シュウ [10/21]
貴方から与えられるもの全てが愛おしいから、私はこのままでいいと思ってしまうの。嘘の混ざった甘言も、痛みと快楽を伴う吸血も、暖かみの何もない冷たい体温も、ナイフで抉るようなその視線も。全部愛おしくて、愛(かな)しいから。涙なんてもう出てこない。貴方に愛されるなんて甘い幻想を抱いた私に、貴方は現実を突きつけるように首筋に刺さる鋭い牙を立てる。それでもいい。私は只の餌でもいい。貴方が私の血を吸っている事実だけあればそれでもいい。只、貴方が側にいるだけでも幸せだったの。貴方は私のことなんか好きでも、ましてや、愛してなんかいないと思っていたの。それなのに、
――それなのに何故?
「おいっ!? 何でアンタがこんなことになってる。アンタは俺のものだろ、アンタの血も、身も心も、生死も、魂だって全部俺のものだろ? なのになんで」
「…………シュウ? ……ど、して……? 私のこ、と…………どうでもいいって、……思ってたんじゃ、ないの?」
「そんな訳ないだろ!? 俺はアンタのことをそんな風に思ったことなんかない。俺はアンタを愛してた」
伝わらなかった、だけで。
貴方はそう言って、血まみれで息も苦しい私を抱き締めた。
「良、かった。…………わ、たし、シュウに愛され……」
白く滲んだ目の前、貴方が見えない。
それでも貴方が私を抱き締めていることは分かるから、これで安心して逝けるね。
「シュウ…………、さよなら」
「っ!? おい、止めろっ。目を開けろよ、俺を見ていつもみたいにへらへら笑えよ…………なぁ」
貴方にさよなら。
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