「で、何でテメェはアイツと喧嘩する度ここに来んだよ?」



ベッドの上でうだうだしている私にため息を吐く。

眉間に皺。
年を重ねた結果、逆にそれがいい渋みを出している。




「だって南さんは直ぐお父さんに連絡しちゃうし」

「俺だったら気にしねぇってか」

「えっへへ…」




南健太郎、38歳。

父やあっくんの同級生で、中学時代にテニス部の部長を務めていた人物。


だからだろうか。

存在感は薄い割に、妙に威圧感があり。

「あっくん」と、亜久津は父が呼んでいるのと同じように呼べるが。
なぜか南に対してはさん付けになってしまう。


これが父や亜久津のような問題児を上手く扱ってきた実力か、と。

妙に納得したものだった。




「フン。まぁ、確かにその通りだ。気が済むまでここに居りゃあいい」

「ありがとう。‥って、どこ行くの?」




雑誌を閉じて立ち上がる亜久津に、慌てて体を起こして聞く。

時間は23時を回ったところ。
出て行くにしたって、少々時間が遅すぎる。




「寝るんだよ、ワリィか」

「いや、だってベッドここ…」

「そこはテメェが使うだろ」




飛ばしたクッションを拾い上げ、何事もないかのように部屋を出る。

当たり前かもしれないが、当たり前ではない十分過ぎる心遣い。




──あっくんの、こういうところが好きなんだよね。




閉まる扉に「ありがとう」と言ったら。

不器用に「あぁ」と返ってきた。







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