- ナノ -








「…ほしいものが、あった。」

『…ほしい、もの?』

「既に、他者のものとなることが決まっていたものだった。」

『…。』

「私は、どうしてもそれがほしかった。…故に、奪ったのだ。」





三成様の瞳が、私を射抜く。

…怖い。

彼の求めたものが何なのか…薄っすらだけれど、予感がする。

私は震える唇で、そっと問うた。





『…ほしいもの…とは…?』

「…貴様だ。…名前、私は貴様がほしかった。貴様の、心が。」

『…っ…!』





金縛りにあったかのように、全身が硬直した。

短刀を持っている手が、震える。


…心?私の、心?

どういう意味。そんなものの為に、皆を殺したの。

言いたいことはたくさんあるのに、上手く言葉を紡げない。





「私が憎いか、名前。」

『…はい…。どうしようもないくらいに。』

「ならば、殺せばいい。…これがきっと、最後の機会だ。」





そうしたいわ。私だって、貴方を殺したい。

刃を貴方に向かって、振り下ろせばそれで終わるのに…出来ないの。



憎くて、憎くて、憎い。

きっと貴方が、家康様を憎んでいるのと同じくらいに。



…それなのに、体が言うことを聞かない。

私の手から、するりと短刀が抜け落ちた。






『…私の、負け…ですね。』

「…何?」

『貴方を殺すことは、私の望みなのに…最早、叶わない。』





貴方の望み通り、私の心は貴方が奪っていってしまった。

…それはもう、とっくの昔に。



憎しみがこの胸を支配したときから、私はもう三成様一色。

他のことなんて考えられないくらい、貴方に想いを馳せた。





『…。』





三成様の手が、私の頬に触れる。

私は静かに目を瞑って、三成様の唇を受け入れた。



憎くて、憎くて、けれどそれと同じくらい、愛しい人。



殺したかったのに、愛してしまったのだから、もし…。

もし貴方が違う道を選んでいても、きっと貴方を好きになったのに。

どうして貴方が選んだ道は、殺戮だったの。




…分からない…。

分からないわ、三成様。





(憎むべき愛しい人)

 殺したいくらい、貴方が好き。




 お わ り




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お題:Traum Raum様にお借りしました。




(2011/6/18)

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