ねこ

私、橘纏は橘の家に産まれた姫だった。 身体が弱くてすぐに体調を崩していた私はこの橘の家から男子が生まれなかったせいもあって男装をさせられていた。
自分は女なのに何故男装をしなければならないのかと幼いときにそう思った。 けれど侍女に聞くと健康に生活する為には子供の時に男子は女装を、女子には男装をさせると良いのだ と聞いて渋々ではあったものの我慢をした。 母が着ているきらびやかな着物を見ては早く大人にならないものかと待ちわびていた。 しかし年が上がるうちに男装に慣れてしまい、女物の着物は何故か受け付けなくなっていて、あれほど思い願っていたはずなのに不思議な事だった。

今度は逆に侍女も母も男装を止めさせようとしたのだが私はいやだと言い、父も自分の好きなようにすれば良いと言ったので今は自由にさせてもらっている。

自分が武将として刀を振るい戦場に立ったのが今ではもう懐かしい。 背丈も普通の女子ではあり得ないくらい高く、中性的な顔立ちだった為か男に見られる事が多かった。 それでも不快な気持ちは無く、寧ろ有り難かった。 私が女であると知っているのは太閤殿に軍師殿、刑部殿、そして左近である。

特に軍師殿にはよくしてもらっている。
軍師殿は、たまにではあるが、今では猫屋敷と呼ばれている私の屋敷に来る時がある。 何やら軍師殿のお気に召す猫がいたようで、その猫は貫禄があり例えて言うのなら太閤殿だ (失礼ではあるけれど) 元々は私の屋敷の猫ではなかった(その頃はまだ屋敷にいた猫は灰瀧や白戀ぐらいで猫屋敷なんて呼ばれてはいなかった)のだがいつの間にかいつくようになった。
軍師殿はその猫に「藤吉」と名前を付けた。 そしてとにかくその藤吉を可愛がった。



刑部殿は軍師殿の紹介で顔を合わせる事になった。
とかく不思議な姿(包帯姿ではなく、神輿が浮いている事)に最初は驚きはしたものの、私は握手を求めた。その行動に刑部殿は吃驚していた。 なんでも、大抵は病を患って包帯姿の刑部殿の姿に畏怖の念を抱く者が多く、握手など求める事が無かったからだとか。

世の中には様々な人は沢山いるもので、十人十色とはよく言ったものだ。

そして刑部殿にもお気に召した猫がいる。 それが灰瀧だった、 灰瀧は刑部殿と同じく、病を患って足の不自由な猫だった。刑部殿は自分と重ねていたのかもしれない。




左近は私と同じ頃に戦場に立った(私と親戚関係でもある) 所謂同期だ。 私が女だと知っていたが周りの男達と変わらない接し方をしていたことは、私にとって嬉しかった。
しかし屋敷に来るたびに騒がしいのは止めて欲しい。




さて、昨日、刑部殿とやって来た石田三成殿(治部殿)は刑部殿の友垣、そして左近の上司で面白い御仁であった。 遠目から一度見たことはあったし、刑部殿や左近から話を聞いていたがやはり本当に太閤殿を慕っているのだなと思った。
猫や私を斬滅するのは勘弁して欲しい。







「 …主、 大谷様が 」

『 分かった 』

返事をすると黒猫は下がる。



一体、何のご用向きなのだろうか。
刑部殿の案内で私は大坂城に出向いたのだった。










2014.06.15加筆修正




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