あー、うぜぇ。
こんな月が綺麗な夜はあいつのことを思い出す。
幼い俺の手を引いてつれて行かれ、あいつに見せられたのは月だった。
満月より三日月が好きなのだとあいつは言っていた。ヴァンパイアなのにそれはおかしい。俺はそう思った。ただでさえ力が弱くてすぐにでも消えてしまいそうなあいつ。満月でないと碌な魔力も使えないくせに、にっこり微笑みながら、『俺はそれでも三日月が好きなんだ』と言ったのだ。
「消えちまったのかもな……」
なんの連絡もこねぇし、やっぱあいつは
「誰が?」
「っ!?」
「あはは、いい表情(カオ)だね。スバルくん。ねぇ、シュウ兄さん」
「そうだな」
いつの間にか、開けられていた部屋の扉から入って来たのはユキトとシュウだった。
「テメェ、……いつ帰って来やがった」
二人を、というかユキトを睨んで俺はそう言った。
「今さっき、かな。他の兄弟にはもう会ってるからスバルくんが最後」
……ああ、一番最初に会ったのは小森さんだった。
「チッ」
兄弟の中でも最後、そして兄弟でもないあの女が先にユキトに会ったのにムカついて舌打ちした。
「……眠い」
「シュウ兄さん、先に行ってなよ」
「そうする」
ユキトに言われたシュウは俺のことなんて気にせずに、呑気にあくびをしてから去っていった。
「うーん、……会わないうちに背を越されたな。ね、今何センチ?」
「うっせ」
「質問に答えなよ、……俺のことを『ユキトお兄ちゃん』って言って、子ガモみたいによく引っ付いてきてたスバルくん?」
そうだった。こいつはこんな性格だったのを忘れていた。確かに、幼いころはユキトに遊んでもらった記憶はあった。だが……
「子ガモって何だよっ!? 俺は鳥類じゃねぇ、ヴァンパイアだ!!」
「おや、スバルくんはいつからお兄ちゃんっ子属性から、突っ込み属性にジョブチェンジしたのかな」
「ちっげぇよ!! ざけんな……」
「ははは、で?」
「……178」
「てことは4センチ差か、でも……さみしがりやなのは変わらないんだね、スバル」
さっきから俺の服の裾、握ってるあたり。
「悪ぃかよ」
ユキトから目を反らして俺はそう返した。
「いやいや、別に」
「俺は、……お前がどっか行っちまいそうだから足止めしただけだ」
「なるほど、スバルくんは会わないうちにツンデレ属性になってたんだね」
「だから、ちげぇよ!!」
「ほら、行くよ。レイジ兄さんが晩餐だって言ってた」
裾を掴んでいた俺の手を、ユキトは自分の手と繋いで引いた。
「……ん」
幼いころならまだしも、今の俺は柄にもなくそれが嬉しかっただなんて、ぜってぇこいつには言わねぇ。
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