今も [3/9]
体が揺れる。一体、何だろう。
目を覚ますと、私を覗き込む2つの三日月がそこにあった。
「ようやく目を覚ましたか」
「……?」
私は今の状況を全く理解できていなかった。
「こ、こは……? 私は一体」
「ここは厚樫山の麓だ」
紺色の髪に三日月の入った瞳。平安を思わせるような服装の彼はそう言った。
そして私は気づく。彼に横抱きにされていることに。体が揺れたのはそういうことだったのかと理解した。
「このような所に人が現れるなど無いのでな、心配になって倒れていたお前を運んでいた」
「あ、……すみません。降ります」
「はっはっは。よいよい、俺もたまには力を使わなくてはな」
微笑んだ彼に私は見惚れた。
「しかし、どうしたものか……」
「あの、私は」
私が彼に質問しようとした時にガサリと音がした。
「ふむ、今回ばかりは見逃してはくれんようだ」
そう言って彼はわたしを近くの木の側に降ろしてわたしを庇うように目の前に立った。
「ミツケタ……カ、タナ……コロス」
骨と禍々しい何かで形成されたそれは、どこかで見た覚えがある。けれど、私はそれを思い出せない。
「そこから動くでないぞ」
彼はそう言って現れた敵に向かって行く。
それはもう鮮やかに、彼の太刀筋で残骸と化した。
刀……。何故だか、それを思いだそうとすると私の頭は酷い痛みに襲われた。
「ん? どうした」
戻ってきた彼は首を傾げている。
「痛いんです……、思いだそうとすると私は」
「無理に思いだそうなどと考えるな。ゆっくりでいい」
ポンと頭を撫でる彼の手が何故だか嬉しくて、気づけば私は涙を流していた。
しゃがんだ彼は私を抱きしめてくれた。
ひとしきり泣くと彼が口を開いた。
「俺は三日月宗近だ」
「三日月、さん」
「宗近でいいぞ?」
「えっと……宗近、さん。私は雪路です。それ以外はよく覚えていなくて……」
「ふむ、雪路か。良い名だ」
またまた頭を撫でられる。けれども、不思議と嫌ではなかった。
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