- ナノ -








私は懐から短刀を取り出す。

そしてそれを、すらりと鞘から抜きさると、三成様に突きつけた。





『石田、三成様。貴方の御命、頂戴致したく存じます。』





私が、彼の傍にいる理由。…それが、これだ。


意趣返し、弔い合戦、仇討ち。


言い方は多々あるが、そんなに格好好いものではない。

家族を、両親を、許婚を。

殺されたから、という私の自己満足。





「…名前、貴様は、あの時の小娘か。」

『…え?』

「業火の中で、私を決死の形相で睨んでいた…あの小娘か。」

『…覚えて、いらっしゃったのですか。』





その言葉に、私は驚愕の表情をして彼を見た。


…私は、ずっと彼のことを見てきた。

憎くて、憎くて、堪らない貴方を、いつも傍で見つめてきた。


だから、分かっている。

彼の人は、ただ豊臣公の為だけに刃を振るうのだ。

殺した相手など、眼中にない。


…その彼が、私のことを覚えているなんて。





「…忘れられる、ものか。」

『え?』

「…貴様は私を殺すため、ここまで来たのか。」

『…はい。』





憎かった。決して許せなかった。

私の父は純朴な人で、悪いことなんてしていなかったのに。

どうして、殺されなくてはいけないの。…許さない。



その思いを胸に、今日まで生きてきた。

名を隠し、身分を偽り、血が滾るくらい憎い貴方の傍で。

貴方に仕え、貴方に尽くし、貴方の為に。




…それは全て、今日この日、貴方を殺す時の為。






『…ど、うして…父や…あの人を殺したの…。』

「…。」

『どうして、あのとき私も一緒に、殺してくれなかったの…!』





今も蘇る、あの、赤い炎。

切り刻まれた両親。ぴくりとも動かない、私の許婚。

…血に濡れた、三成様の姿。


…私は、貴方のことを鬼だと思ったわ。

とても残酷で、無慈悲で、非道な人。

私の知る限り、聞いた限り、貴方が手を下せば赤子すら皆殺し。



…なのに、どうして?

どうして、私を殺さなかったの?

どうして生きながらにして、生き地獄に、無限地獄に突き落とすような真似をしたの。




…それも全部、貴方が…とても冷酷だからなの?









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