「ああ、やっと来ましたか」
レイジさんは食堂に現れたユキトくんとスバルくんを見てそう言った。スバルくんはなんだか顔を紅くしてるけど、何かあったのかな?
「ごめんね、レイジ兄さん。スバルが甘えてきて遅れちゃった」
「誰がいつ甘えたよっ!?」
ユキトくんのその言葉にスバルくんが反応して大きな声をあげた。
「ははは。……手、繋いだままだよ」
「ばっ!? 離せっ」
よく見たらユキトくんとスバルくんは手を繋いでいたみたいで、スバルくんはそれに気づいて手を振り払った。
「ユキトは俺様のだ!!」
アヤトくんがユキトくんにそう言って近づいた。
「あーはいはい、俺は俺のな」
それをユキトくんが軽くあしらったのだけれど、カナトくんとライトくんもアヤトくんと同じようなことを言った。
「違います、ユキトは僕とテディのです」
「んふ、ボクだよね?」
食堂に来てから机に突っ伏して寝ていたシュウさんは起きていて、いつもの口癖を言う。
「うるさい……」
「穀潰しの癖にユキトを隣に座らせないでください」なんだろう、皆。ユキトくんのこと好きみたい。そして、感じる違和感。
「ごめん座っちゃった」
シュウさんの右隣に座ったユキトくんはレイジさんにそう返した。
「あっ、おいシュウ。テメェ」
「アヤトは右な」
アヤトくんが怒りそうなのを止めてユキトくんは自分の隣に座るように指示した。アヤトくんはそれに従っていた。
「チッ」
舌打ちしながら。
「と……、小森さん。いつまでもそんな隅っこにいないで座りなよ。あ、でも変わんないか。皆が座るから小森さんは端っこだ」
いきなり私に話を振ってきてびっくりした。そこで私は、ずっとぽつんと立ったままだったことに気づいた。それにしてもこの違和感。ユキトくんは丁寧だけど、話すことは辛辣っぽい。やっぱりここの兄弟なんだと思った。そして何より、
「チチナシのことなんか気にすんなよ、お前は俺様のことだけ考えてろ」
ユキトくんは異常に兄弟たちに好かれている。特にアヤトくんが。会って数時間だけど、私はそんな風に感じた。それにアヤトくんはユキトくんが『女嫌い』だと言って私を牽制してくるくらいだ。
「アヤトのことだけだと頭が痛くてやだな。それに、俺は小森さんのことなんて気にかけてすらいないよ。ただ気まずそうにしてたから声をかけただけであって他意はないよ」
「……あ、あのユキトくん」
違和感の正体が分かった。
「ごめんね、小森さん。俺は女の子が苦手なんだ。だからあんまり話しかけたりしないでね? あ、でも俺から話しかける時は大丈夫だよ」
「はい、……分かりました」
兄弟たちと話すときは優しい顔をするのに、私が話しかけると途端に無表情になるのだ。私はそのことに動揺しながら答えた。
「ボクと違って、ユキトくんは女の子苦手だもんね〜」
「ユキトに不用意に話しかけたりしたら僕が許しませんから」
目の前に座っているカナトくんと、その横に座っていたライトくんはそう言った。
「つーか、ユキト。お前甘い匂いすんだけど」
横にいるアヤトくんはユキトくんに顔を近づけた。
「マカロンの匂いでしょ。カナトとライトにやったやつ」
ヴァンパイアだから鼻が良いのかもしれない。だって私には分からなかったから。
「はぁ!? 俺様にはねぇのかよっ!!」
「甘いの好きだった? アヤトは俺と同じで、好きなのはたこ焼きだろ。だから作ってないよ。作るとしたらまた今度」
ユキトくんはアヤトくんを宥めるのが得意なのかな。アヤトくんが他の兄弟に従うなんてあり得ないけど、ユキトくんにだけは従っている気がする。
「ふん、……忘れんなよ」
ユキトくんの好きなのはアヤトくんと同じでたこ焼きなんだ。なんかそこだけ可愛いなんて思ってしまった。
「もういいですか貴方たち。せっかくの食事が冷めてしまいます」
レイジさんが二人の会話を止めた。
「ごめんね、レイジ兄さん。あ、シュウ兄さん起きてる?」
謝ったユキトくんは隣に座っているシュウさんを揺り動かす。
「ふぁ……、ああ」
あくびをしたシュウさんは返事をした。
「嘘つけ、テメェ寝ぼけてんだろ」
シュウさんの目の前に座っていたスバルくんがシュウさんに向かって言う。
「突っ込みお疲れ、スバルくん」
あ、やっぱりスバルくんは突っ込み役だったんだね。
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