シュウ [19/21]
いつだって彼は、私を餌としてしか認識していない。寝るか、音楽を聞いているか、吸血するかの選択肢しか持たない彼。―シュウはそんな男だ。

私はそんなシュウに恋をしている。
不毛な恋だ。


ヴァンパイアの餌である人間の血、それも少し特殊な血を持った私。目の前に私がいたとしても、シュウには極上の餌にしか見えないのだ。それでも嬉しい。私を好きでいなくても、彼が私の血を好きでいるなら。

「……何考えてる」

私をベッドに押し倒し、首筋から吸血していたシュウが牙を抜き、私の顔を覗き込んだ。

「何も」

「あっそ……」

「っ!? いっ…」

私のさらされた胸元に噛みついたシュウ。じゅるっ、と血を啜る音が私の耳に届いた。
牙を差し込まれる痛みに顔を歪めれば、シュウは「くくっ」と喉を鳴らした。

「あんたは本当に飽きない」

「そう……。あっ!? ん、やめっ」

「止めろ? ……馬鹿言うなよ、あんたは俺に吸われたがってる。……違うか?」

違わない。私はシュウに血を吸って欲しい。シュウが好きでたまらないから。でも、それを言ってしまえばシュウは私をめんどくさく思ってしまうかもしれないから。


「違う」

だから私は嘘をつく。
私は餌。シュウにとっては都合のいい食事を与えるためだけの人間。


「……」

「シュウ?」

無言になってしまったシュウに私は声をかける。

「もういい……、寝る」

吸血を止めてベッドに横になったシュウ。目を閉じて数分もしないうちに寝息が聞こえてきた。
私は体を起こして隣で眠るシュウを見る。


「……好き」

その言葉は、彼が眠っている時にしか言えない。
私はシュウが好き。
でも、いつも虚しくなって私はベッドから降りてシュウの部屋から自分の部屋に戻る。

「ねぇ、……シュウ」

こんな私を知れば、彼は私を捨てるだろうか。


バタンと自分の部屋の扉が閉まる。
そして私は膝を抱えて眠りについた。









『なあ雪路、お前はいつになれば俺の気持ちを理解してくれる?』


シュウがそんなことを呟いていたなんて私が知る由もないのだ。


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