アントーニョ、アントーニョ…!
背中に衝撃が走り、自分の意思を無視して身体が地面へと倒れ込む。
口の中で血の味を覚えながら、ただ彼の名前を繰り返した。
こんなことになるなら家を飛び出さなければ良かった。癇癪なんて、起こさなければ良かった。
ただ俺は、アントーニョが好きだったんだ。
甘えたくて、でも素直になれなくて。自分の気持ちと行動が上手く噛み合わなくて、どうすれば良いのか分からなくなってしまった。
でも今はものすごく後悔している。
だって結局最後までアイツに本当の気持ちを伝えれなかった。ありがとうって、言えなかった。
何でだろう、何で今頃気付いてしまったんだろう。
せっかく気付けたのに、もう二度と、アイツに伝えられない。
「ごめんなさい、アントーニョ‥」
「謝っても許さへんよ」
「──え?」
耳を疑う、とは。まさにこのことだろう。
何故今、彼の声が聞こえたのか。これは走馬灯の一種か?
それならば何て高性能な走馬灯だ。彼の声を一字一句完璧に再現した上、耳元で再生するなんて。
と言うか、──あれ?
地面に押し倒された筈なのに、何でどこも痛くないんだろう。
押された瞬間口の中を噛んでしまい、そこはヒリヒリと痛むけど、他は何故か暖かい。
暖かいし、何処かで嗅いだことのある匂いがする。
これは何処で嗅いだ匂いだっけ。
少しトマトの匂いが混じった、小麦色の、太陽みたいな匂い。
‥‥トマ、ト?
「アントー…ニョ‥?」
頭に浮かぶ疑問符に促されて、固く瞑っていた瞼を開ける。
見上げれば。そこには最後に見た笑顔を向ける、アントーニョが居た。
→