少し離れた所で、誰かが膝を抱いて泣いている。
『お父さんなんて大嫌い!そんなんだから、お母さんいなくなっちゃったんだよ』
あぁ。
そうやって責めるあの子に、違うと言えたらどんなに楽か。
でもあの子は優しいから、本当の事を言ったらきっと今以上に泣いてしまう。
だから。
この事は俺と君だけの秘密。
なぁ、それで良いんだろう?
──なまえ…
うっすらと目を開ければ。
そこはリビングの天井。
瞬きを数回して身体を起こせば、ソファーがぎしりと音を立てる。
机の上にはビールや酎ハイの空き缶。そして飲みかけのウイスキーボトル。
散り散りになった記憶をたぐりよせ、やっと何が起こったのかを思い出す。
──そっか。結局昨日は帰って来なかったのか…
涙目で家を飛び出したなまえ。
言い訳も取り繕いも出来なかった。と言うか、させてもらえなかった。
──まぁ、あれじゃ何を言っても全てが手遅れなんだけどね。
酒臭い息でため息を吐いて、取り合えず散らかった空き缶を適当に纏める。
頭痛に皺を寄せながら顔を洗っていると。
玄関から、来客を知らせるインターホンが鳴り響いた。
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