「…ふぅ。もう大丈夫やで、ロヴィ」
次に言葉を発したアントーニョは、何事もなかったかのようにふにゃらと笑う。
先程の威圧が嘘みたいに消え去って、拍子抜けしてしまう程だった。
「アントーニョ…」
「ちょ、ロヴィごっつ怪我しとるやん!?あぁっ可愛い手足が傷だらけや!」
「あ、あぁ、枝で擦って」
「うわっぷにぷにの頬っぺたにまで!ひどいわぁ、痛ない?痛ないわけないやろなぁ可愛そうに」
「あの、アントーニョ」
「こんな時間に外出たら危ないやろ!あぁもう、こうしちゃおられへん!早よう家帰って手当てしたらな」
「──っ人の話を聞けぇ!!」
ひょいと抱き上げられた辺りでいい加減突っ込みを入れる。
じゃないとコイツは常に喋り続けるに違いない。
人の気も知らないで。
俺が今、何を言おうとしてるのか。
知ったらコイツは、どんな顔をするだろう。
そのくりくりの瞳を見開いて、翡翠の色を反射させながら俺を見るのだろうか。
だらしなくぽかんと口を開けて、暫く声も出なくなるかもしれない。
「ん?どないしたん?」
…それも面白そうだと思ったのに。先に翡翠色に見つめられて、身体が軋む。
言おうと思ったのに。そんなに見つめられると、急にヘタレ虫が騒ぎだす。
あぁ。
ありがとう、と。伝えたいだけなのに。
何故この口は。
「…て、テメェ来んの遅すぎんだよ!俺がどんだけ怖い思いしたと思ってんだ!守るならもっと早く守りやがれバカヤローッ!!」
こんなにも悪態を吐いてしまうのだろう。
「わ、ちょ、暴れんなやっ」
「うるせぇ!さっさと家に連れてけコノヤロー!」
「なんや言いかけてたみたいやけど」
「なんでもねぇよ!ただのストイックホルム症候群だ畜生め!」
「それストックホルムとちゃうん?」
ストイックになってどないすんねん、と笑うアイツに。更に悪態を吐いて眉間にグーパンチをお見舞いする。
奇怪な声を上げて眉間を押さえるアイツに、俺は腕組をしながら満足そうに鼻から息を吐いた。
(で、なんですぐ追い掛けて来なかったんだよ)
(いやぁ、庭に出たらトマトに水やってないことに気付いてなぁ)
((‥俺はトマト以下かよ))
†end
国擬人化BL