だが、次の足を踏み出そうとした瞬間。
先程まで煌々と淡い光に照らされていたはずの世界が一瞬にして闇に包まれた。
「…っ!?」
そのせいで目標を見失い。
思わず立ち止まる。
と同時に、その車が猛スピードで私の目の前を走り抜けて行った。
風が流れて、音だけが耳に残る。
心臓がこれまでにないくらいにバクバクいって、身体が震えてきた。
見上げると、さっきまでは晴れていたはずの空は厚い雲に覆われ、重々しい空気を漂わせていた。
もし、あそこで月が雲に隠されていなかったら…。
目の前で通り過ぎていった車の音が甦り、想像してぞっとした。
──あぁ、そうか。
手を伸ばしながら、雲に隠れた月を探す。
「サエ兄が助けてくれたんだね…」
声に出すと、堰を切ったかのようにポロポロと大粒の涙が流れ出した。
「ごめん…ごめんなさい、サエ兄。私、サエ兄に守ってもらった命、無駄にするところだった…」
そうだ。どんなに辛くても私は生きなければいけないんだ。
生きて、あなたの分まで笑って、あなたの分まで幸せにならなければいけないんだ。
それが今の私にできる。
あなたへの恩返しだから。
涙を拭いて前を見る。
このまま昔のように部屋の隅で泣いていても何も変わらない。
ちゃんと言おう。
私の気持ちを。
例えどう未来が変わったとしても、私にはあなたがいるから大丈夫。
だから見守っていて。
あなたが小石を照らしてくれれば、私はどんなに遠くにいたって帰れるから。
来た道を振り返って、一歩踏み出す。
今度は生きていく為に。
雲が晴れて。
月の光が優しく私を抱き締めた。
†end
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