Kidnapping
・不老長寿主。逆巻、無神、リヒター+カールハインツ 月浪総出。
・娘2才、息子1才設定。
・視点が変わります。
結局、私はゲスハインツとリヒターとの子どもが出来た。私の予想通り、銀髪に緑メッシュで死んだ赤目の赤ん坊だ。一体私の体はどうなっているんだろうか。ともあれ、父親がゲスくても子どもは可愛い。名前はヒカル。死んだ目をした子に皮肉な名前にしてしまったが、良しとしよう。子どもと言えば、ルキとの間に出来たのは女の子で、名前はルイ。二才と言えど、父親譲りな性格になったが可愛い子だ。私のような死んだ目にならなくて良かった。
「ママ」
「どうしたの」
「だっこ」
私がヒカルを抱いていると、ルイがだっこをせがんで来た。性格が似てはいても、所詮幼子。可愛い。
「ちょっと待って」
私はヒカルをベビーベッドに降ろした。
「うー」
死んだ目に見つめられるのはちょっと怖い。ヒカルはご不満なようだ。
「少し我慢して」
そう言ってルイをだっこしようとルイに近づいた時だった。突如として、部屋の窓ガラスが割れ、大きな音が響いた。何事かと思って振り返ろうとすると、私は誰かに羽交い締めにされてしまった。
「ママッ!!」
「貴様がユリアか」
「……不本意ながら」
耳元で聞こえてきたのは月浪の長男の声だ。目の前のルイは私のことを心配している。そして、カルラに睨まれているのか、動くことができないでいた。
「兄さん、あいつらが気づいた」
どうやら弟も一緒らしい。というか、いつも二人セットな気がする。
「うーっ!!」
ベビーベッドに寝かせているヒカルは手足をじたばたしているのか、ベッドが揺れる音がしている。
「うるさいな」
「子どもには手を出さないでよ」
シンに向かって私は言った。
「貴様が大人しく私たちと来るのなら手は出さん」
「……分かった」
ああ、こいつらも私の変な力のせいでこうなったのか。
泣き出すルイとヒカルの二人に目もくれず、カルラは私を抱えると部屋から出た。もちろん、あの割れた窓ガラスから。シンもそれに続き、屋敷を後にした。
――屋敷
子どもをあやしているはずのユリアの部屋の方から、ガラスが割れる大きな音がした。それに気づいた逆巻と無神の兄弟はもう一つのことも察知した。それは、自分たち以外のヴァンパイアが二人いることだ。考えずとも狙いはユリアだ。兄弟たちは彼女の部屋に急いだ。
そして、近づくにつれ、部屋からはルイとヒカルの泣き声が聞こえてきた。一番先についたルキが部屋の扉を開けると、そこにはユリアの姿は無く、割れた窓ガラスと二人の子どもだけがいる状態だった。
「なっ!? ルイ、ユリアはどこだ」
「うわーんっ!! ママが、ママが」
ルキは自分の娘、ルイにユリアの所在を聞くが、ルイは取り乱したままルキの足にしがみつき泣いていた。部屋の中は、ルイとヒカルの大きな泣き声が響く。
「遅かったか」
「まだ気配が近い、あなたたちはそれを追いなさい」
やって来たシュウとレイジ、そして他の兄弟たち。レイジが指示を出すとすぐにユリアと、彼女を拐った二人の気配を追った。
「俺も」
「あなたは子どもがいるでしょう。ユリアさんも大事ですが、子どもを安心させるのも親の勤めです」
ルキはレイジに言われて自分が我を忘れていたことに気づいた。自分には娘がいる。たとえユリアが心配だとしても、母親を目の前で拐われ、不安になっている娘を置いて行くことなどできない。
「……」
その歯痒さに声もでなかった。
「穀潰しはさっさと探しに」
「俺はこいつ見てるから」
いつのまにか泣き止んでいたヒカルを腕に抱いて部屋のソファーに座っているシュウがレイジにそう言った。
「あなたはユリアさんが心配ではないのですか」
「心配してる」
「なら」
「あいつらが行ったなら大丈夫だろ。それに――」
それに、あの二人があいつらより早く向かってる。
シュウが言うあの二人とは、自分の父親のカールハインツと叔父のリヒターのことであった。
――森「このまま行けば、逃げ切れる」
「急ぐぞ」
ヴァンパイア、それも始祖の血を持つ二人は足が速い。そのせいで抱えられている私は早送りで過ぎ行く景色に目が回りそうになっている。すごく気持ち悪い。
そう思っていると、いきなりカルラが動きを止めた。隣で並走していたシンもだ。突然止まったことで私は更に気分が悪い。
「ユリアを返してもらおうか。月浪の者」
いつになく真剣なゲスハインツが格好いいとか思った私はおかしい。そして、隣でたたすんでいるリヒターの顔は険しい。死んだ目が光を少し宿して鋭く睨んでいる。
「くそっ」
「……返す気はない」
「だが、今のお前たち二人だけでは到底叶うまい」
そして、二人の後ろから現れたのは三つ子、そしてコウ、アズサだった。皆顔が怖い。
人数的に言えば月浪兄弟は不利。
「それはこの女がいなければの話だ」
「そうだよ、こっちには人質がいるんだっ」
人質……。ま、そうか。私は人なのかなんなのか分からないが。
「どうだか、なっ!!」
「っ!?」
後ろから聞こえてきたのはユーマの声。カルラに加えられた衝撃は彼の殴打によるものだろう。そして私はカルラから助け出された。
「大丈夫か? ユリア」
私をカルラの腕から引き離したのはスバルだった。
「兄さんっ!!」
「動くな」
「!?」
「形成逆転のようだ」
カルラのもとへ向かおうとしたシンを止めたのはカールハインツだった。心臓を貫かんとする銀のナイフがシンの胸元に煌めいている。
「さあ、これでお前たちは一族の望みを叶えることなく死ぬ」
私の記憶はそこで途切れている。私を支えているスバルが私の名前を呼んだ気がするが、答えることなく視界は黒くなっていった。あれだけ気持ち悪かったのだ。倒れてもおかしくない。
そして今に至る。
「また来たの」
私が倒れたことにより意識を月浪兄弟からそらしたカールハインツからシンを助けてカルラは逃げたらしく、懲りもせずに月浪兄弟は私の元にやってくる。
「諦めはしない」
「さっさと帰れ」
拐われた日の後、月浪兄弟から私を守るようにして兄弟の誰かが一人か二人つくことになった。今日はルキとシュウだ。シュウはヒカルが気に入ってるのかなんなのか分からないが、ソファーに寝そべる自分のお腹の上に乗せてあやしている。
月浪兄弟と睨み会ってピリピリしているのはルキである。
「ママ、……パパ怖い」
うん、私もそう思う。
「……めんどくさい」
シュウの口癖が私にも移ったようだ。
私はルイの頭を撫でながら呆れ顔をするのだった。
@@後書き@@
・長くてごめんなさい。そして長男贔屓でごめんなさい。兄弟が空気になってる。人数が多いといつもこうなります。申し訳ない。
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