You who don't notice the classical music which isn't heard
スバル成り代わり
シュウ視点
俺は今、とても幸せな気持ちだ。あいつらに自慢してやりたいくらいに。
ただユリアが側にいるだけでこんなにもどきどきしてしまう俺に、ユリアは気づくだろうか。
リビングのソファーで、自分と同じメーカーのイヤホンをしながらゲーム機で遊んでいたユリアの隣に座り、俺は横から彼女を眺めていた。
いつもは無表情(感情を顔に出さないだけ)の彼女はゲームをする時にだけ見せるその顔が好きだ。その表情を出させているのがゲームなのが気に入らないが。
ショートボブの綺麗なピンクがかった銀髪にルビーのような紅い瞳。ウサギみたいで可愛いのに、彼女は何故か格好良い。
男だらけの中にいたせいか、彼女の口調は男みたいで、性格でさえも俗に言う『イケメン』だ。
「……なあ」
そんなことを思っていると、今までゲーム画面を見ていた彼女が俺に顔を向けて話しかけた。
「なんだ?」
「兄さんはクラシックに詳しかったよな」
「ああ」
「じゃあ、この曲分かるか?」
そう言って彼女は片方のイヤホンを耳から外し、俺に差し出した。その動作ですら格好良い。ああヤバい、なんかどきどきしてきた。
「ん」
差し出された片方のイヤホンを俺は自分の耳に入れる。そして聴こえてくる音楽に耳をすませた。
音符と音符が複雑にからみあい、もつれあって生まれるフレーズ。わざと聴き手をはぐらかし、逃げまわるような音律が織りなされていく。この曲は
「ゴルドベルグ変奏曲」
「ごる、ど……?」
あ、今のは可愛い。
「ゴルドベルグ変奏曲な。バッハって言うおっさんが不眠症患者のために作った曲」
ゆったりとうたうように流れていくのは序曲のアリアだけ。
「二曲目から始まる三十の変奏曲はめまぐるしくハイテンポ」
曲の説明をしてやるとユリアが俺に感心していた。
「やっぱ兄さんってすげぇ。この曲、これの主人公にぴったりな曲だったんだな」
「何で」
「今操作してるこの男。こいつが主人公なんだけど、設定が不眠症らしいんだ」
片方ずつイヤホンをつけたまま、気にせずにゲームを操作するユリア。
そういえば、俺は彼女にかなり近づいていたんだった。ダメだな、イヤホンから絶えず流れている曲が聴こえない。どれだけユリアを意識しているんだ俺は。
「……と、セーブするか」
一緒にイヤホンをつけたまま数時間。ユリアはそう言った。軽く拷問に近かった。途中ラフマニノフの曲も流れたが、それよりも隣の彼女にどきどきしていたせいで頭に入らなかった。
「って、イヤホンつけたままだったの忘れてた。悪い、兄さん」
暇だったろ?
ゲームに集中していたことをすまなさそうに言うユリア。
「いや、大丈夫だ」
俺の心は大丈夫じゃないけど。
「なら良いけどよ。ほら」
右手を出して彼女は催促する。
「……ん」
あんなに拷問だと思っていたのに、一緒にしていたイヤホンを外すのが名残惜しく感じた。
「ありがとな、兄さん」
やっぱり俺の妹は格好良すぎる。
@@後書き@@
・実は成り代わりスバルとシュウの組み合わせが一番好きです。書きながら、どうすればシュウが乙女っぽく『きゅんきゅんどきどき』してくれるのかを妄想(←気持ち悪い)してました。うちの成り代わりスバルはイケメン(女の子)ですが、鈍いのでシュウの気持ちに気づきません。それを見て、他の兄弟達が『ざまあ』とか思ってればいいと思います。
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