目が覚めたら赤ん坊でした


気づいたら赤ん坊だった。
というのは冗談でも、ふざけているわけでもない。
トンネルを抜けたら雪国だった。ではなく、目を覚ましたら赤子だった。
私が朝起きてまずすることはメガネをかけることだ。だから、寝惚け眼でメガネを取ろうと手を伸ばした。でも、届く位置に無かった。不思議に思った私は目を擦り、メガネを探す。
その時に気づいたのだ。目を擦った自分の手が、明らかにサイズが違う事に。

(何故に私の手がミニマムに……。)

おかしい。

そして私は起き上がろうとするのだが、出来なかった。筋力が落ちたわけでもないのに、私は体を起こすことが不可能だった。

おかしい。

私は昨日、普通にメイトに行って普通に本屋に寄って、普通にコンビニで夜食を買い、普通に家に帰り、普通に食事をし、普通に眠りについたはずだったのに。
『目が覚めたら赤ん坊でした』だなんて、既存の夢小説のお決まりパターンに私は驚愕する。


(いやいやいやいや。これは何かの夢で、、私に若返り願望があったから……。)

(それでもこれは若返りすぎではないか?)「あー、ぶ。あいー!?」

驚いた私の口から出たのは赤ん坊の声だった。

「うー、だ(うそだ)」

これはない。夢ならはやく醒めろ、と小さな手で自分の頬をつねろうとする。あ、柔らかい。じゃなくて、醒めない……だと!?

私がそうしていると、何かの足音が聞こえてきた。そして


「弥善(みよし)ちゃーん!! お母さんだよー」

私の名前が呼ばれた。しかも私の母だと名乗る女性…、というかロリが現れた。
私の寝ていたベッドに近付いて、顔を覗かせる。そこにあったのは、『人吉瞳』の顔だった。

これは見間違いでもなんでもない。昨日、本屋で立ち読みしていた『めだかボックス』に登場してくる人吉善吉の母親の『人吉瞳』だ。

(マジかよ……。)

困惑をよそに、彼女は私に語りかける。

「弥善ちゃんはねー、男の子だったら善吉くんって名前になってたんだよー」

「あー、う?(なんて?)」

今、彼女は何と言った?
私が男の子だったら善吉になってた……と言わなかったか?

はい来たー。
目が覚めたら赤ん坊で、尚且つその世界の誰かに成り代わりしていたパターン。


そして


私は、人吉善吉に成り代わってしまったらしい。






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