走る、走る、ただ走る。

葉が頬を掠めても、枝が手足を傷付けても、ただただ走り続ける。


後ろからは荒い息を吐きながら、舌を垂らして追い掛けてくる狼。

四つ足の速さは尋常ではないが、それよりも速く小さな手足を懸命に伸ばして走る。


逃げれなければ、そこにあるのは『死』のみ。

暗くて重い感情に背中を押されながら、涙を溢しながら走った。


こんな時に何故アイツは居なのか、と。唯一の味方であったアントーニョのことを思い出す。

あれだけ頼れと言っておきながら、肝心な時に居ないのでは意味がない。それでは只の出任せだ。



…あぁ、そうか。やっぱり俺は、ひとりなのか。



大好きな弟とも離されて、心を寄せ始めていた人にも見離されて。

そして最期には狼に喰い殺される。


落ち葉を舞わせ、爪を立てながら地面を蹴り上げる足音が近付いてくる。

息は上がり、思うように足が動かない。


嫌だな、こんな人生。

せめて最期くらいは国として終わりたかったのに、こんな誰にも気付かれないような所で死ぬなんて。


嫌だ、怖い。

痛いのは嫌だ。
寂しいのは嫌だ。

怖い、怖いよヴェネチアーノ。

誰か助けて、俺を見付けて、お願いだからひとりにしないで。


もうだめだ、殺される。




助けてよ、




──アントーニョ…ッ





見開かれた瞳から最後の一滴が零れ落ちたとき。

背後から、何かがぶつかるような衝撃を受けた。







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