小説 | ナノ
therefore kill you 1

真黒くんが言っていたあの子は誰だろう。

まぁ、例え違うのが来たとしても殺せばいい。


にしても、畳の上は落ち着く。
僕の家も、ここのビオトープにあるような日本風家屋だったからだろうな。


落ち着くけれど、そろそろ水やりの時間だ。
僕は正座を崩して立ち上がった。暗器を仕込んであるから制服が重い。慣れてしまったから別にどうってことない。速度が落ちてしまうのが難点ではあるが。あ、そう言えば理事長が言っていたっけ。彼女が視察に来るって。



「だから殺す」










僕が水やりをしていると、ビオトープの扉が開けられた。そしてそのやって来た一団の声が聞こえてきた。


「…え? あれ なにこれ?」

男の声だ。

「俺達 今 階段を降りて地下二階に来たんだよな。 なのになんで屋外みたいな景色が眼前に広がってんだ? それも日本庭園って言うかなんて言うか――」

地下にこんなのがあったらまぁ最初は驚くだろうね。でも僕にとっては普通だ。


「庭園というよりこれは一種のビオトープだな」

今度は女の子。

「迷路に続いての実験施設というわけだ」
実験……ねぇ。それよりも、

「目的は不明だが、これもフラスコ計画の一端なのであろう。ほれ、天井を見てみろ、ちゃんと屋内だぞ。気圧や光量を調節して屋外を再現しておるのだ」

「…それがわかっているなら、早く後ろの扉を閉めてくれないかな」

僕はそう言って植木に水やりを続ける。

「扉を開けっ放しにされたら空調が乱れる。環境を一定に保つためにこれで結構苦労しているんだよ」

ふうん、視察に来たのは生徒会のメンバー全員か。さっきの声の女の子が彼の妹だろうか。さて、真黒くんが会わせたい子は誰だ。



「それは気付かなかった。ところで、貴様も『十三組の十三人』のメンバーか?」

少し真黒くんに似ているかもな、彼女。

「そうだよ。三年十三組、宗像形。理事長から聞いている。君達が施設を視察に来た生徒会執行部なんだろう?」

まったくもって面倒だな。

「だけど見ての通り、僕は今 作業中で 君達の相手をしてる暇はないんだ。悪いけど、このフロアの視察は後回しにしてくれないかい?」

まだ水やりが終わってないんだ。

「え…後回しって。あなたは私達を通せんぼしたりしないの?」

眼鏡をした女の子が僕にそう聞いた。

「ああ 僕は争いが嫌いだし、都城みたいに嫌がっている黒神さんを無理にメンバーに引き入れようとは思わないからね」

実際、そうだ。僕はゴタゴタに巻き込まれたくはないから。それでもね、

「ふむ、まあそういうことならこの階は素通りさせてもらうとするか」

背を向けて植木に水やりをしている僕に彼女はそう言って歩き出す。僕はその瞬間に彼女の首を狙い、隠し持っていた日本刀で横凪ぎにした。確かに、切った感触はあった。


「めっ めだかちゃん!!」

だけど切れたのは彼女の長い髪だった。パラパラと切れた髪が落下していく。
真黒くんに怒られなきゃ良いけど。

「〜〜〜〜〜〜っ!!」

「ん? あれれ へぇ。避けるんだ、避けないって聞いてたのに」

「なっ…なっなななっ」

「なんだこいつぅう!?」

驚くのも無理ないね。

「ああ! 驚かせてしまってすまないね。どこから日本刀を取り出したのかが不思議なんだろう?」

だって僕は。

「ご覧の通り、僕は暗器使いでさ。制服(からだ)中のあちこちに武器や凶器を隠し持っているんだよ」

槍に薙刀、鎌に刀。ありとあらゆる刃物が僕の制服の中から顔を出した。






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