「!?──ッやめろ!」



咄嗟にジローの体を押して顔を背ける。


怒りか驚きか。
あるいは悲しみか。

その表情が、綺麗に歪む。



「……んだよ…お前は‥」



何なんだ。


そう呟いて。
触れられた唇を手の甲で拭う。



「っ…二度と、此処へは来るな」



視線を合わせないように立ち上がり、体に触れないように歩き出す。


自分を目で追うジローに気付いていたが。
何も知らないフリをした。



──バタン



まるで今の出来事を振り払うように閉められた扉。

その扉を見つめて。
少し 微笑う。


ちょっと、イジメ過ぎたかな。

おかげで嫌われてしまった。



「‥ハハ」



乾いた嗤いを響かせながら。
机に座った儘、膝を抱き寄せる。


泣きそうな顔が意外と初心で。

何度忘れようとしても。
あの表情が脳裏から消えない。



本当は、あんな顔をさせるつもりじゃなかった。


ただ見てほしかった。
ただ触れてほしかった。

ただ、それだけだったのに。



なのに


俺の好きな人には
好きな人がいて。

手に入れたいのに
手に入れられてて。


抱いてほしいのに
抱かれてる‥‥




その口元が歪んで。

目からは涙が零れ落ちた。



†end

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