「ブンちゃんってばマジマジすっげーんだよ!こうフワッとなったかと思うと、トスってなって、ゴロゴローってなるんだぜ!?もう俺すっげー楽しかったCー!!」

「へぇ〜、凄いですねぇ」




興奮気味に捲し立てるジローに相槌を打ちながら、バッグのポケットから定期を取り出す。

きっと技術的専門用語が多すぎて、私の脳では処理しきれないのだろう。

理解が出来ない擬音語は、改札を通るピッという音と共に流しておいた。




「──あれ?」




電車を待つ為にホームへ行くと、線路を挟んで向こう側のホームに見知った顔を見付ける。

とっくの昔に帰ったかと思ったのに、そこに居たのは途中で呼び出された詩史と、途中で呼び出した忍足。それと…


──日吉?


同じクラスの日吉が居た。



「ジロー先輩」

「ん?」

「向かいのホーム」

「んー?あ、オッシーとその彼女と、‥‥ヒヨ?」



なんで?とクラス首を傾げるジローにさぁ、と言って、そのまま遠巻きに観察する。

たまたま居合わせてしまったのだろうか。別段会話が弾む様子もなく、詩史と二・三言葉を交わした辺りでホームに電車が入ってくる。

車内を眺めればそこには詩史と忍足の姿しか見えず。
二人は此方に気付く素振りも見せずに楽しそうに電車に揺られて去って行った。


残されたホームには数人の客と、どんどん遠くなっていく電車を眺める日吉。

その眼差しは少しだけ寂しそうで。それを隠す前髪が、切なそうに風に靡く。




「おーい、ヒヨC〜!」




急に名前を呼ばれて、弾かれたように顔を此方に向ける。

ブンブンと手を振るジローに誰に呼ばれたかを認識すると、小さく頭を下げて、それから何かを隠すようにホームの端へと歩いて行った。




「オッシーも意地が悪いよねぇ」

「…意地が悪いのは先輩の方です」




この人、わざと名前を呼んだな。


ジローの真意が見えたような気がして、罰の悪そうな顔をした日吉に同情する。

特にプライドの高い日吉には、一番見られたくない場面だったかもしれないのに。




「…日吉も、もう少し笑ったりすれば良いのに」




車内の壁に並ぶ座席に座って、規律正しい音に揺られながらぽつりと溢せば、隣でそれを聞いていたジローが喉の奥で笑う。



「何で笑うんですか」

「いや、悠子も最初はそうだったじゃん」

「私が?」

「え、覚えてないの?俺あんなに頑張ったのに?」



酷くない?ズルくない?と口を尖らせるジローに、全く覚えのない私は曖昧な表情を浮かべる事しか出来なくて。

私も日吉並みに無愛想だったのか?と首を傾げながら。

心地の良い揺れにつられるように。少しだけ、昔の事を思い出してみることにした。






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