仲の良い女子が集まれば、自然と会話は盛り上がり。
脈絡の無い話が続き、何度か話題が転調した辺りで携帯の着信音が鳴り響く。




「あ、ごめん。私だ」




詩史が慌てた様子で鞄から携帯を取り出せば、片割れたハートがぶら下がった某キャラクターのストラップが目に入る。

対になるように作られたそのストラップに、誰かの影を連想させた。



「はい、詩史です。…うん…うん‥‥ううん、大丈夫」


「…あの人だな」

「そうね。あの人ね」



声のトーンと話し方で、大体の人を予想する。
どうやら悠子の方も察したらしく、揺れるストラップを指差して笑う。

携帯を持つ右手の薬指に光る指輪は、きっとその人に貰った物だろう。




「…ごめんね、私もう行かなきゃ」

「構わないわ。早く行ってあげて」

「うん。ありがとう」




そう言って笑う詩史の笑顔は、先程までのものとは少し違っていて。

"恋人専用"。そんな言葉が頭を過った。




「…嬉しそうだったわね」

「そりゃそうでしょ。何てったって、カレシに会うんだから」




手櫛で髪を整えながら、いそいそと帰って行った方を眺めてポツリと呟く。

彼氏と言う言葉に、眼鏡を掛けたとある人物が頭に浮かんだ。



──男子テニス部三年、忍足侑士。


ポーカーフェイスを操る彼が駆け引き無しで表情を崩す相手は、きっと先程電話で呼び出した人物、詩史だけだろう。

この二人が付き合っている事はこの学校でも有名で。
その事実に深い溜め息を吐いた者は数知れず、立海テニス部でも落ち込む者が出る程だった。




「あの子も、相変わらずなのかしら」

「あー…あいつね。うん。良い感じにカオスだよ」




遠くを見詰める二人には、きっと同じ人物が浮かんでいるのだろう。

哀れんだ瞳を空へと向けて、渇いた声で笑いを溢す。




「鈍感は罪よねぇ」

「怖いよねぇ」




三嶋詩史という人物の恐ろしさを、改めて感じたような気分だった。








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