「ねぇ、カナトくん」
「なんですか、ライト」
リビングではライトとカナトの二人が会話をしていた。
帽子を弄るライトに話しかけられたカナトは今日のデザートのタルトタタンを食べる手を止めた。
「蝙蝠を見て思い出したんだけど。ちっちゃい頃、ボクたちって蝙蝠追いかけたりして遊んでたよね」
「だから何ですか。僕が蝙蝠を捕まえられなかったことを馬鹿にしたいんですか」
「違う、違う。ほら、昔はさ、ボクとアヤトくんとユキトくんとカナトくんの四人でいたよねって話」
四人で蝙蝠を追いかけていたときのことを二人は思い出す。主に蝙蝠を捕まえていたのはアヤトだった。その次がライト。カナトはどうしても蝙蝠を捕まえるのが下手で、それを宥めるのがユキトだった。
「……今は別々ですから」
「あーぁ、ユキトくん帰ってこないかなぁ」
「呼んだ?」
「「!?」」
突如として二人の耳に聞こえたのは、まぎれもなく、先ほど話していた彼
――ユキトの声だった。
「はは、二人とも物凄く面白い顔」
「ちょっと〜、ユキトくんってば、いつ帰ってきたの!?」
「どうして連絡をよこさなかったんですか!?」
「帰ってきたのはついさっき。連絡しなかったのは驚かせてやろうと思って」
二人の座っているソファーに歩みよってきたユキトはそう答えた。
「あ、カナト。これ、あげる」
「なんです……、っ!?」
ユキトがカナトに差し出したもの、それは……
「わ〜、これマカロン? 良いなぁ、カナトくんだけ狡い」
「テディ……」
「作ってみたんだけど、……どう? テディは何て?」
大事にしているテディとそっくりの顔をしたマカロンをカナトは交互に見た。その顔はとても嬉しそうに見えた。
「ユキトくんって器用〜」
「あぁ、ライトには別の」
「んふ、ユキトくんありがとう」
マカロンを貰えたライトはユキトに抱きついた。
「……ですか」
「カナトくん?」
「だから、何でユキトに抱きついてるんですか!? ユキトに抱きついて良いのは僕とテディだけです」
「マカロン、気に入ってくれたみたいだね。……ほら、カナトもおいでよ」
ユキトは小さく微笑むと、カナトに向かって手招きした。もちろん、ライトはユキトの後ろに抱きついたまま。
「ライトがいるのが気に入りませんが、ユキトが言うなら仕方ないです」
マカロンをタルトタタンの皿に乗せて、膝上のテディを抱いたカナトは二人に近づいてユキトの正面に抱きつく。
「アヤトくん絶対に怒りそうだね」
「ははは」
二人に抱きつかれたユキトは楽しそうに笑った。
ソファーに座り直した三人は会話を続ける。
「蝙蝠って言えば、……カナトは追いかけるたびに転んでた記憶があるけど」
「それは忘れてください」
「アヤトとライトは捕まえるの得意だったっけ」
「え〜、一番得意なのはユキトくんだったよ」
「俺は蝙蝠捕まえるより、蝙蝠を追いかける三人を見てる方が得意だったかな」
三人の反応とか……。
そう言って、ユキトが浮かべたのは黒い笑みだった。
「ユキトくん怖いんだけど」
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