ポーン、ピーンと、定期的に鳴る音を聞きながら駅のホームを歩く。

一体この音には何の意味があるのだろうと考えてみても、当然答えが出る筈もなくて。

何となく歩く度に揺れる詩史の後ろ髪を眺めていると、"あっ"と詩史が突然声を上げて立ち止まる。

何事かと詩史の頭越しに前を見れば。




「日吉くん!」




少し離れた場所に、詩史と同じクラスでテニス部2年の日吉若が立っていた。



「今帰り?」

「あぁ」



笑顔で寄っていった詩史に、ぶっきらぼうに答える日吉。

それを忍足が後ろから眺めれば。その視線から逃れるように、日吉が不自然に横を向く。

当然その"不自然"に気付かない詩史は、普段通り仲の良い友達という感覚でやり取りをしていた。




「──憐れなもんやなぁ」

「え?何がですか?」




別れを告げて、今はホームで一人立つ日吉を視界の端に捕らえながら、ポツリと呟く。

反対側のホームを見せないように窓側に立つ忍足は、自分の心の狭さに呆れて唇だけ歪ませて笑う。


"天然のカノジョを持つと大変ですねぇ"


いつか詩史の友達に言われた言葉は、なかなかの図星を突いていて。

それでもそこがまた可愛いと思ってしまう自分は最早手遅れだと、動き始めた電車に揺られながら思った。



「桜綺麗でしたね」

「せやな。…なぁ、詩史。ちょと気になったんやけど、えぇか?」

「はい?」

「自分、いつまで敬語使うつもりや?」

「あっ」



パッと口に手を当てる詩史。
別に悪いことをしたわけでもないのに、慌てるところがまた微笑ましいと言うか、何と言うか。



「部活中に敬語なるんは別に構わへんけど、今くらいは外してもえぇやろ?プライベートなんやし」

「はい、すみませ‥あ、違う。う、うん」



ゴニョゴニョと口の中で言葉を溢す詩史。

心なしか顔が赤いのは、上手く喋れない恥ずかしさからか。それとも不馴れな事に対する焦りからか。

俯いてしまった詩史に笑って、空いた右手を自分の左手で包み込む。

耳まで真っ赤になった詩史に対して何を思ったのか。そんなのは言わなくても分かるだろう。



「結構前から言っとるんやけどなぁ」

「うー…ごめん‥」



なかなか外れない敬語は仕方ないにしろ、未だに手を繋ぐだけで顔を赤くするのはどうにかならないだろうか。

嫌とかではなく。こっちの心臓というか、理性が持ちそうにない。


まぁでも、昔に比べたら随分こういう事にも馴れた方か、と。

自分が教えてきた功績に眼鏡をクイッと上げながら、流れる景色にあの頃を重ねた。






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