが、少し気まずいではないか。

まず、手土産を持ってうちに来たというのはいい。それくらいならおかしくない。しかし仮にも忍が気配も確認せず家に上がったことや、抱え上げて運んだこと…まして、何の用もないのに出産が終わるまで待っていた、なんてどう考えてもおかしいではないか。何かが見え隠れしているというか。もしかすると…いや、もしかしなくても……

「(……アスマって、母さんのこと好きだったのかよ…)」

今は、もちろん違うのだろう。彼は、決して軽薄という意味ではないが、初恋をずるずると引き摺っていくようなタイプには思えない。割り切っているだろう。母親をずっとそんな目で見られたくないというシカマル自身の願望もあるが、こうして話にするくらいだからとっくに過去のことになっているのだろう。しかし、しかしだ。こう、複雑なものがあるではないか。

中々に気が合うと思っていた師が、かつて自分の母親に懸想していた、なんて。知りたくなかった事実だ。知らなくてよかった。が、知ってしまったものは仕方ない。能天気に「最近アスマ先生は元気?」とか聞いてくるくらいだから、きっとあの人は何にも知らないであろうし。…案外、気付いていた、という可能性も捨て切れないが。

母のことが好きすぎる父親に辟易してはいたが、実は並々ならぬ苦労を味わってきたかもしれない。ああも無意識に人を惹きつけられては、きっと気が気ではなかったはずだ。父の努力を偲び、知らぬ方がよかった事実にすら気付いてしまう優秀すぎる頭脳を持っている少年は、密やかに溜め息を吐いた。





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漸くここまで書けた…!
シカマルベビー誕生です。
アスマ先生が玉を大切にする切っ掛けとか、私なりに想像してみました。

あと、二話くらいかな。
ラストスパートですね。


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